149章 水着撮影当日
水着撮影のために、片道4時間の場所にやってきた。こんなに遠いところにやってきたのは、こちらに来てからは初めてとなる。
ミサキのおなかをリサーチしているのか、ハンバーガー30個、野菜ジュース20本、ポテトをふるまわれた。大量に飲食したことによって、体は事なきを得た。
ミサキはスクール水着に着替えたあと、アヤメの前に姿を現す。水着ということもあって、とっても恥ずかしかった。
「ミサキちゃん、今日はよろしく」
一度だけでなく、二度も一緒に仕事するとは。大食い少女、トップアイドルは、赤い糸で結ばれているのかもしれない。
「ミサキちゃんのスクール水着は、とってもよく似合っているよ」
ミサキは顔を赤らめた。恥ずかしさ50パーセント、嬉しさ50パーセントだった。
「ありがとう」
「ミサキちゃんが着用すると、とっても華やかに見えるよ」
「そんなことはないと思うよ」
アヤメの衣装を見ると、こちらもスクール水着だった。
「アヤメちゃんもスクール水着だね」
「そうだよ。私もスクール水着だよ」
「アヤメちゃんは、過激な水着を着用しないの?」
アヤメは静かに首を振った。
「過激な水着を着用する時点で、自分はダメアイドルといっているのと同じだよ。写真集を売れる人というのは、大衆に支持されるものをもっているので、露出で勝負することはない」
アヤメにいわれると、ものすごい説得力はあった。スタイルの細さは当然のこと、他人を引きつける顔をしている。
「私は体の露出ではなく、顔の露出にとことんこだわった。人間の第一印象は、顔で決まるといっても過言ではない」
アイドルのスタイルを見るよりも、アイドルの顔を先にチェックする。こちらでマイナス評価を取ると、挽回するのは難しい。
「顔色をよくするために、食べ物に力を入れた。食べ物で売れるわけではないけど、から揚げ、焼き肉、お菓子ばかりを食べたものは、100パーセントの確率で敗北していた。お菓子でできて
しまった顔は、アイドルとしては理想形ではなかった」
努力をしても勝者になれないけど、勝者になるものは必ず努力している。アヤメの言葉は努力の法則を、忠実に再現していた。
「私はマネージャーに頼んで、食材の成分まで分析させることもあった。意図しない添加物は、敏感肌にとって天敵になりうるから」
ストイックもここまでくると、狂気じみたものを感じる。
「生半可な気持ちでは、お金をもらうことは難しい。人間の感情を捨てたものだけが、真の勝者
になることを許される」
最大限の努力を続けた女性と写真撮影をしてもいいのか。ミサキの心の中には、大きな罪悪感が芽生えることとなった。