3
ある日の放課後。
僕はその日、どうしても学校の近くの公園で絵を描きたかった。
その日は朝からとても空気が澄んでいて、きれいなオレンジ色の夕焼けを描けそうだったから。
だけどその公園は、いつも僕と同じ小学校の児童たちが放課後に遊んでいる場所。
だから普段僕は寄り付かないのだが、その日だけはと思い、みんなが家に帰るまで公園から少しだけ離れた場所にあるベンチに座っていた。
大きなブナの木の下で、古い造りのベンチが寂しそうに佇んでいた。
その日は5月だったのに少し暑かったから、大きなその木が作る日陰に入って涼んだ。
大きなブナの木は、寂しい僕とベンチを涼し気な表情で包んでくれたように感じた。
遠くから聞こえるみんなの声。
無邪気なその様子は、普段僕に…僕だけに向けてくる悪意や敵意など、まるで持ち合わせてすらいない子供たちのようだった。
ぼんやりと時が過ぎるのを眺めていた。
午後5時を知らせるチャイムが鳴った時、一人の大人が僕の方へと近づいてきた。
公園で遊んでいた児童たちは殆ど家路につき、その大人の人だけが最後までみんなを見送っていた。
僕は自分の方へ向かってくる大人の人に、帰宅を促されるのだろうと思い、つい身を強張らせた。
ほんの少しでいい……
5分だけでいいから、二人の間に広がる暖かな夕焼けを描きたかった。
だから僕は咄嗟に持っていたスケッチブックと色鉛筆を隠すようにして蹲った。
数秒間の沈黙と僕の目線の前に映る白いスニーカー。
「どうかしたの?」
驚くほど優しい声が頭上から降り注いだ。