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01・彼女と俺


―――俺...光野溯夜(こうのやくや)には大好きだった彼女がいた。


―――が、今はもういない。


―――別に亡くなったとかではない。


―――ただ単に振られただけだ。


「......何も言われずに、一方的に...だけどね」


振られた彼女とは中学生の時、同じクラスメイトだった。

学年が変わり、新しい教室の中に入った時、俺と彼女と目が合った。

そしてその瞬間、俺は恋に堕ちていた。

それからというもの、誰が見ても語っても陰キャラの俺だったけど、
だからといって、この気持ちを諦めたくなんてなかった。

だから俺は彼女を好きだ恋人にしたい、この燃える様な熱き情熱を
糧とし、心を強引に奮い起たせて(ブーストさせて)後押しする。

そして不器用ながらも懸命と頑張って、何度も何度も俺はあいつに
対して、好きだ大好きだというさりげないアピールを続けていく。

勇往邁進で挑んだそんなアピールアタックが、かれこれ百回を
越えた頃、

もうこれ以上、彼女と恋仲になりたいという衝動を抑える事の
出来なくなった俺は、

「今日こそは彼女に告白するぞ!」

...と、いう決意を固める。

そう思ったが吉日だといわんばかりに、俺はあいつをドキドキの
緊張の中、屋上へと呼び出した。

そして「キミと恋人関係になりたい!」ただそれだけの純粋な気持ちと
情熱なる思いの乗った告白を、ブルブル震える口で拙いながらも何とか
あいつに伝えていく。

するとあいつは静かに顔を下に傾かせると、しばらくの間沈黙を続ける。

その数十後、顔をゆっくりと上げてニコッと俺に微笑みを浮かべると、
目の前に右手をスッと差し出してきた。

俺は信じられないとばかりに「これってOKの印......だよね?」と恐る恐る
確認すると、彼女が頬を赤く染め、頭を小さくコクンと下げた。

それを見た瞬間、歓俺は喜のあまり、声が渇れてしまう程の咆哮をし、
差し出された彼女の右手を強くギュッと握ると、その場を思いっきり
ジャンプし、彼女の周りを喜びの舞でクルクルと回っていく。


―――こうして俺の恋心は見事成就し、あいつと付き合う事となった。


それから俺とあいつは、色んな場所(デート)に行った。

映画にカラオケ、ゲーセンにボーリング。

そうそう、あいつのショッピング...服選びにも良く付き合わされた。

あれはホント辛かったな。

だってその服選び、何時間も掛けるんだぞ。

俺は内心で勘弁して下さいよといつも嘆いていたっけ。

まぁそうは思っても、服を選んでいる彼女の姿も好きだったので、
結局イヤと言う事もなく、あいつのショッピングには付き合うんだけどね。

「.........本当、楽しかったなぁ」


―――だが、そんな楽しいひとときにも終わりがくる。


そう、あれはあいつと付き合い初めてから、約半年くらいの月日が
経った頃の放課後の帰り道だったっけ。

「実はね、溯夜くん。わたし......三週間後の火曜日に転校する事に
なっちゃったんだ......」

「―――え!?」


―――彼女にから突如そう告げられたのだ。


それから三週間後、

彼女は宣言通り、親の都合という理由のせいで遠くの県へと
転校して行った。

離ればなれになってしまった俺と彼女だったが、しかしそれでも俺達の
関係は消える事なく続いた。

簡素通信アプリ「リンレス」でのたわいのないやり取りや、彼女の声が
聞きたくなった時は、直接電話をして彼女との会話を楽しんだ。

俺達はそんな関係を毎日続けていた。

「うんうん、そうだね!いつかまたデートしたいよねぇ♪」

「だよね。でもその願いを叶える為にはさ、バイトをもっと頑張って
運賃や旅行費を稼がなきゃいけないよな。でもバイト料少ないから
資金を貯めるのは大変だなぁ......」

「あはは♪わたし達のデートの為にも、そこはしっかり頑張って
稼いでよね、溯夜くん♪」

「応!頑張るよ、俺♪」

俺達はいつか絶対に再開してデートをしようなと、彼女と約束を
交わした後、夜も遅くなってきたので惜しみながらも電話を切り、
俺は彼女との楽しいデートの日を夢見つつ、布団を被って眠りへとつく。


―――そんな日など永遠に来ないとも知らずに。


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