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「隼くんはさ、同じ学校の女子とかテニスで知り合った女の子に、『好きだなー』っていう気持ちになったことはないの?」
夏休みも半ばに入った8月の初旬。
今日は、いつも二人が遊んでいる公園から少し離れた場所に来ていた。
目の前には隅田川の清流が広がる。
暑い夏が生み出す陽炎はジリジリと泣き叫ぶ蝉の声と交わり、少しでもこの灼熱に涼しさを加えようと言わんばかりの静けさで流れていた
春にはさぞ美しい桜を身に着けていたであろう大樹の青葉の隙間一つ一つに、今にも燃えそうな陽射しが強く差し込んでいく。
そんな、まさに"真夏日"である今日、菜摘さんは肌にまとわりつく湿気を跳ね除けてくれそうなくらい澄んだ声で僕にそんなことを聞いてきた。
「感じたことは、ありますよ。」
「えっ!?あるの!?」
「はい!学校の子たちとは最近は難しいですが、テニス仲間の女の子たちとはたまに遊びます。」
「それは……友達ってこと?」
「?はい。大好きで大切な友達です!」
「……なるほどね……」
「菜摘さんは、そういう人いないんですか?」
「私にも……いるよ……。けど……」
そこまで言って、菜摘さんは言葉を切った。
どこか影を落とした笑顔に、僕は不意に惹き込まれた。
菜摘さんは普段、子供のように……
子供の僕が言うのも変だが、大人であることをつい忘れさせられてしまうという意味で子供のように無邪気に笑う。
だからこそ、普段の笑顔とは何か異なる意味を含んでいるであろうときには、比較的判り易くその色を表す。
「けど……?」
「私が聞きたかったのはね……"異性として"好きな人がいるのかな?ってことなの……。」
「異性として……ですか。」
「うん。それは所謂……」
「……恋愛ってこと…ですか?」
言い淀む菜摘さんの言わんとしている言葉を見出した時、菜摘さんはこれまでにないほど狼狽の表情を浮かべたのである。