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「僕、実は恋愛したことがないんです……。だから、恋愛がどんなものか…自分の感覚では分からないんです。本や映画、漫画やアニメなどで恋愛を描いたものは見たことがありますし、何となくイメージはできますけど…いざ自分の事となると……。」
「じゃあ…さ、これまで見てきた本とか映画で描かれてた"恋愛"って、どんなものだった?」
「それは……」
春、桜の木々が麗しく色づき鶯が朗らかに鳴くように、暖かな気持ちが吹き込むこと。
夏、灼熱の炎禍で忙しなく照り付ける日射のような激しい激情を抱くこと。
秋、木の葉が重苦しく落ちるように、その艷やかな色気と静かな哀愁が同時に押し寄せること。
冬、カラリと晴れた陽が純白の雪に反射する日があると思えば、突如空を覆う涙を含んだ雲がその雪を暗く写す日もあること。
自然の趣と人の心情を絡め、色付け、目に見たことのある景色から連想させる。
そんな、どこか俯瞰した芸術のように語る"恋愛"は僕でも身に覚え、聞き覚えがある。
しかし……
「……恋愛っていうものは、そんなに美しいものじゃないし抽象的なものでもないよ……。」
どこか哀しそうに僕に告げる菜摘さんを見て、僕の恋愛が何たるかを漠然と形成していた感覚が、誤っていたことを悟った。