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「隼くんはさ、可愛いって言われるのは嫌?よく、男の人は可愛いって言われたくないって聞くから。」
「えっ…そんなことないですよ?僕は、菜摘さんに褒められたら何でも嬉しいです。…嬉しすぎるせいで、実際さっきから顔がニヤニヤしちゃってますから…」
「……っ」
「菜摘さん?」
「ちょっ……隼くん…こっち見ないで」
「ええ?……」
「私も恥ずかしくなってきたから!見ないでっ」
「菜摘さん…顔を隠さないで下さいよ。寂しいです。」
「……あーもう…やめて隼くん……」
「???」
菜摘さんは薄いタオルケットに潜り込んでしまって、表情も見えないし声も曇って聞こえる。
「菜摘さんー…」
「……っ」
「菜摘さん…僕、なんか嫌なこと言いました…?」
「……言ってないっ…!けど、今はホント見ないで…」
「そんな……」
「じゃあ10秒!10秒待って!そしたらちゃんと顔出すから!」
「分かりました、10秒ですね。数えます!」
「え、ちょっ…心の中でね?!口に出して数えないでね?!」
タオルケットの中で足をバタバタさせながら、何故か必死にそう言う菜摘さんが、僕は何だかとても幼く感じた。
この場合の幼いというのは悪い意味は含んでいなくて、むしろ、ずっと歳上の存在だと思っていたけど、急に親近感が湧いたような感覚だ。
「……菜摘さん。10秒経ちましたよ?」
「……待って……もう少し…」
「……分かりました。じゃあ……」
タオルケットに包まったまま恥ずかしがってモゾモゾ動く菜摘さんと、早く出てきてほしい僕。
ただじゃれ合っているだけのこの状況が、何故か僕にとってはとてつもなくかけがえのない時間のような気がした。