250章 食料調達
スーパーマーケットにやってくると、人はほとんどいなかった。病気で苦しんでいたために、買い物にこられなかったようだ。
「アカネさん、いらっしゃい」
病気にかかった直後からか、元気さは感じられなかった。体の治療に有効であっても、心には効果はない。
店長の顔が真っ青になった。
「アカネさん、付き添いしているのは誰ですか?」
「テオスさんです。私と交流があります」
アカネと交流していることを知り、店長は穏やかな顔になった。
「見たことのない生物なので、びっくりしました」
未知の生物=危険なものというのは、人間にありがちな発想である。
テオスは挨拶をする。
「テオスです。はじめまして」
店長から発せられた声からは、はっきりとした怯えを感じ取る。
「こちらこそ・・・・・・」
アカネは要件を単刀直入に伝える。
「店長、水、食料の90パーセントを売ってください」
「レジ係はすべて帰宅したので、計算に時間がかかります」
早く食料を届けるためにも、計算する時間を省略したいところ。アカネは魔法を使用して、店の商品の計算をする。
店の商品の合計金額は、3230万5500ゴールドである。「セカンド牛+++++」だと、323グラムくらいとなる。
アカネはポケットマネーから、1億ゴールドを取り出す。3倍の金額を出すことで、交渉を早く終えるのが狙いだ。
「これでいいですか?」
店長は支払いの金額を見て、すぐにOKの返事をする。
「はい。いいですよ」
人間は治療できたとしても、食べ物に菌が残っている可能性はある。安全に食べられるよう、無毒化の魔法を使用する。
魔法を使用していると、テオスから声をかけられた。
「アカネさん、何をしているんですか?」
「食べ物についているかもしれない、病原菌を完全に除去しています」
病原菌を吸収するのは、人間だけとは限らない。肉、果物に付着している可能性は十分にある。
「水、食べ物に含まれる菌を除去できるんですか?」
「はい。水、食べ物の病原菌を除去できます」
能力を所持していたものの、一度も使用したことはなかった。安全を信じていたというよりは、やろうという気持ちになれなかった。これをやってしまったら、育ててきた人、出荷した
人、販売している人の仕事を否定したことになる。
病原菌を除去したあと、分析魔法を使用する。分析魔法を使用することで、食べ物に含まれている成分を知ることができる。
「アカネさん、今度は何をしているんですか?」
「食べ物の状態を確かめるために、成分を分析しています」
魔法を使用したとしても、毒は残っている可能性がある。食べ物の成分をきっちりと分析したほうがいい。
分析魔法を使用した結果、毒は含まれていないことが分かった。住民に届けても、問題はなさそうだ。
アカネは魔法を使用して、すべての家庭に食料を届ける。
「水、食料はこれで大丈夫です。同行ありがとうございました」
「私は何もしていません」
食料の調達、運搬のすべてを一人で行った。テオスは同行しただけになってしまった。
「アカネさんがいれば、すべてを解決できるように感じます」
そのように見えたとしても、実際はその通りではない。アカネ一人でできないことは、山のようにある。
一人でできないこととして、第三者との会話があげられる。ぼっちでは絶対に成し遂げることはできない。
仕事についても同様だ。オファーを出す人のおかげで、収入につなげることができる。仕事を出す人がいなければ、能力も宝の持ち腐れだ。