09・妹
「異世界に召喚されたで思い出したんだけどさ。俺がトラックに
跳ねられた原因...それは妹からコンビニでプリンを買ってきてと、
強引に外に叩き出されたからだったんだよな.....」
そして今そのプリンは手元にない。
「こ、これはマズい!?い、い、急いでプリンを買って帰らないと
妹から嫌われてしまうじゃんかぁぁあっ!!」
俺は可愛い妹から嫌われない為、プリンを買うべく大慌ての猛ダッシュで
コンビニへと激走して行く。
「おお!脚力が落ちてないっ!?」
スゲェ!
力いっぱい走っても全然息切れしないじゃん!
「メリアーナの言った通り、勇者の力はちゃんと残っているんだな!」
この勇者の力は、魔王を退治したご褒美らしい。
勇者の力を貰うか貰わないかの選択が一応あったけど、
「当然『貰う』を選択するよな。力が欲しいっていうのもあるけどさ、
この力とは五年間一緒にやってきたんだ......」
この力は、もう俺の一部なんだよ。
それが無くなってしまうのはさ、何か寂しくて嫌だった。
「......ってな訳で、これからも頼むぞ、俺の相棒♪」
俺は自分の身体をポンポンと叩いて、軽くウインクをする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ありがとうございました~♪」
「ふう~危なかった。最後の一個だったぜ!」
流石は大人気のプリンさんだね。
俺はコンビニを出ると、レジ袋の中に入っているプリンを見て安堵する。
「さてっと、プリンも無事に買えたしさ、家に帰るとするか!」
しかし久しぶりの我が家だな。
「両親や妹は元気しているかな?」
...って、元気にも何も、こちらの世界では家を出た間の時間しか
経っていないんだったわ。
「お、そう言っている間に家に着いたっと!」
ああ......懐かしいなぁ。
俺は五年ぶりに見る我が家を見て、感涙に浸る。
「ただいま~」
目尻に溜まっていた涙をソッと拭うと、俺は家のドアをガチャと開けて
家の中に入って行く。
「あ!おっかえり~お兄ちゃ~ん!」
俺が家に入ると、向こうから妹が元気良くトタトタとこちらに駆けてきた。
それを見た俺は、
「おおぉぉおっ!ただいまぁぁぁあ~我がマイエンジェルよぉぉぉおっ!!」
「―――は、はぃぃいぃぃい!!?」
あまりの懐かしさに、内なる衝動を抑える事が出来なくなってしまい、妹に
向かって大きくジャンプして飛び付くと、力強くギュッとハグをした。
「懐かしい、懐かしい妹の匂いじゃあ...成美の香りじゃぁぁあいっ!
クンクンクンクンクンクゥゥウゥゥンッ!!!」
「ち、ちち、ちょっと、おお、お、お兄ちゃん!?ー――はうっ!!?
に、匂いを嗅ぐなぁぁぁあ、この変態兄貴ぃぃぃぃいいっ!!」
「ー――――ボゲッ!!?」
俺にハグされた事で顔を真っ赤になっている妹...成美から、やめろと怒りの
込もったゲンコツを思いっきり頭上に叩き落とされた。
「もう!ど、どうしたのよ、お兄ちゃん!?さっきまであんなに落ち込んで
いたのに、なんかとっても元気が....ひ、引くくらい良いんだけど.........って、
はっ!?も、もも、もしかしてさ、お兄ちゃん!?あのクソ浮気女の事を
やっと吹っ切ることが出来たのっ!?」
ク、クソ浮気女って......ちょっと口が悪いぞ、我が妹よ。
......まあ、そのクソ浮気女って言葉、俺も数えきれないくらいに何度も
言いまくったんだけどね。
俺は異世界に転移してから最初の頃、この言葉を力へと変換し、魔物や
魔族どもと戦っていた事を思い出すと、うんうんと頭を下げて懐かしむ。
「それよりも、ほれ、ご希望のプリン買ってたぞ~♪」
俺はレジ袋の中からプリンを取り出し、成美にポイッと手渡す。
「おほう!これ買えたんだ!超入手困難のプリンなのに、やったぁっ♪」
成美は俺の買ってきたプリンを天高く抱え、小躍りして喜びを表す。