314章 動物たちを失った悲しみ
宿屋に見覚えのある顔がやってきた。
「おじゃまします」
サクラの母親は、ミライを出迎える。
「ミライさん、こんにちは」
ミライはあるものを布でくるんでいた。中身は見ていないものの、絵であると確信した。
「サクラちゃんに、絵を届けに来ました」
サクラの母親は、ていねいに頭を下げる。
「ミライさん、ありがとうございます」
「とってもいい絵を仕上げたので、大切にしてくださいね」
サクラの母親は、ミライの絵を受け取った。
ミライの視線は、こちらに向けられることとなった。
「アカネさん、カスミン、お久しぶりです」
アカネ、カスミの順番で挨拶を返す。
「ミライさん、お久しぶり」
「ミライさん、お久しぶりです」
ミライは腕を気にする。絵をかき過ぎたことによって、違和感を覚えたようだ。
「アカネさん、回復魔法をかけてください」
「わかった」
ミライに回復魔法をかけると、彼女は元気を取り戻すこととなった。
「ありがとうございます。昨日までの疲れを、完全に解消できました」
「ミライさん、働き過ぎないようにしてね」
「わかってはいるのですが、頑張りすぎてしまうんです。回復魔法で治療をするとしばらくは良くなるんですけど、すぐに体調不良になってしまいます」
自分を犠牲にして、他人のために尽くそうとする。「なごみや」にいたときから、まったく変わっていなかった。
「ミライさん、体をしっかりと休めようね」
「そうですね。今日はゆっくりと休みます」
『「なごみや」はどんな感じなの?』
「ペットの仕入れに、時間を要しています。建物は元通りになっても、失われた命は戻ってきません」
アカネの魔法では、命を取り戻せない。ペット屋の力になるのは難しい。
「おかあさん、ハルキはペットと会えなくて、とても寂しそうにしています」
ミライの母、ハルキはペットをこよなく愛している。そんな二人にとって、ペットのいない生活はハリがないのかもしれない。
「ペットといられない寂しさを、紛らわせてほしいです」
「どうすればいいの?」
ミライは顔を少しだけ赤らめた。
「ハ・・・・ハ・・・・・」
2文字目をいわない時点で、ハグであることを察する。ミライの心の栄養になればいいという思いで、体を寄せることにした。
「アカネさん、ありがとうございます」
カスミは二人のハグが羨ましかったのか、
「アカネさん、カスミンもハグしてください」
といってきた。アカネはそれに対して、小さく頷いた。