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「よしその前に体を綺麗にしようか?」
そう言って子供を抱き上げたまま歩き出すと
「えっ…えっ!」
子供が狼狽え落ちないようにとしがみついてきた。
「一緒に風呂に入ろう!朝風呂なんて気持ちいいぞ!」
笑って子供を外へと連れ出した。
家の隣にある建物に行くと子供を降ろす。
「ここがうちの風呂だ、いつでも入っていいからな。ここで服を脱いだら向こうの部屋にいって体を洗うんだ。服は一人で脱げるか?それとも脱がしてやろうか?」
俺が聞くと子供は、首をブンブンと勢いよく横に振りのそのそと服を脱ぎ出した。
その様子に俺もいつもの様にパッパと服を脱ぐ。
すると子供がじっと自分を見つめていた…
「どうした?」
タオルを腰に巻きながら子供に聞くと
「からだ…すごい…いっしょ…」
子供は驚いた顔をしていた。
確かに自分の体は人よりは鍛えてはいるがどうやら子供が気になったのは体中にある傷の様だ…見ると子供の体にも、もう治ってはいるが切られたり叩かれたり火を押し付けられたような傷痕があった…
「俺は…仕事でついた昔の傷さ…これはしょうがない傷。だがお前のは駄目な傷だ…もうそんな傷をつけるんじゃないぞ…」
子供はわかっているのか…こくんと頷いていた。
「よし!」
二人とも服を脱いだ所で坊主を連れて浴槽に連れて行く、すると広いお風呂に驚いたように目を見開いていた。
「どうだ、結構いいだろ?自慢の風呂だぞ、早速体を洗って入ろう」
俺は子供を前に降ろすと石鹸を取り出し頭から爪の先まで入念に洗う。
「染みるかも知れないから目は閉じてるんだ」
子供は、嫌がる素振りも見せずにじっと耐えていた…
「大丈夫か?痒いところはあるか?」
そう聞くと、ブンブンと首を振る。
「痛いところはあるか?」
ブンブン!
「気持ちいいか?」
ブン!…コクン…
泡が飛び散り思わず笑うと
「じゃあ流すぞー」
浴槽からお湯をすくってバサッーと頭から流した。
「わぁ!」
今まで声すらあげなかったのにお湯に驚き飛び跳ねる!
「悪い、染みたか?」
顔を覗き込むと…
「あったか…い」
子供は恐る恐るお湯に触れるとビクッと手をはなす。
「お前…お湯ははじめてなのか?」
「おゆ…」
「温かい水の事だ…体を洗う時はどうしてたんだ?」
「あめ…あらう」
子供が首を傾げて答える。
「そうか…これからはここで温かいこのお湯で体を洗うんだぞ!わかったか!」
コクコク
子供は一生懸命頷いていた。
俺は子供を二度洗ってやる、二回目にお湯を被る時には温度に慣れたのか気持ちよさそうに頬を赤くしてお湯を受け入れていた。
「子供は順応が早くていいな」
泡を綺麗に流すと子供を抱きあげ湯船に浸かる。
「熱かったら言うんだぞ」
子供が頷くのを確認してゆっくりとお湯につけていった…足がお湯に当たるとピクンッと反応するがその後は気持ちよさそうに体の緊張が解けて行くのがわかった。
「気持ちいいか?」
坊主を自分の膝に乗せて朝風呂を楽しむ…坊主を見ると同じように顔を緩ませ、コクンと頷いた。
「そうか…あんまり長く入ってものぼせちゃうからな、あと10数えたら出よう」
「じゅう…」
子供が振り返って顔を見つめる。
「数字の事だ、教えるから覚えてごらん…いーち、にー、さーん…」
俺が数えるのをじっと真剣に聞いている。
「……きゅー、じゅう!これで1から10だ!ゆっくりでいいからな一緒に言えるようになろう」
そう言って子供を抱き上げると風呂から出した。
妻が用意してくれたふかふかのタオルで拭いてやっていると…
「もう出ましたか?」
妻がガラッと扉を開けて入ってきた。
「お、ちょうど出たところだ」
拭かれている子供を見ると…
「あらじゃあ私が変わります。あなたは自分を拭いてしまって下さい」
笑いながらタオルを受け取った。
妻が優しく子供を拭き終わると
「新しい服を用意しておいたの…どうかしら?」
真新しい服を子供に着せて見せてくる。
「似合ってるぞ、あとは髪を切れば完璧だな」
そう言ってまだ少し湿った髪をぐしゃぐしゃと撫でてやった。