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「菜摘さんも、恋愛してるんですね…。」
さっきまで過去のことのように、具体的かつ生々しく恋愛とは何たるかについて語っていた菜摘さんは、僕の横に座りながら、今も誰かに恋している…。
「その人とは、お付き合いしてるんですか?」
「してないよ。」
「……菜摘さんは、その人に気持ちを伝えたんですか?」
「……うーん、正式にはまだかな。」
「"正式には"?」
「そ。正式には。……まあ、この話はもう恥ずかしいからお終い!隼くん、久しぶりにス○バに行こうよ!また新しい商品が出たんだって~!」
僕の追及に耐え難くなったのか、菜摘さんは話を打ち切ってまたいつもの無邪気な顔に戻って腰掛けていた河川敷から立ち上がり、前を歩き始めた。
菜摘さんは、今僕に見せている弾けるような笑顔が印象的な人だ。
だけどそんな菜摘さんが、誰かを想い慕って自我の生み出す醜い欲と必死に戦っている……。
自身を苦しめるはず恋愛を、進んで享受している……。
僕の見えないところでその相手を想い泣いたり、人知れず嫉妬したりしている……。
そんな僕の妄想は広がるばかりで、前を行く菜摘さんがいくらス○バの新作の魅力を説こうとも、今の僕の心に張り付いた数多な悩みの付箋は、頑固に剥がれ落ちてはくれない。
菜摘さんは、一体誰に恋しているのだろうか……。
そんなことばかり考えてしまった夏の午後であった。