どこの世界でも
「じゃあ、あの時計台の前で三時間後に」
「はい、ありがとうございます」
アリッサは街の入り口でケヴィンと別れた。
ブオーマの街は前世で言えばヨーロッパの街並みに似ていた。
オレンジや緑の屋根、煉瓦の壁の家々、窓枠には綺麗や花の植木鉢が並ぶ。
デパートやスーパーみたいなものはなく、肉は肉屋、パンはパン屋、野菜や八百屋と言う感じで、それぞれ売るものごとに店が決まっている。
アリッサは暫く街並みを眺めながら周囲を散策した。
「あ、あったあった」
暫く通りを歩いてアリッサは目当ての物を売っている店を見つけた。
もうすぐ看護学校時代の仲間レイリアの誕生日なので、何かプレゼントをと思って雑貨屋へやってきた。
「付いてこないで、一人で行けるわ」
アリッサが店に入ろうとすると、入り口のところで小さい女の子が使用人らしき女性に叫んでいた。
「でも、お嬢様」
アリッサとそれほど変わらない年頃の彼女は、自分よりずっと幼い少女の対応に困り果てているようだ。
そんな二人を横目に見ながらアリッサは店の中に入った。
「いらっしゃいませ」
店主らしき中年の男性がアリッサを出迎えた。
店の広さはそれほどでもないが、ざっと見たところ置物から装身具、子供用から年配の方向けの物まで品揃えはかなりのものだった。
「何をお探しですか?」
「友人に誕生日の贈り物を探しているんです。少し見ても良いですか?」
「もちろん、ゆっくり見ていってください」
アリッサは店内を見て回り、綺麗な小瓶に入ったハンドクリームを選んだ。あまり高価だと彼女も気にするだろうし、使って減る物の方がいいだろう。
「すみません、これを贈り物用にラッピングしていただけますか?」
「わかりました。少々お待ちください。こういうのは妻に任せているので。これお釣りです」
アリッサからお金をもらい、釣りを渡すと店主は奥へ引っ込んだ。
それと同時にさっき入り口で文句を言っていた女の子が一人で入ってきた。
赤い髪がパッと目を引くちょっとぽっちゃりした女の子は、ずかずかと店の奥へと歩いて行く。
(どこかの貴族のお嬢さんかな)
使用人がいたから、いいところの子なのは間違いない。着ている物もかなりいいものだ。
(でも、ちょっとゴテゴテしすぎじゃない?)
フリルとリボン、レースをこれでもかとあしらった派手派手ピンクのドレスは、少々ぽっちゃりな彼女が着るとさらに身体を大きく見せている。
髪も顔の横で結んだツインテール。そのツインテールも大きなリボンで顔を更に強調している。
それが彼女の趣味なのか、周りの趣味なのかわからないが、センスがないことは確かだ。
(ま、私には関係ないけど)
少女はブラブラと店内を物色しながら、なぜかアリッサの方をチラチラと見ている。
目が合った気がして、ニコリと微笑んだが、すぐに目を逸らされてしまった。
(愛想のない子ね)
背格好は似ていないが、ブリジッタの妹リリアンを思い出す。
小さい頃からブリジッタの持っている物を何でもほしがって、結局ブリジッタが折れるということが多かった。
ジルフリードのこともそうだ。
ブリジッタとの婚約を解消してから、ジルフリードは誰かと婚約したのだろうか。
さすがにリリアンはないだろうと思いながら、そんなことを考えていた。
「あ」
アリッサは、目の端で少女が櫛を服のポケットにしまうのを見た。
そして少女はそのまま店を出て行こうとしている。
(え、この世界でも万引きってあるの?)