155章 0.01パーセントの奇跡
ミサキはパン屋にやってきた。
「ミサキちゃん、いらっしゃい」
「ホノカちゃん、こんにちは」
ホノカの顔色は、一日ごとによくなっていく。元気になっているのは、はっきりと伝わってきた。
「ミサキちゃんの写真集を買った。アヤメちゃんに負けないくらい、きれいだったよ」
ミサキは恥ずかしさ、嬉しさの両方で、顔は真っ赤になった。
「サイン入りの本をゲットしたの。一生の宝物にするつもり」
0.01パーセントの、サイン付きの本をゲットする。ホノカは豪運の持ち主である。
「ホノカちゃん、おめでとう」
ミサキはトレイを取った。今日は70~80くらいのパンを購入するつもり。パンをたっぷりと食べて、エネルギーをつけたい。
ホノカが勤務してから、パンの味は3~4割ほどおいしくなった。調理スキルについては、相当なレベルにある。
店の中のパンを選択しようとしていると、ナナと顔を合わせる。
「ミサキちゃん、こんにちは」
「ナナちゃん、こんにちは」
「写真集はとってもよかった。私もあんなふうになりたかった」
ナナはアイドルとしてやってきたけど、一度も写真集を販売してもらえなかった。彼女は夢をかなえることなく、アイドル業界から消えていった。
「ミサキちゃん、アヤメちゃんのプレミアサインは、10年後、20年後も大切にするね」
ホノカだけでなく、ナナもサインをゲットしていた。0.01パーセントの確率は、でっち上げなのかと思ってしまった。
ナナはすぐさまクリームパンを、トレイに乗せていた。彼女のお気に入りであることが、こちらにも伝わってきた。
「ミサキちゃん、クリームパンはとってもおいしいよ」
ナナがここまでいうのは珍しい。ミサキはクリームパンを、優先的に購入すると決めた。
クリームパンをトレイに乗せる前に、ホノカから注意された。
「ミサキちゃん、他のお客様の分を残しておいてね」
「わかった。5つくらいは残しておくね」
「ごめんね。他のお客様にも、パンを自由に選べるようにしたい」
ミサキは1種類のパンを、3~4くらいトレイに乗せる。
「ミサキちゃん、1日で食べるつもり?」
「うん。1日で食べる予定だよ」
「体はとっても細いのに、食べ物はどんどん入っていくね」
ミサキは苦笑いをする。
「10分の1くらいですんだら、生活は楽になるけど・・・・・・」
「大食いという特技を持っているから、いろいろな人に愛されるんじゃないかな。普通の食事量だったら、話題にすらなっていない」
ナナのいうことはもっともである。特別な能力を持っていると、人から注目されやすくなる。
ミサキはパンをレジの上に乗せたあと、ナナにおなかを触られることとなった。
「ミサキちゃんはとっても細い。私もこんなふうになれたらいいな」
ナナはアイドルをしていたにしては、ふっくらとした体形をしている。やせようとしても、なかなか痩せられない体型だったのかな。そうだとするならば、彼女はアイドルになったことが、間違いのように感じられた。
ホノカは会計を終えたあと、
「260ペソです」
といった。ミサキは代金を支払ったあと、大量のパンを受け取った。持ち運びをしやすいよう、巨大な袋に詰められていた。