19話 決着
「少林寺!!術式開放!!蒼真天封神!!」
俺の体から青いオーラが立ち上る。
「あ?何だよそれ?」
アルフは余裕そうだ。
「少林寺、一の技、旋風脚。」
蒼いオーラを纏った俺の足から放たれる蹴り、それは以前とは比にならない威力を放ち、氷竜化したアルフに直撃した。
バギィィィイイイイイイ!!!!
「ぐああああああ!!!」
アルフは吹き飛ばされる。
「2の技、八卦掌。」
蒼いオーラを纏った俺の手から繰り出される手刀突き、それも以前とは比べ物にならない速さと威力を誇る。それが、氷竜となったアルフの体に刺さる。
「ゴホォオオ・・・。」
アルフが吐血する。
「どうなってやがる・・?コイツ・・なぜこんな技をすぐに使わずにとっておいた・・・!!いつの間にこれほどの力を・・!?」
俺が解放した蒼真天封神は、発動条件がある。それは、1~10までの少林寺の技を順番通りにすべて出さなければならない。
そして、技を出すごとに、1~10までの数字が1ずつ上がっていく。これが、蒼真天封神の条件なのだ。
蒼真天封神を発動すると、HPが全回復する。そして、MPが無限になる。さらに、ステータスが急激に上昇する。技の威力も上がる。
圧倒的な能力上昇による肉体の負荷に耐えるため、自動回復が補われている。まさに、俺の最強必殺技。
「く・・そがぁあああ!!!」
(馬鹿な・・?俺がこんなやつに押されているだと!!)
ケイは余裕そうにアルフを冷たい目で睨みつける。
「来いよ。」
氷竜は怒りの形相になり、ケイに突進してくる。
来いよ・・。正面からぶち破ってやる!!
「アイスブレイク!!!」
「十の技、双龍乱舞!!」
氷竜と化したアルフは、その巨体でケイを押しつぶそうとするが、それをひらりとかわし、両サイドから蹴りを入れる。そこから、ケイは空中へ飛び上がり、回転しながら両足蹴りを決める。
アルフは大ダメージを負い、変身が解け、人型に戻ってしまった。
「・・ごほぉ・・・く・・クソがあ・・・」
ケイは着地すると同時に、地面に手をつき、地面を蹴った。
そのままアルフに接近し、腹に膝を入れてから、回し蹴りで吹っ飛ばした。
アルフは血反吐を吐いて、倒れた。
「人を殺したいと本気で思ったのは初めてだよ。俺の平和な世界ではこんな気持ちになることはなかった。」
俺は倒れているアルフに向かってゆっくりと歩いていく。
アルフは敗北を悟り、怯えていた。
「もう終わりだ・・・。死ね・・・!」
「ま、待ってくれ!殺さないでくれぇええ!!!頼む・・・見逃してくれ・・・。金ならいくらでも払う!!だから・・・お願いします・・・。」
俺は拳を振り上げる。
しかし、とどめを刺そうとしたその時だった。
グッシャアアアアアア!!!!!
空中から何かが急速で落下し、俺の目の前にいたアルフを叩き潰した。
「なっ・・?!」
アルフはもはや塵と化していた。それほど落下した質量ダメージが大きかったのだろう。
俺の前にいたのは、リリス隊長だった。
「やぁ、間に合って良かったよ。君を人殺しにしなくて済んだ。」
「・・え?・・どういう・・ことですか?」
「君に死刑になってもらっては困るんだよ。だから、君が殺人を犯す前に私が彼を殺すことで、君を無罪にした。感謝しなさい。」
リリス隊長は笑顔を浮かべていた。
俺は、困惑した。
「・・・なぜです・・・。どうして、あなたは・・・。」
「私は正義の味方なのだ。悪は許せない。それが例え、どんな悪党であろうともね。」
「そうじゃありません・・・。なぜ、助けてくれたんですか・・・。」
「君は私のお気に入りなんだ。この国には君の力が必要不可欠。そんな人材を失うわけにはいかない。それに、彼は悪人だ。いずれ誰かが裁くべき存在さ。だから、私が代わりにやったまでさ。」
「・・・・・・・・」
「でも、君は法廷でのあの行動・・。到底許されることではないよ。君を拘束して、数日間は独房で過ごし反省してもらう。」
「城へは、戻りたくないです。・・・・だって・・こんな勝手なことして・・・ルリシア女王にも・・あんなこと言って・・」
すると、リリスさんが手を伸ばしてきて、俺の頬に触れた・・。
「ん?何勘違いをしているの?君は今日から私の奴隷になるんだよ。奴隷君、これは命令です。城へ戻って反省しなさい。」
俺はリリスさんの圧力に驚いた・・。逆らったら・・瞬殺される・・。
「・・・わかりました。・・・すみません・・・」
「素直でよろしい。では、ついてきなさい。」
俺は、リリスさんの後ろについていき、城の地下の牢獄へと向かった。
独房に入れられた。そして、ドアのカギを閉められた。
「奴隷君。今日から10日間しっかり反省してね。」
そう言うと、リリス隊長は言ってしまった。
暗い独房で一人になった。ボーっと考え事をする・・。
今日の自分の行いが正しかったかどうか・・。法廷で女王に逆らって、アルフを殺そうとした。
ケイは後悔していた。
なぜ自分はあのようなことをしてしまったのか・・・。
リリスの奴隷として召喚されて、奴隷になり、牢屋に入れられて、今に至る・・・。
もう本当に家に帰りたい。反抗期で、父や母とあまり会話をしていなかったなと思いだした。
2人に会いたいな・・。
コツ・・コツ・・コツ・・。
すると、廊下から誰かがこっちに歩いてくる音がする・・。
それは、俺のメイドさんのソフィアさんだった。
やばい・・。合わせる顔がない・・。
ソフィアさんは鉄格子を挟んで俺と対面した。
真顔だった。
「話はすべて聞きました。でも、安心してください。私がケイ君のメイドを降りることはありませんから。」
「あ・・あの、本当にすいませんでした・・。」
すると、ソフィアさんはため息をついた。
「絶対に許しません。この鉄格子のカギを開けてください・・。」
ソフィアさんは俺に殺気を放っている・・。
その冷酷な目が怖い・・。
「いや・・開けろっていわれても、内側から開けられたらダメじゃないですか・・独房だし・・・。」
そう言いながら、鉄格子を見ると、それは内側から鍵を掛けられるタイプのドアだった。
リリス隊長は俺が脱獄などしないと信頼して、この独房にしてくれていたのか・・。
「そうです。そのカギです。早く開けなさい・・。」
開けたら・・。お仕置きなんて可愛げのあるものじゃない・・。絶対半殺しにされる・・。
俺は震えだして、冷汗が流れ出した。
「どうしました?早く開けなさい・・。」
ゴンッ!!
ソフィアさんが鉄格子を叩いた・・。
怖い・・いやだ・・開けたくない・・
「・・ご・・ごめんなさい・・もう二度とこんなことしないんで・・・許してください・・・。」
「何を言っているんですか・・・。私は怒ってなんかいないですよ・・・?」
「えっ・・・だって・・・。」
ゴンッ!!ゴン!!
「いいから!!早く開けて!!早く・・」
心臓が口から飛び出そうなほど全身が震えている・・。どうすればいい・・。
開けるしかないのか・・。
俺は恐る恐る鉄格子のカギを外した・・。
ガチャンッ・・。
ドアが開く、俺のいる独房にソフィアさんが入ってこられるようになった。
「・・ヒッ・・!!」
俺は後ろの壁まで後退する。ソフィアさんが中に入ってきた。
真顔で冷酷な目をしている。
「どうしてそんなに下がるんです?」
こっちに歩いてくる・・・。やばい・・・。どうしよう・・。
「許しません。本当に悪い子ですね。」
俺の顔の前に手が伸びてきた。殺される・・・!! 俺は思わず目を閉じた・・・。
ギュッ・・・。
あれ・・・痛くない・・・。なんでだろう・・・。
目を開けると、ソフィアさんの両手が、優しく俺の顔を包んでいた。
「・・・!?」
「アルフに戦いを持ちかけるなど・・。私は君が殺されたと思いましたよ・・。もう本当に悪い子。」
俺はてっきり半殺しにされると思っていた。ソフィアさんは俺を心配してくれていたんだ・・。
「・・・ごめんなさい・・・。」
「・・・でも、生きていてよかったです。」
「えっ・・・。」
ソフィアさんは涙を流しながら微笑んでくれた・・・。
「まだ、ケイ君のメイドになって日も浅いのに、こんなに想ってしまうのは私の悪い癖なんです。」
ソフィアさんの腕が温かく感じた。俺は泣きそうになった。
あぁ‥俺一生ソフィアさんに着いていこう・・。
「私のこと嫌いになりましたか?」
「そんな訳ありません!!」
「ふふ・・・。ありがとうございます。君は優しい人ですね。ケイ君が死ぬところなんて見たくないのです。だから、絶対に死んじゃダメですよ?約束して下さいね。」
「はい・・。ありがとうございます・・。」
ソフィアさんは微笑むと、俺の独房から出て行った。
この異世界・・。嫌なことしかないと思っていたけど・・。意外と悪くないかも・・。
ソフィアさんは優しすぎる・・・。この世界に来て初めて優しさに触れた気がする・・・。
俺は幸せな気持ちになった。10日後ここを出たら、ソフィアさんのために何かしてあげたい・・。
しかし、その数時間後・・。
時間的にもう外は暗いだろうな・・。そんなことを考えていた。
「ぎゃあああ!!」
「侵入者だ!!」
外が騒がしい。悲鳴が聞こえる。見張りの看守の人が襲われたみたいだ・・。
「ん?何かあったのか・・?」
俺は鉄格子の隙間から廊下を除く。
すると、看守の人が血を流して倒れていた。そして、その横には大量殺人鬼のアイラ、別の名をジョーカーがいた。
「・・・ッ・・!!」
どうして、どうして奴がここに!!
俺はすぐに奥に入り、身を隠した・・。
体が震えている・・。大丈夫だ・・。隠れてやり過ごそう・・。
コツ・・コツ・・・コツ。
足音が聞こえる・・。近づいてくる・・。
心臓の鼓動が速くなる・・・。
やばいよ・・・。どうしよう・・・。見つかったら殺される・・・。
足音はどんどん大きくなっていく・・・。
足音が止まった・・・。
アイラは俺の独房の鉄格子の前に立っていた。こっちを見てニヤついている。
「ごきげんよう。久しぶりねケイちゃん。」