15話 胸糞な経験
もうすでに、ケイとミラ班長は360°魔獣共に包囲され、逃げ道がなくなっていた。
俺の力では空を飛ぶこともできない・・・。
俺は・・ここで死ぬのか・・?嫌だ・・元の世界に帰りたい・・家に帰りたい・・・!!
「少林寺!!術式展開、演武!!」
すると俺の体に力がみなぎる。
魔獣共が大声を上げながら、一斉に俺とミラ班長のところに襲い掛かってきた。
「うらぁあああ!!!」
光の見えない・・。絶望の戦いが始まった・・。
次の日、早朝。
城へ戻ったアルフは、最上階の王宮へと足を運んだ。
片手に、親玉ゴブリンの首を持って。
王宮には、リリス隊長や、ほかの隊の隊長もいた。
「私、アルフ・マイトが、この親玉ゴブリンの首を打ち取って参りました。」
アルフは自信満々に嘘の報告をする。
へへ。これで1番隊の中隊長は俺のもんだ。
「そうか。ご苦労であった。約束通り、1番隊、副隊長の席はアルフ・マイト。君に与えよう。」
「はは!!ありがたき幸せ!!」
アルフは片膝をつき、敬意を示した。
「ところで、ミラとケイがまだ帰ってきていないようだが・・。同じ班のマリーも全く話そうとしないし・・。」
「リリス隊長。ツルギ・ケイと、ミラ・フリージアは、勇敢に戦いましたが、ゴブリンの群れに阻まれ、命を落としました。」
すると、その場にいた全員が驚愕した。
アスターや、サラサも驚いていた。
リリスはため息をついた。
アルフは悲し気な演技を装う。
リリスは冷たい目でアルフを見下ろす。
アルフの嘘は見抜かれていた。
「・・・ふぅ・・。つまらん。」
リリスは黒髪をサラッと触ると、そうとだけ吐き捨てた。アルフに制裁を加える気力もないようだ。
「分かった。お前は下がれ。」
(よし・・。嘘はばれていないな・・。)
「はっ。」
アルフが立ち上がり、王宮から下がろうとする。
ガタッ!! ドアが開く。
しかし、そこにはボロボロになったツルギ・ケイがいた。
その場にいた全員がおぉ・・と驚き、声を上げた。
リリスはニヤッとした。
アルフは目を丸くした・・。
「なぜ・・!!どうしてお前がここに!!」
ボロボロの俺は、アルフを睨みつける。
「アルフ!!!お前だけは許さない!!」
数時間前・・。
俺とミラ班長は魔獣共に囲まれ、絶体絶命。
俺が演武を発動し、魔獣を殺しまくるが、キリがない。
そして、とうとう
ブッシャア!!
「・・・ッ!!」
「うわあああ!!!」
俺が振り返ると、ミラ班長の右腕が、魔獣に噛みつかれていた。
「・・・ッチ!!クソが!!」
俺がすぐにその魔獣を蹴り殺すが、ミラ班長の右腕は食いちぎられてしまった・・。
出血がひどい・・。呼吸も危ない・・。回復ポーションももうない・・・。
だが、無慈悲にも魔獣共の数にはキリがなく、待ってもくれない。
そのまま俺たちに襲い掛かった。
ミラ班長の止血をする暇もない・・。
ミラ班長は最後に、「絶対・・生き延びて・・」と言い、意識を失った。
俺は魔獣に夢中で、ミラ班長の方を見ていなかった。
その声を聞き、慌てて振り返ると、ミラ班長がいた場所に魔獣共が群がっていて、ミラ班長を貪っていた。
その光景はあまりに残酷で、惨たらしく。平和な世界で生きてきた俺にはあまりにも重すぎる光景だった。
「ああああああ!!!!」
・・・どうして・・?どうしてこんなことに・・?なんでこんな地獄に来ちまったんだ俺は・・?
俺は、異世界に飛ばされたことを猛烈に恨んでいた・・。それと同じくらい、こんな目に合わせやがったアルフを憎んだ・・。
ミラ班長を食いつくした後、魔獣共は俺に襲い掛かってきた。
演武はまだ発動中だ・・。俺の精神はすでに限界を迎えていた。ほぼ無心で、魔獣共を殺し続ける。
あちこち、噛みつかれたりしたが、意外に気分は悪くなかった。
魔獣を殺す度、心が軽くなった気がした。
魔獣を倒し続けながら、ミラ班長のいた場所を見ると、そこにはもう誰もいなかった。
すでにミラ班長は食われてしまっていたのか・・・。
俺は、そんな事考えないようにして、ひたすらに殺し続けた。
演武の能力、相手と自分の戦力比を6:4に強制する。
この場合、相手は魔獣共全てだ。
しかし、ただ戦力比が6:4になる訳ではない。
お互いの実力が拮抗し、10回戦えば、4回は自分が勝てるようになるまでパワーアップするという事だ。
俺は、勝利の女神に微笑まれたらしい。
その10回中の4回を引き当てた。
夜が明け、朝になると、俺はすべての魔獣を殺しきっていた。
終わった・・。全部殺した・・。
ミラ班長がいた場所を見る。骨まですべて食い尽くされていた。
涙が出てきた。どうしてだ・・・。俺とは違う世界のそれも出会ったばかりの人なのに、どうしてこんなに悲しいんだろう。
もう、ミラ班長の声が聞けないと思うと、涙が止まらなかった。
想像よりも、人の死は心に来るものがあった。
ミラ班長の血まみれの衣服が落ちている。そこに、アルフが投げつけた、瓶の破片があった。
アルフ・・!!!!俺は、アルフに対して抑えきれない怒りと憎しみを感じた・・。
その後、どうやって城まで歩いたか覚えていない・・。