41.訛りが気になる男、バトルマニアな女
何にせよ。
昔のRPGじゃあるまいし、500メートルも進まない内にまた敵に遭遇するとは。
何とも運の無い事か。
「人間さ、こっちさ世界に入ってきたらダメだって」
警告してくれるのは有難いが、何故コイツら言葉が訛っているのか?
京都弁か大阪弁を話すならまだしも、どこの国の訛りだ?
そんな疑問はさて置き、エイジもレインも警戒を解かない。
「ん?お
青くヌメった方の河童がツェーを指差して訊ねた。
エイジにしろナンブにしろ見た目こそ人間とそう違わないが、紛れも無く人間を超越したエレメンツだ。
しかし。
ツェーだけは見た目からして人外のエレメンツ。
頭の先から爪先まで全身黄色の怪しい男。
一人異なる姿をした彼に疑問を抱くのも頷ける。
「私はツェー。彼らの味方さ」
両腕を広げて自己紹介。
ついでにニカッと白い歯を見せての笑顔。
何て警戒心の薄いヤツ…呆れてモノが言えない。
「そっかぁー。まっ、人間たちと争っている訳じゃなし、別に構わなしねぇけどな」
河童たちは一瞬怯むも、全身タイツなツェーの姿に武器を隠し持っていないと判断すると、急にその場に座り込んでしまった。
ひとまずは難を逃れたカタチとなった。
「レイン。彼らは敵じゃ無さそうだ」
昌樹もレインにハンドガンを下させる。
「言葉が通じて助かるよ。俺の名は田中・昌樹。怪しい者じゃない」
そっかそっかと頷いて昌樹たちを見上げる。
敵意を見せていないにせよ。
彼らの存在は、やはり異形。
彼らも肌の色は違えど、部族間で争っている訳では無さそう。
見た目同様、少しばかり訛りが異なるけど。
「貴方たちに聞きたいの。マンドレイクという植物をさがしているのだけれど、どこに生えているか御存知かしら?」
レインが訊ねた。
「あんなおっかねぇモン食べるつもりけ?物好きだなぁ、アンタたち」
場所はどうであれ、存在そのものは知っているようだ。
このまま聞いてゆけば、在り処も教えてくれそうだ。
「このさ建物の奥に生えてるけんども、今じゃ小鬼どもが住み着いていて、とてもじゃなか採りに行けんど」
内容はとても有意義な情報であるのだが、本当にコイツら、どこの方言で話しているのだろう?気になって内容が半分も頭に入って来ない。
「小鬼?ゴブリンのことかしら?」
昔の絵巻に描かれている日本の妖怪では、小さい鬼といえば餓鬼となる。
見た目を比べれば餓鬼もゴブリンもさほど大差は無い(今時のゲームで描かれるキャラとして)。
「参考までに聞くけど、彼らの戦力を教えてもらえないかしら?」
この状況、何て質問を繰り出すのか?そんな事を訊ねてしまったら。
「ほぇー。アンタたち、あの小鬼共を退治してくれんのか。そりゃあ、有難や有難や」
手を擦り合わせて拝んでいるじゃないか!
俺たちの目的はマンドレイクの採取であって、ゴブリン退治じゃないぞ。
「ヤツら頭さスゲェ悪いから、いっつも3人1組でうろついておるんよ。そんなのが、まぁ………10組くらいいて、そんで親玉みたいなモノすげぇデカいのが1匹いたかなぁ」
随分やたらとおおまかな情報ではある。
が、敵の数を勘定する時に随分と時間を食ってくれた訳だが、まさか10より多くの数を勘定できないってオチも心の片隅に置いておこう。
「やけに数が多いな…どうする?レイン」
まさか鏡写しの世界に来て攻城戦をする羽目になるとは思いもしなかった。
話し込んでいる最中、夜が明けようとしていた。
が。
今現在、二条城の門前にて話し込んでいるというのに、影が二条城側から伸びているではないか。
不思議に思い、空を見渡す。
すると。
「マジか…」
何と!
太陽が西から昇っている!!?
「どういう事だ?レイン。太陽が西から昇っているぞ」
「よくは知らないけど、鏡の世界が私たちの世界の真逆とするなら、時間の流れも逆になるんじゃないの?」
解らないのなら解らないとだけ答えて欲しい。
無茶苦茶な見解は、聞いていて余計に混乱を招く。
「こりゃあ、丁度良いわさ」
柏手を叩いて、河童たちが大喜びをしている。
「小鬼さ、お天道様の光に弱くてよぉ。光に当たったらえらく苦しむんだわさ」
ゴブリン共は日光に弱いらしい。
非常に有難い情報を手に入れた。
「じゃあ、日中に襲撃すれば良いのね?ありがとう」
御礼はともかく、襲撃って戦う気満々なレインを見て、昌樹は少々引き気味。
「ゴブリンが活動しない間に、こっそりとマンドレイクを採りに行った方が無難じゃないのか?ホラ、『鬼の居ぬ間に洗濯』とか言うじゃないか」
なるべくリスクは避けるべきだと考える。
だけど、レインの考えはそうでは無かった。
「害なすものは、増殖する前に徹底的に殲滅しておくものよ」
だから、そのやる気満々な笑顔で答えてくれるな。そうでないと。
「おぉーッ!!期待しとるぞ、デッケぇ
河童共が大騒ぎしているじゃないか。
まったく、このレインというデカ女ときたら。
余計な仕事を増やしてくれるぜ。
朝だというのに、一向に自動車が走っていない道路を見渡しつつ、昌樹は溜息を漏らした。