285章 大衆浴場の信じられない実態
「アカネさん、きてください」
ハルキの声が聞こえたので、そちらに向かうことにした。
着替え室では、服を脱いだ女性が立っていた。アカネは衝動的に。目を覆ってしまった。
「ハルキさん、服を着よう」
「大衆浴場で、いろいろな人に裸を見られています。気にしなくてもいいですよ」
見られる側はよくとも、見る側にとってはマイナスである。人前に出るのであれば、服をしっかりと着用してほしい。
ミライ、ハルキも裸を見られて、堂々としていた。人前で裸をさらけ出すのは、慣れっこなのかもしれない。
「ハルキさん、服を着て」
アカネは強い口調で促すと、ハルキは1分ほどで服を着た。
「これでいいですか?」
「うん、いいよ」
「アカネさんは、裸を見るのは慣れていないみたいですね」
現実世界では、同性の裸を見る機会はほとんどなかった。裸を見ることに対する、免疫ができていない。
「私は一般男性に、裸を見られたことがあります。そういう経験をしているので、慣れてしまったのかもしれませんね」
「男の人に裸を見られる?」
『「セカンドライフの街」には、男女共有の大衆浴場もありました。女性が利用した場合、無料
でお風呂に入ることができます。無料でお風呂に入れるのは、1年で6回までです』
男に裸をさらけ出す代わりに、無料でお風呂に入る権利を得る。わずかな対価のために、とんでもなく大きなものを失っているような気がする。
「お風呂に入らないと、体はどんどん臭くなっていきます。体をピカピカにするために、男女共有の大衆浴場を使用していました。男の人にも見られたことがあるので、私は気にしないですよ」
バナナ、飴だけの生活を送っている人たちに、お風呂のお金を払う余裕はない。お風呂に入るのであれば、無料にせざるを得ない。
「男女共有となっているものの、男の人はあまり入ってこないです。95パーセントくらいは、女性だけでお風呂に入っていました」
5パーセントは、裸を見られることになる。男に裸を見られたとき、精神的なショックを受けないのだろうか。
「男が入ってきたときは。どうしていたの?」
「当時はしょうがないと割り切っていました。お金のない生活を送っていたので、お風呂に入れるためには、こうするしかありませんでした」
ハルキは息を吸った。
「女性の裸を眺めるのはいいけど、触った場合は犯罪として扱われます。強制労働の長さもあって、男の人は端に追いやられていましたね」
「セカンドライフの街」の強制労働=死刑である。たった一度のセクハラで、死刑にされるのは割に合わない。
「男の人はセクハラを避けるために、極端に距離を取ることが多かったですね。女性の近くで入っていると、無意識のうちに触れることもありますから」
セクハラは故意の有無を問わない。体に触れた時点で、犯罪として扱う。
「お風呂場で意気投合して、結婚につながるカップルもいます。出会いの場として、機能していたように感じます」
混浴によって、新しいカップルが誕生する。男女別で入浴する日本においては、絶対にありえない光景である。
「付与金が配布されたことで、男女共有のお風呂は消滅します。男子、女子はきっちりと分けられるようになり、無料でお風呂に入ることもできなくなりました」
ミライ、コハルと入浴したときは、男女共有はなくなっていた。そのことを聞いて、心が落ちつくのを感じた。