「お前はあの男のなんなのだ?」
床に転がる少女に話しかけると少女は起き上がり姿勢を正して私に向き合った。
「主人…です」
そう答えた少女の表情に変化はない、そこからなんの感情も読み取れなかった。
先程の男はわかりやすかったのに…
「つまりお前は奴隷…ということか?」
「はい」
「あの男、お前を差し出す気だぞ?いいのか?」
少女は私の質問の意味がわからないのかじっと見つめ返してきた。
「はい、それが私の役目で仕事ですから」
ふふ、思った通りだ。こいつは自分の価値をわかっていない。
そこで私はいい事を教えてやった。
「もし…お前に何か願いがあるなら私はお前の願いを優先しよう。その代わり差し出すのは同じその命だ。同じ命を差し出すなら自分の願いの方がいいだろう?」
私は少女に優しく笑いかけてやった。
「願い…」
少女は何か考えていた、子供には難しい話だったのかと思い助け舟を出してやる。
「何かあるだろ、死ぬ前にやっておきたいことの一つや二つ。金でも力でも食べ物でもなんでも叶えてやるぞ」
こんな贅沢を何もわからないガキなら願い事もたかが知れてるだろう。
あの男が何か価値がある物を持ってこれるとは思えない…ならこの子自身の願いと命の対価交換…こちらの方が大層魅力的だった。
物ならどっかからくすねてきて差し出してやればいい、あの男を殺してくれなんて言ってくれたら少しサービスしてやるが…
いい考えが浮かび思わず笑みがこぼれる。
「なんならあの男…殺してやろうか?」
少女の顔に少しだけ変化があった。
その顔の変化に心の中で笑った。
「願いがあるのだな?」
コクリ…
少女は肯定するように頷いた。
「よし!ならあの男が帰ってくる前に契約をしてしまおう。この縄を解いてくれるか?まずはこの真ん中に付いている石を退かしてくれ」
「はい…」
少女が手を伸ばし縄の中心部分にあった魔法石を触った。
よし…
魔法石は少女になんの反応も示さずにコロンッと下に落ちた…
あれは私を捕まえた勇者が作った魔法石だった…あれにありったけの魔力を込めて私をここに封印した石だ。
勇者が死んでもあの石のおかげで指一本動かせなかったが…
私は手を上げると縄を引きちぎった!
「あははは!動く!動くぞ!」
自分の手を動かして歓喜する!
すると少女が驚いた様子で唖然と見上げていた。
「おっとこれはすまなかったな、では早速契約といこう…さぁ言え!お前の願いはなんだ?」
私は放たれた興奮のあまり少女の願いを聞く前に契約の魔法陣を少女と私の間に作ってしまった。
自由になって早々無垢な少女の命が手に入る事に浮かれていたのだ…
私は少女が願いを口にするのを今か今かと待っていた。