「さぁ、言え!なんでも叶えてやる!」
私が手を差し出すと、少女はその手を見つめて呟いた。
「家族になって欲しい…」
「はっ?」
少女の言葉に思わず聞き返した…カ、ゾク…華族…かぞく…まさか知らぬ間にそんな民族ができたのか?
私が戸惑っていると…
「魔族様、私の家族になって…」
少女の言葉に魔法陣が反応してしまった、魔法陣が光り出すと私と少女のお互いの体に紋章が浮かびあがるとそのまま体に刻まれた。
これで二人の間に契約が完了してしまった。
「おい!カゾクとはなんだ!?どんな願い何だ契約をしてしまった…」
この世に一つしかない貴重な果実か?それとも見た事もない秘宝?それとも魔族のような者なのか?
少女に問いただす!
「違う…私の…家族、ずっと一緒にいて欲しい…」
「家族…あの家族か?父と母と子供とか言う?魔族の私と人間のお前とがか?」
少女はそうだと頷いた。
「私…一緒にご飯を食べて、一緒に寝て、一緒にお話をして笑い合える家族が欲しい…」
まさか家族が願いとは…これは完全に当てが外れた。
しかし契約はなされてしまった…この少女が満足するまで付き合うしかない。
まぁ長い人生だ、ここに囚われているよりはマシだろう。
それに軽く飯でも付き合えば満足するかもしれない…
「わかった。契約は契約だ、お前と私は今から家族だ」
「はい」
少女は返事を返した。
「まずは名前だな、家族となるならお前では不味いだろう、名はなんと言う?」
「名前…ニエ…」
#贄__ニエ__#?それは…生贄…って事か
「それでもいいがあまりいい名では無さそうだ…そうだな…ニアなんでどうだ?」
まぁ一文字変えただけだが…
すると少女は名前を何度も繰り返す。
「ニア、ニア…私の名前…うん、それがいい」
ニアは少しだけ口の端を上げた。
「今笑ったのか?」
バッ!
するとニアは急いでその口を隠した。
「ごめんなさい…ごめんなさい。もう笑いません」
頭を下げてブルブルと震えた。
「別に笑ったからといって怒るつもりはない…」
ニアの過剰な反応に怪訝な顔をしてしまう。
すると地上が騒がしくなり、あの男が大量の食料を持って戻ってきた。
「またせた!これでどうだ!?」
男は扉を勢いよく開けて食料を下ろすと、私が解放されていることに気がついた。
「なぜ封印が…まさか!お前勝手に解いたのか!!」
男はニアを睨みつけると手を振りあげて駆け寄ってくる。
ニアは足がすくんだのか身動きも取れずに固まっていた、見れば顔はまた無表情に戻っていた。
「この野郎!」
男の振り上げた拳がニア目掛けて振り下ろされる。
私はその腕を軽く掴んだ。
男は驚き手を振り払おうとするが、こんな弱い力では私の手を振り払うことなど出来ないだろう。
「な、何をする…お前…いや、あんたは俺と契約をしてくれるんだろ!早くこいつをどうにかしろ!こんな役立たずは生贄以外に使い道はない!」
男の言葉にニアはみるみる顔色を悪くしていった。
「悪いが契約はニアとした…お前は用済みだ。しかも私の家族を貶したな…死に値する」
ふふふ、手始めにこいつを殺すか…
反対の手で男の首を掴むと持ち上げて宙に浮かべた、男は顔を赤くしながら抵抗するが魔族の私には赤子のようだった。
赤い顔が青くなり、次は白に変わるかな…と思っていたら…
「だめ…」
ニアが足元に来ると服を引っ張って首を振る。
「駄目だと?この男を殺すな…ということか?」
コクコク!
ニアはそうだと急いで頷く…私は男を見た後に仕方なく手を離した。
男はだらんと床に落ちた、ピクピクと痙攣して白目を向いている、残念だが死んではいなそうだ。
冷たく見下ろしてニアを見る。
「こいつはニアを殺そうとしたんだぞ、家族としてこいつは殺してもいいと思うが?」
「だめ」
ニアは嫌だと首を振るだけだった。