305章 ソラの気持ち
ソラは街に戻ろうとしなかった。
「ソラさん、どうかしたんですか?」
ソラは静かに首を横に振った。
「いいえ。なんでもありませんよ」
何でもないといっているものの、そういうふうには見えなかった。
「困ったことがあれば、相談してくださいね」
復興をするために、貴重な水、木材を提供してくれた。感謝の気持ちを伝えるためにも、悩みを解決してあげたい。
ソラは小さく頷いたあと、心の悩みを打ち明ける。
「実績を作っていないことに、大きな焦りを感じているんです」
「実績?」
「私はトップになってから、大きなことをできていません」
「すぐに実績は作れないですよ。自分のペースでやっていきましょう」
1日、2日で実績は作れない。5年、10年とかけて、ようやく認められるようになる。
ソラは小さくうつむいた。
「私の1000倍以上を生きた住民はたくさんいます。そういう住民に認められるためには。実績を作るしかありません」
18歳のトップが、10000歳の部下をうならせるためには、抜群の実績を必要とする。それをできなければ、心をつなげるのは難しい。
「アカネさんみたいに、素晴らしい実績を作りたいです。成果を上げることで、部下の心もついてくると思います」
社会で人望は大切といわれるけど、実績を伴っていなければ意味はない。能力のない社員=会社のお荷物である。
「街の復興に協力したのは、アカネさんのためだと思います。私のためではなく、アカネさんのために働いているように映りました」
ソラは優秀な能力を持っているものの、他者を信じていないように感じられた。アカネはその方向から、アドバイスを送ることにした。
「ソラさん、他の方を信じる心も必要です」
「信じる心?」
「そうです。誰かを信じなければ、自分を信じてもらうことはできないですよ」
「私にはよくわからない感情です。実績を残すことだけを、考えていました」
優秀な人間にありがちな、脳の偏りを感じる。能力に栄養を送っている分、他の栄養を失ってしまっている。
「テオスさんは、ソラさんの力を信じています。そうでなかったら、トップにすることはなかったでしょう」
「・・・・・・」
「無理をすると、自分を壊すことになる。信じられないのであれば、無理に信じる必要はないよ」
現実社会を生きていたとき、数千回、数万回と裏切られてきた。そのたびに、誰も信じたくない、人は裏切る生き物だと思った。
「ソラさんの生き方も、とってもいいと思う。実績を残していなかったら、他者は絶対についてくることはないから」
「アカネさん、ありがとうございます。気持ちは少しだけ楽になりました」
ソラは一礼したあと、街に戻っていった。