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「僕は、やっぱり恋愛したことがありませんでした。菜摘さんの話ような経験は、無いですから。」
「…まあ、まだ小学五年生だからね。これから少しずつ分かっていくと思うよ。」
「…はい!」
僕も、自分の心の不完全さや歪な欲望に支配され、その自覚を通して自分に絶望したりするのだろうか。
誰かを強く想うがあまり、支配や承認の欲求を相手に抱くのだろうか。
そして、恋の苦しさや辛さを嘆きながらも、その情熱的な人間関係に全力で虜になってしまったりするのだろうか。
なんだか嫌なような、少し楽しみなような…
そんな不思議な感覚を覚えていた。
「菜摘さんは、今誰かに恋愛してるんですか?」
「……してるよ。」
茜色の空が眩す、ぼんやりとした夏の影。
仄かに色づく頬を添えた美しい顔を背ける菜摘さんの言葉に、僕は鈍器で殴られたような衝撃を感じた……。