魔族のアルセウスは今日も囚われた体を動かす事も出来ずにただただ魔力を吸われ続けていた。
人間共…いつかこの封印が解かれた時どうしてくれようか…
何もする事がないなかでここから出た後にどうするかを考える日々…そんな日々が何年…いや何十年経っただろうか。
今日もそんな長いようで短い一日が始まると思っていた。
しかしこの日は違った。
コツコツコツ…
誰かがここに降りてくる足音が聞こえていた。
ガチャガチャ…ギィー…
鍵が開く音がすると数十年ぶりにその錆びた扉が開いた!
するとでっぷりと太った小綺麗な身なりの男とそれとは正反対のやせ細りボロボロの服をまとった子供が入ってきた。
男は封印され縄に縛られた俺を確認して、ニヤリと笑うと少女を見下ろす。
「わかっているな…」
男の野太い声に子供は消え入りそうな声で返事をしてこくっと頷いた。
そして子供と共に私のそばに恐る恐る歩いてきた。
「ま、魔族!聞こえるか?起きているのか!?」
男が大きな声で目の前で喋りだした。
久しぶりに聞く声がこんな男の声とは…心の中でため息をつくがもしかしたらここから出られるチャンスかもしれない…私はゆっくりと顔をあげた。
「ああ、生きてるよ」
「お、おお!すごいやはり噂は本当だったのか…」
男は驚いて私を見た後に覚悟を決めたようにゴクッと唾を飲み込んだ。
「魔族!俺の願いを叶えてくれたらここから出してやる!どうだ?お互いにとっていい取り引きになると思うんだが…」
自分が有利にたっているとでも思っているのだろう…ニヤニヤする顔が鼻につく。
しかし久しぶりの客だもう少しだけ付き合ってみるか…
「ふーん…まぁ話を聞いてみようか?」
私の答えに手応えを感じたのだろう、男はベラベラと喋りだした。
「俺はこの国で成り上がりたい!それには魔族のお前の力が欲しいんだ!お前は国の為だけに使われているんだろ?それならば俺一人だけに使ってみないか?」
「なるほど…それでお前は何を差し出す?」
「それは…対価交換というわけか?」
「当たり前だろ?願い事にはそれなりの物を払ってもらわないとならない」
「解放するだけでは駄目なのか!?」
「それでは足りない…」
「まぁそうだと思っていた…お前に差し出すのは…これだ!」
男はそう言うとずっと隣で話を聞いていた子供の腕を掴んで前に差し出してきた。
「そいつは?」
「これは拾ってきたガキだ!こいつが居なくなろうが誰も気にしないし誰も悲しまん!こいつを好きにしていいから俺を神にしろ!」
「神とは…私は魔族だぞ」
馬鹿な考えに苦笑する。
やはり人とは愚かな者だ、弱いから集まり少数を攻撃する。
その少数が居なくなれば今度は仲間から少数を作り出す。
この子供もその少数にされたのだろう…まぁ同情する気もないがと子供をチラッと見つめる。
「その子はお前に何か関係がある者か?」
「いや、そこら辺に落ちてたのを拾って俺が面倒をみていた」
「それでは関係が薄いな…お前の対価に見合うにはもっとそれなりのモノではならない」
「それなりのモノ?」
男は意味がわからずに聞き返した…これだからバカは嫌なんだ。
「お前の血族、またはお前が失いたくないと思える人物か失いたくない物だ」
「クッ…」
男は苦虫を噛み潰したような顔をした…
「この娘では駄目だと言うことか?」
男は諦めきれないのか少女をドンッと前に押し出した。
汚い身なりで性別もわからなかったが女だったとは…
「そうだな…まぁおまけをしてあと美味い飯でも持ってきたら#考えてやってもいい__・__#」
「本当か!?」
男は喜ぶと少女を逃げられないようにと縄で縛り床に放り投げた。
少女は抵抗する気などないのか無表情で泣きもせずに床に横になっている。
男が居なくなると私は少女を見つめ話しかけた。