第2章の第20話 帰還の6日目! チアキとの再会! スバルの覗き!?
【――そして、あの事件から6日目】
【アンドロメダ宇宙国際航空】
僕たちの後ろには、アンドロメダの宇宙船があった。
僕たちはここで大きく分けて2つのグループに分かれるんだ。
1つは地球に戻る組み、もう1つはお隣のソーテリア星に話を持ち掛ける組だ。
地球に一度戻る組は、スバル(僕)、アユミちゃん、クコンさんの3名。
ソーテリアー星に行く組は、L、アンドロメダ王女、デネボラ、兵士たち、ヒースさんとシャルロットさん。
アンドロメダの宇宙船を操縦するのはシンギンさん以下の兵士たちだった。
「地球での時間を大切に過ごすのじゃぞ。スバル」
とアンドロメダ王女様がそう言い。
「明後日には『全球凍結』スノーボールアース(クライオジェニアン)が地球全土を覆いつくすからね! 今日と明日が事実上の最後の日よ!」
とデネボラさんが付け加えてくれた。
「今日と明日の2日間……」
それは端的に、明後日は危険だということを示唆していた。
とLが一歩前に出て、こう述べる。
「スバル……その彼女さんを送り届ける際、その両親は涙を流して、君になんて言ってくるのかわかんないよ? どんな酷いことを言われるのか……」
「……」
そう、僕の隣には『手押し車の棺桶』があった。その中に入っているのはもちろん恵ケイちゃんの遺体だ。
僕は、その棺桶に手を触れた。
「それでも行くんだ。じゃないと僕は彼女に顔向けできない」
「「「……」」」
L、アンドロメダ、デネボラさんは可哀そうな子だと思った。そして、申し訳なく思ってしまう。
スバルは自ら、損な貧乏くじを引いたのだ。
――そして、僕たちを乗せた宇宙船は飛び立っていった。
その様子を一面窓ガラスの向こうからLとアンドロメダ王女とデネボラとヒースさんとシャルロットさんが見送っていた。
☆彡
【地球】
【――そして、『氷結への脈動』トゥフリーズ・ポーセィション(ナ・パゴシィ・パイモース)中の地球の地に僕たちはきていた】
そこは凄まじいほどの吹雪が吹雪いていた。
宇宙船のフロントガラスから見える光景は、ビュオオオオオと吹雪が吹き荒び、時折、雷が走っている危ない光景だった。
「寒そう……」
「一応、王女様が防寒着(コレ)を貸し出してくれたけど……。まさかここまで酷いなんて……」
「……」
クコンちゃん、アユミちゃん、スバルの順にその感想を述べた。僕は述べてないけど。
ホントに寒そうだ。
防寒着のそれぞれの色は、クコンちゃんとアユミちゃんはピンク、僕はオレンジといった暖色系だ。
そして、順にこの船を降りていく。
真っ先に降りたのはクコンさん。
次に降りたのはアユミちゃん。
最後に僕という順番だった。
みんな人里離れた山の所に降ろしてもらった。
人里に降ろさなかったのは、大騒ぎになり、どんな目に会うかわからないからだ。
☆彡
あたしクコンは、人里離れた山の所に降ろしてもらい、自分の住居を目指していた。
目についたのはどの住居も半壊していたことだ。
「まるで戦争の跡みたい。ここら辺は被害は少なそうだけど……」
クコンは知らなかったが、戦争前、アンドロメダ王女が話を通し、日本の南側の被害が最も少ないのが起因していた。
『――こちらアンドロメダファミリア、王女付きのデネボラ! 応答願います!』
『はい、こちらプレアデスファミリア、ただいま軍を率いて、現在地球を攻撃中です! 要件は何ごとでしょうか!?』
『今、私たちのいる日本の南側の攻撃は避けてくれないでしょうか!? 不時着して、しばらく動きが取れなくなっておりまして』
『日本の南側におられるのですね!? わかりました! では、その他の地域に攻撃対象を振り分けます!』
その後ろで聞いていたアンドロメダ王女は、腕組をしながらそれでよいと頷いて答えたのだった。
日本の南側、クコン、アユミ、スバルたちが降りたエリアは、日本の南側に位置していたため、戦争による被害は最も少ないのだった――
完全にアンドロメダ王女の気遣い、配慮である。
が、ここまでやり過ぎた以上、気遣い、配慮とか到底言えないのだが……。
あたしはパパとママの3人暮らしで、マンションで住み込んでいた。
そのマンションに帰宅し見たものは……。
あの日、首都直下型の大地震で、荒れた室内であった。
パパとママの姿は、ない――
「……わかっていたけど……なんか悔しいな……」
あたしはその場でへたり込み、大粒の涙を流して泣いたのだった。
☆彡
あたしアユミは、人里離れた山の所に降ろしてもらい、自分の住居を目指していた。
あたしはパパとママの3人暮らしで、実家で住んでいた。
実家に帰宅し見たものは……。
あの日、首都直下型地震の大地震で、荒れた室内であった。
家具は軒並み倒れ、とても危険な状態だったわ。
その中で発見したのは、ママの変わり果てた姿だった。
倒れた家具の下敷きにあい、ママは息絶えていた。
あたしはその場で衝撃を受け、へたり込んだ。
「……わかっていたけど……、そんなのってないよ……」
あたしはホロリ涙を流した。
☆彡
そして僕は、あの山火事のあった現場に降ろしてもらった。
あんなに酷かった山火事は沈静化して、もう見るも無残だ。
ススこけた森林の跡地が広がっていた。
そんな中感じたのは、人の気配だった。
「……これは……生きている人がこの付近にいるのか……行ってみよう」
僕は移動した。
僕の危機感知能力が拾ったのは、2人分の反応だった。
おそらくその現場にきているのは、恵ケイちゃんのご両親だ。
やった、手間が省けた。
僕の足に迷いはなく、その危機感知能力が示してくれた現場に着いた。
そこにいたのは、あの占い師の少女だった。あれ、もう1人の反応はどこへ行った……。
そして、その現場は恵ケイちゃんが亡くなった現場跡地でもあった。
少女は、その現場に花を植えていた。
「……驚いた。まさか君の方からここにくるやなんて」
「……なんで君がここにいる?」
それが2人が発した、久しぶりの言葉だった。
【――運命が僕等を引き合わせたんだ】
「――……何でここにって……恵ケイちゃんはあたしの知り合いや」
「……」
僕は、目線を落とした。
その花の数は5つ。
つまりこの5日間、毎日花を届けに着てくれていたことだ。
そして、彼女は僕が引いている手押し車の棺桶を見た。
その手押し車に重量はなく、反重力作用によって、宙に浮いていた。
地球ではあり得ない科学技術だった。
チアキは、その大きな瞳を見開いて。
「……驚いた。そこに入っているのはまさか……」
「うん。そうだよ……ケイちゃんの遺体だ……」
「……何で、宙に浮いてるの?」
「この方が楽だから」
そんな会話を投げかけられたのだった。
だが、遺体を預かる人の身としては、その発言はとても不適切だった。
この場を借りて、お詫び申し上げます。
☆彡
あたしクコンは、その後学校に向かったの。
その学校の前には、幾つものテントが張られていたわ。
あたしは信じられない目で、その光景を見渡したの。
家族連れの大人たちが身を寄せ合って、その日を凌いでいたの
でも見渡して見てもよくわかる。
生きている親が少ないのだ。どうみてもこれは子供の数の方が多くないだろうか。
そんな子供たちが寄せ合って集まっているテントが幾つか見受けられた。
何なのこれ、いったい――
「……」
歩を進めるあたし。
ここには仮設トイレや仮設調理どころまで完備されていた。実に本格的じゃないの。ここで暮らしてるの。
あたしは怖くなって、自分の教室へ向かった。
「みんな!」
だが、その教室には誰もいなかった。
他の教室も調べてみて回るものの、誰もいなかった。
当たり前だ。自分たちの学年はあの日、みんな修学旅行に出かけていたのだから。
帰ってくる手段などなかった。
あたしはその後、職員室に向かったの。
そこで見たものは……。整然としたお葬式の場だったわ。
先生方は横一列に横たわり、顔には白い布が当てられて、既に息を引き取っていた。
この光景を見たあたしは「え」と呟きを落としたのを覚えてる。
あたしは怖くなって、その場から駆けだしたの。
(生きている人! 生きている人に話を聞かないと!)
そうだ。あたしはその日から情報収集に当たったわ。
あたしの足が向かう先は、あの校門前に並べられたテントだった。
「ハァハァ、済みません、ちょっといいですか!?」
「あらなに、お嬢ちゃん。腹でもすかせたの。ごめんね。一日1人1枚までなのよ、パンは」
「……ッッ」
そんな状況まで追い込まれていただなんて。
「あの日から何があったんですか!? あたし、森沿いを通って、大分県からここ長崎まで帰ってきたんです!!」
「!!」
これにはおばあちゃんも驚き、あたしの肩をガッと掴んでこう話したの。
「あんたあの修学旅行生かい!?」
「はっはい」
「タケシは!? タケシは無事なのかい!?」
「!」
何てことだ。
ここにいたのは、あの修学旅行生を始め、長崎学院の関係者の集まりだった。
「えっと……タケシくんかどうかはわかりませんが……。あの日、あたしたちは恵ケイちゃんのホテルに身を寄せ合ったんです。
そこで合流したのが、スバル君やアユミちゃんを始めとした大村小学校の子たちとの合流だったんですよ」
「何だ何だ!?」
「どうしたどうした!?」
「そこからあたしたちは、部隊を3班に分かれました。
1班は山の幸を求め、採取集めに。
2班はそのままホテルの清掃を。
3班は街の人たちと協力して、防波堤を作るために、土嚢を摘んでいました。濁流が迫る中、危険だったと思います。
あたしは、その中の1班にいて、ある事件に巻き込まれました」
「タケシは!? タケシは無事なのかい!?」
「そ、そのタケシ君が1、2、3班のいずれかはあたしにはわかりません」
「……」
だら~んと力をなくしたように、おばあちゃんの手が離れた。
「……生きている可能性が高いのは、その2班と3班ぐらいです」
「ちょっと待って! お嬢ちゃん」
とおじさん方が話しかけてきた。
「尋ねるが、お嬢ちゃんは何班だったんだい?」
「恵ケイちゃんが班長を務めていた同じ1班です! ただ……」
あたしはとても言い難くかった。
「生存者はあたしを含めて、たったの4名しかいません。内一命は、今も消息不明なんです……」
「……いったい誰が生きているんだい?」
「あたしことクコンと。大村小学校のスバル君とアユミちゃん。
消息不明者は、あの有名なジェットパイロットホサカ選手の息子さん、シシド君くらいです」
「「!!」」
あのホサカ選手の息子さんが、とおじ様たちは驚いたような顔をした。
その後あたしは知る限りの情報を話した。
上手いこと、アンドロメダ王女様の……悪い印象だけは伏せて。
そして、この地球に迫る危機を話したの。
「「「「「全球凍結だって!!!」」」」」
「「「「「えええええ!!!」」」」」
「じゃあ、このおかしな気象は、その前兆なんだな!?」
「はい。明後日には地球全土が全球凍結します」
「……何て事だ……」
おじ様たちやおば様たちはよろめいた。
「じゃあ俺たち、どこに逃げればいいんだ!?」
「今、わかっている限りでは、アンドロメダ王女のいる惑星に緊急避難とアクアリウス星に緊急避難するしか道はありません」
「2つに1つか」
「とても難民を全員受け入れる事なんてできないぞ……必ずふるいにかけられる……」
おじ様たちとおば様たちは頭を抱えた。脳裏によぎるのは深い絶望だ。
「……」
あたしには、もうなんて声をかけたらいいのかわからなかった。
そして、空の向こうにいる彼に向けて、心の中でこう呟いたの。
(スバル君……あたしたちどうすればいいの……?)
☆彡
あたしアユミは、その後、スバル君家に向かったの。
あたしは正面玄関をダンダンと叩いた。
「スバル君のお父さんとお母さんいますか! あたしアユミです! いたら返事してくださーい!」
ダンダンと叩いた。けど、返事は帰ってこなかった。
「……いないのかな。いや……中を確認してみないと……」
あたしはスバル君家の外周を見て回り、犬小屋を発見した。
今やスバル君家の犬小屋には犬はいないけれど、あたしはその中に手を伸ばして、カギを手に入れた。
「あった……鍵……! 帰ってきていないのかも……」
あたしはそのカギを見詰めていた。
「スバル君のお父さんとお母さんごめんなさい。中に入らせていただきます」
あたしは早速正面玄関に周り、そのカギを使って、住居に入っていった。
あの日、首都直下型の大地震があったため、中は家財道具が倒れ、足の踏み場もないぐらい荒れた状態だった。
そんな中発見したの。あたしのママと同じように、スバル君のお母さんも倒れてきた家財道具の下敷きにあい、息絶えていた。
「……ッッ」
予想していた最悪の光景だった。
あたしは自分のママにそうしたように、掘り起こして、その身を傷つかないところに移動してあげた。
その後あたしは室内を詳しく見て回り、お父さんが帰ってきていないことを確認した。
「……お父さんは帰ってきていないのかも……いたらお母さんを掘り起こしてるだろうし。……スバル君の部屋に行こう」
あたしは、スバル君の部屋に向かった。
それというのも、スバル君からあらかじめ、ある物を持ってきてほしいというものだった。
だが、思いのほか少年の部屋は散らかっていた。
家財道具も倒れていたし。
「うっ……バチィ……。パンツも脱ぎぱなっしだよスバル君。しょうがないな、これだから男の子は……ハァ」
だが、そこはかとなく友人だ。
見なかったことにした。
それよりも、スバル君に頼まれていたものを探した。
「……あった! 『スバル君のデッキ』と『ストレージボックス』!」
アユミは、『スバルのデッキ』と『ストレージボックス』を手に入れた。
「これがエナジーア変換で役立つなんて、にわかには信じ難いけど……!」
とあたしはある物を発見したの。それはスバル君がつけていた日記だった。
「スバル君の日記」
あたしはそれを手に取った。
【〇月×日
今日、アユミちゃんと喧嘩した。
喧嘩の理由は些細なもので、そんなに怒ると皺が増えるよと言ったものだった。
2、3日口を聞いてくれなかった。
き、気まずい……。
ある日、またあいつ等に虐めを受けた時、アユミちゃんと仲直りするきっかけができた。
その日、アユミちゃんは口やかましかった。
……皺が増えるよなんて言葉は女性に言うべきことではないことを知った。
その翌日、女子同士の話題で胸が大きくなったね。というのを小耳に挟んだ。
その日からかもしれない。アユミちゃんますます女の子らしい体つきになっていく】
「あらあら」
これにはあたしも照れた。
「それで」
【〇月×日
今日変な夢を見た。
ロケットがある星に悪さをし、
僕とアユミちゃんの2人は、どーゆう流れからか冒険者になっていた。
僕たち2人は協力して、数々の難事件を解決していくんだけど……。
そこには山のように大きくて怪物みたいな竜が控えていた。
……夢の中でアユミちゃんはそいつに踏みつぶされてあっけなく死んだ。
せまる凶悪、絶望の地響き、僕は1歩も動けなかった……。
こいつは、炎の死神なんかよりもずっとずっと怖く見えた。」
炎の死神、数多くの生徒たちを殺していた……】
「ちょっと待って! これって!?」
その夢の内容は、現実に近かった。
炎の死神はあいつだ、レグルス。
その先に待ち受けているのは、山のように大きい怪物の竜だった。
「ど、どうなったのあたし!! そのまま死んだの!?」
それは開拓者を続けていけば、端的にアユミの『死』を意味していた。
――その時だった、首都直下型の大地震が襲ったのは。
ドドドドドドドドドド
と物凄い揺れだった。とても立っていられない。あたしは思わずしりもちをついた。
「キャッ!」
とスバル君の机がその振動に合わせて、あたしの方に動いてくる。
あたしにはそれが怖くみえた。
あたしは怖くなり、後ずさった。
そこでカチャと触れたのは、落ちていた壁掛け時計だった。すでに壊れていた。
迫るスバル君の机。
「来ないで……」
迫る。
「来ないでよ」
迫る。
「お願い」
そしてその机は、あたしの目の前で音を立てて倒れた。
あたしにはそれが怖く、目に写った。
あたしは怖くなり、その場から逃げ出した。
スバル君の日記をその場に残して。
なおも地震は続いていた。
私は上手く立ってられず、何度も壁や床に体をぶつけた。
ガンッ、ドンッと、そして、スバル君家からようやく抜け出したの。
「ハァッ……ハアッ……」
あれは何だったのかわからないけど、あたしは怖くなった。
外は吹雪が吹いていた。
「寒い……」
(心も、体も……)
「会いたいよスバル君……」
その時だった、急に暖かくなったのは。
その理由は……。
「あっ……大きな炎……、……まさか……!」
炎が激しく燃え上がった。
そして、あたしに急接近したのだった。
「きゃあああああ」
あたしは寒空の下、悲鳴を上げたのだった。
【恵起ホテル】
スバル(僕)は占い師の少女チアキさんと再開し、話をしながら、恵起ホテルへ辿り着いた。
チアキさんが道案内してくれて、もう動かない自動ドアをこじ開けてくれてから、僕は入所したのだった。手押し車の棺桶を押しながら。
ロビーに広がるのは、ボロボロの内装だった。かっての面影はない。
そして、そこにいたのは長崎学院の生徒たちだった。
「お、お前は……!」
「何だその手押し車は」
「待って!」
とその相中に待ったをかけたのは、チアキさんだった。
「先にケイちゃんをお父さんとお母さんに会わせて!」
「「「「「!?」」」」」
僕は、チアキさんやみんなの案内の元、恵さんのお父さんとお母さんの元へ向かった。
そして、そのご両親の反応は。
「うわぁあああああケイ――!!」
「うっうう……ケイ、ケイ――!!」
ご両親は亡き娘の亡骸に集まり、泣き崩れた。
当然、娘さんは手押し車の棺桶から出していた。
チアキさんや皆さんのお陰だ。
「そっとしときましょう」
僕たちはその部屋を後にした。
助かったかもしれない。
あの時、チアキさんと出会ってなければ、事態は混沌としていたはずだ。いわゆるチアキさんは緩衝材の役割を果たしてくれた。
僕たちは長い廊下に出ていた。
僕はそこにあった長椅子に座っていた。
周りの生徒たちは、そんな僕の行動に目を光らせていた。
そして、チアキさんがジュースを持ってきてくれた。
「はい」
「どうも」
僕はそれを受け取った。
「大変だったわね」
「うん……」
「ねえ、みんなに聞かせてくれる。いったいあの後、何があったのかを――!?」
僕は思い出しながら話した、あの時のことを――
☆彡
「――なるほど。全ての合点がいったわ!」
と呟いたのはチアキさんだった。
「マジか! こいつ!」
「じゃあこいつもしかして、宇宙人か何かか!?」
「おい! シシドやクコンさんは無事なんだろうな!?」
「……シシド君は無事とは言えない。僕がその腕をぶった切ったから……!」
「ッッ……おい、こいつの腕も使えないようにしてやれ!!」
「……」
僕はこの取り巻きたちを睨みつけた。僕の腕をぶった切るだって。
「おい、何だその目はっ!」
「……」
さすがの僕もイラ立った。睨みはきかせている。
「さすがの僕も、自分の生命を守るために、戦わざるをえないな……」
「……」
「待ちなさい!」
と注意を呼び掛けたのは、チアキさんだった。
「弱い者いじめはやめなさい」
スバル1人に対し、あちらは男女混合の16人だった。
「……ハッ! 止めたって無駄だぜ、お嬢様! こいつはノコノコと生き残ったんだ。少しぐらい痛めつけてやらないと、死んだみんなが浮かばれねえよ」
「だから、あなたたちが返り討ちに会うのよ」
それは信じがたい返しだった。スバル1人に対し、負けるというのだから。
「な……に……。何言ってんだ……あんた」
「じゃあやってみるとええ。どうなっても知らないから」
「……」
「……こいよ」
と僕は言った。ただじゃやられないぞ。
「粋がってんじゃねーぞクソガキがッッ!!」
スバル1人対男女混合16人との戦いが始まった。
戦い初めにスバルは歌った。
実はあの後、精神世界にて師匠と先生の手ほどきを受けていたのだ。
僕は気づけなかったが、飛躍的に実力が向上している。
同じ小学生とは比較にならないほどに。
「『氷原を荒べ、100条の氷柱(つらら)』」
少年が殴りかかってくる。
僕はそれをよく見て躱した。
師匠の稽古より遅いよ。
次に第二、第三の攻撃が飛んでくる。
「『我が腕に宿りて』」
僕はそれをガードし、後ろに飛んで長椅子に着地、そのまま跳んだ。
皆の視線が僕に集まる。
「【『彼の者を撃て』!!」
そして、詠唱が完成した僕は、眼下に向けてそれを放った。
「『氷柱』アイシクル(パゴクリスタロス)!!」
その攻撃は全弾わざと外した。
だが、それだけで充分だった。取り巻きたちの体はこわばり、その場から動けない。
どうだビックリしただろ。
当然だ、初見で魔法というものを見たのだから。
カーペットに着地した僕はすぐに駆け、肘内を一発打ち込んで、威張っていたガキをすっ飛ばした。
「ガッ」
続けて第二、第三と攻撃を加えて、取り巻きのガキどもを蹴り飛ばしたり、殴り飛ばしたりした。
「ゲッ」
「ゴッ」
続けて僕は、あろうことか女の子の髪を掴み、振り回して、隣の女子にぶつけてやった。
「ギャ」
「痛あッ」
続けて僕は、歌った。
「『燃え上がれ、3条の炎柱』」
これには周りもビクッとした。
「と、取り囲め――っ!!」
そこからは見るに堪えなかった。
「無駄よ。あの子とあなたたちとではそもそも戦闘力が違う!」
スバルは歌う、この戦いの最中でも。
それは以前、Lが言っていた並行詠唱であった。
「あなたたちはたったの3! 対してあの子は20! それは戦闘力5の大人の力を軽く凌駕している!」
「『我が腕に宿りて、彼の者を撃て』」
「まさかたった1回の死闘でここまで……」
あたしは驚嘆して戦慄を禁じ得なかった。
「『火柱』パイラーオブファイア(スティロスフォティアス)!! 『待機』スタンバイ(アナモニ)!!
とここでスバルは詠唱を完成させ、左手に待機させ留めた。
「3条の『氷柱』アイシクル(パゴクリスタロス)!! 『発射』ファリィング(ピロドチシィ)」
と右手から遅めの氷柱を放ち。
すかさず左手から留めていた炎柱を解き放った。
それは、左手は並行詠唱の炎。右手は詠唱破棄の氷を表していた。
先行した氷に速射性の炎が追いつき、爆発四散。場に熱の反比例作用が働き、急激な気圧の変化で、爆風を起こしたのだった。
「うわぁあああああ」
「きゃあああああ」
スバルは、取り巻きたち16人を吹き飛ばした。
さらに歌う。
「『我、大地の女神ガイアと契約を結びし者なり。古き大地の精霊たちよ、天を地に返し、地を統べよ』!!」
「ま、待った――っ!!!」
これには取り巻きたちも戦線恐々としていた。
「降参だ! あんたに降参する!!」
「……」
子供たちはビクビクしていた。
僕は黙って、そのまま戦闘態勢を維持していた。
そこへチアキさんが相中に立った。
「だから言ったでしょ! 『弱い者いじめはやめなさい』と」
「……」
僕はチアキさんから視線を移し。彼等彼女等取り巻きたちを見た。
取り巻きたちはビクッとして怯えていた。
「……」
次に見たのは自分の手だった。
強くなってる、それも信じ難いほどに。
これが魔法の力か。
「フフッ……」
と彼女が笑みを浮かべていた。
「スバル君」
僕はその声の主に振り向いた。
それは恵さんのお父さんとお母さんだった。
「途中から、話は聞かせてもらったよ」
「……」
聞いていたのか。
「ただ……この惨状はどうしたものかなー?」
「あっ……」
それは僕の魔法で荒れた廊下であり、カーペットだった。
「いつかとは言わず、今から働いて弁償してくれよ」
「はい……」
弁償が確定した。
これだけ荒らせば、さも当然である。
その日、僕は働いた。
ゴミ掃除にゴミ出し、窓ふきに庭掃除、食器洗いにみんなの御前だしと多岐にわたる。
厨房にて、料理人たちが調理を行っていたとき、誰かの愚痴が零れていた。
「こんな生活していて、ホントにいいのだろうか?」
「!」
僕は聞き耳を立てた。
「あの黒い雨で、取引先の農作物や水田、川魚のアユまで被害が出たんだろ?」
「あぁ……。ここは湧き水を回せるから、水不足問題は回避できたが、水道はあの有様……壊滅だ! 井戸水なんかも黒い雨の影響で、環境汚染された……。
……無事なのは、ここぐらいなものだよ」
また、別の料理人が僕の後ろから入ってきた。その人がジロリ目を向けて、横切っていって。
「……ダメだ。持って明日の朝までだ」
そう、報告を受けた同僚の料理人たちは落胆した。
「そうか……米も尽きるか……」
「野菜もダメ。肉は腐って使えない。魚も生け簀にあったものを使い回したし……」
「もう、ここまでか……」
その時、僕の後に入ってきた料理人の人がジロッと見た。
「あれだけの子供に食わせる、食材なんてそもそもないんだよ。うちのホテルのオーナーもわかってただろうが……! なに自分の娘と重ねてるんだ……クッ!!」
「「「……」」」
「……」
これには同じ少年として、スバルも押し黙ってしまう。改めて感じる、己の無力感を。
(絶望的だ……単純に考えてみればそうだ。食材が入ってくる数より人のいる数の方が多い。
……見たことはないけど、その黒い雨のせいで、食うものがなくなっていくんだ……! どうしたら……!)
僕は押し黙って考えた。そして。
「……あの」
勇気を出して、ここの人たちにアンドロメダ星にこないかと言おうとした時――
「――悪手や」
「!」
「「「「!」」」」
僕が、料理人たちが振り向いた。そこにいたのはチアキさんだった。
「姫様!」
その姫様チアキさんが入ってくる。そして僕の前で立ち止まる。
「悪手やスバル君。君、君にはなんの力もないのに、この人たちを誘おうとしたやろ!?」
「なぜそれを……」
(心でも読めるのかこの子?)
「別に心なんて読めへんよ。ただ、近い未来が見えた……とだけ断っておくわ」
(近い未来……?)
「人には役割というものがある! 君の役目は大役や」
「……」
俯いた僕は、訳が分からず下を見た。僕が大役なんて、とてもじゃないけどそんな柄じゃないって。
そんな僕を思って、チアキさんは僕の両肩に両手を乗せた。
「顔を上げぃ。クヨクヨしない」
「……」
「もっと顔を、目を見せて……」
「目を……」
チアキさんは僕の目を見た。チアキさんの目の水晶体に映ったのは僕の顔、そしてその目の輝きだった。
ニコリと笑みを浮かべるチアキさん。
「あぁこれは、ウチには務まらへんな」
「?」
(ウチ?)
この時、チアキさんの自分認証があたしからウチに変わっていた。
「一緒にゴミ出しにいこっ! ウチがあげた『おしゃれな小瓶』もっとるやろ?」
「うん」
――その後僕たちは、ゴミ出しに向かう。
さっさとゴミ出しを済ませる僕とチアキさん。
外は吹雪が吹雪いていた。
「うっ~~寒ぶ~~」
チアキさんもさすがに寒そうだった。
「さっきより、なんか冷え込んできたな……気のせいか?」
「気のせいやない。あたしと会った時より、マイナス1~2度冷えとる! 人間が活動できるのは、もって明日までやな……!」
「……」
それはアンドロメダ王女たちが試算と同じ意見だった。僕もつい驚いてしまう。
「……こっちやスバルくん」
――僕たちはその後、屋外ボイラー近くにある温泉の源泉管付近に移動した。
もちろん、ここは関係者以外立ち入り禁止区域だ。
屋外に設備管理事務所にて、在中していた大人のおじさんとチアキさんは何やら話をしていた。
「お嬢さん! それはさすがに火傷しちまうぞ!」
「大丈夫や! やるのはあたしやない、後ろにいるこの子や!」
「!」
それは僕への当てつけだった。
「ムゥ……お嬢さんの大事な顔に大やけどを負わないなら……いいか!」
(いいのかよ!?)
ビシッと僕は心の中で乗りツッコミを入れた。
「じゃあオジサンが見届け人で付いてってやる! カギはおじさんが管理しないといけない決まりだからな!」
――その後僕たちは、関係者以外立ち入り禁止区域の錠前を開錠して、その敷地内に入る。
3人とも雨がっぱを着用して入所する。これから何かする気だ。しかも、チアキさんは傘まで持ち込んでいた。
そこは温泉の源泉管といくつかの配管が並んでいた。
その配管の周りには、白い成分が付着していた。
「何だここ……?」
それが僕が思って口をついて出た言葉だった。
「何だ坊主聞いてなかったのか? ここは温泉の源泉管を引っ張ってきている大事な場所だ!
ほれ、あのデカい配管の吹き出し口があるだろ? あそこにこの棒を何度もブッ差して、固まっているナトリウムとカルシウムとマグネシウムの混合物の白いやつを剝がすんだよ!」
とおじさんがその棒を、僕に手渡した。
要はこれで、配管の中で固まっている白い混合物を剥がすのが目的らしい。
「スバル君! 日本の10大温泉の特徴って知ってる?
1つ単純温泉。
2つ塩化物泉。
3つ炭酸水素塩泉。
4つ硫酸塩泉。
5つ二酸化炭素泉。
6つ含鉄泉。
7つ酸性泉。
8つ含よう素泉。
9つ硫黄泉。
10放射能泉の大まかに10種類あるんやけど、ここ大分県では、主に5の二酸化炭素泉に分類されるんや!
特徴は入浴すると、全身に炭酸の泡が付着してじんわりと体の芯まで温まって、湯冷めしにくいのが特徴なんや。
効能は切り傷、末梢神経の和らぎ、末梢循環障害、冷え性、自律神経不安定症の和らぎ、
飲用すれば、胃腸機能の低下があるな。まぁ速い話、デトックス効果で体の中の老廃物を出す作用があるな!」
「……デトックス効果?」
「女の子にそれ以上聞かないのが、エチケットや」
「……うんちか」
その時、ブシャーーッと噴出した。
それは設備のおじさんが配管のふたを開けた途端、圧迫された水蒸気が噴き出したものだった。
水蒸気が高く昇り、まるで傘のように眼下に熱い雨を降らせた。
「アチッチッチッ! 何だこれっ!?」
と準備のいいチアキさんはここまで読んでいたのか、傘を差して、自分への被害をなくした。しかもちゃっかり距離まで取ってる。
「さあ、がんばりや♪」
「坊主、姫様の御前だ、漢を見せろ!」
「……ッ!!」
(魔力で全身をガードするしかない!!)
僕は作業に取り掛かる前に、精神を沈めて、魔力を集中して全身に纏った。
ぼんやりとスバルの体が光に覆われた。
それを認めた2人は。
「へ~生ちょっろいガキかと思えば、さすが姫様が連れてくるだけのことはありますね!」
スバルは後ろでその声を聴きながら、その噴出している穴に向かって、長い棒を構えた。
「まぁね! あれぐらいやってもらわなきゃ、全球凍結する地球を起こすための呼び水なんて、到底無理な話!」
「……へ?」
スバルはガンッガンッと長い棒を何度も突き立てて、その白い混合物を除去しにかかる。
「聞いてなかったの? 地球が全球凍結するのよ! 過去に地球は3度もスノーボールアースになってるの、約1億年の間ね。時にはそれ以上の長い年月も要したぐらいなんだから!」
「一億……年……!?」
「それを無理やり起こそうというのだから、並々ならぬ努力がいるのよ!
今日があの子の、初の着手になる日よ! よーく覚えておきなさい」
「……」
おじさんはチアキ様から視線をそらし、坊主の後姿を見た。
熱い雨に打たれて、普通のガキなら音を上げているところだ。
だが、その手は休まず長い棒を何度も突き立てていた。
次第に、噴出していた水蒸気の高さが先ほどよりも高く昇っていた。
「ところで、あの源泉の温度って何度くらい?」
「確か夏場の時期は88度。冬場で86度ぐらいだから、今の時期ですと87度でしょうか!
……でも昨日測った時は、76度ぐらいまで下がってきてましたね」
「源泉の温度まで急速に下がってきてるわね……」
あたしはなんとなく手を伸ばして、その降りかかってくる熱い雨に触れてみたら。
「熱っ! ……うーん、だいたい70度前後ってところかしら? よくスバル君、我慢できるわねぇ」
「……見かけによらず、我慢強い子供って中にはいますからね」
その時、ドンッと最後の白い混合物を剥がし終えて、噴き出す水蒸気が最高点まで達した。
「アチッチッチッ!」
一番被災を受けるのは、もちろんスバルだ。
普通の子なら雨がっぱから除く、顔面を大やけどしているところだ。
そうならないのは、ひとえに魔力でガードしているおかげだ。
後で、顔を冷水等で冷やせば問題ないだろう。
と、この設備のおじさんはなぜ、この仕事についてるのだろうか。きっとこの仕事に就いてからお給料が高いのだ。顔は火傷ものだが……。割に合うのかこれ……。
「よしいいぞ坊主! 後は俺がやる!! 姫様のところに行きな!」
そうスバルに声をかけて、スバルの所に駆け出していく設備のおじさん。
僕の役目も終わり、入れ替わりでこの場を引いた。
その水蒸気の雨が温泉の土に浸透していく――
(あの人の話によれば、宇宙人たちの強力もあって、全球凍結は何とかなると言ってたけど、問題はその先ね……)
あたしがそう考えているとき、スバル君がこちらに帰ってきた。
「クスッ、しょうがない」
「!」
頭を押さえて走って帰ってきた僕は、チアキさんの独り言を聞いた。
僕は何だろうと首を傾げた。
「スバル君、『おしゃれな小瓶』で温泉の土を採取するんや。そうやなぁあそこの赤土がほどよく湿っていていいえ」
「!」
僕はそこまで移動して、空から降り注ぐ熱い雨の中、おしゃれの小瓶の蓋を開けて。
しゃがんで、その温泉水にほどよく濡れた赤土を採取した。
おしゃれな小瓶の中に、赤土が収まり、蓋を閉めたことで、僕が気づかないところで、初めての偉業が成し遂げられた。
これが後日、伏線になるとは誰もが想像だにしなかった。
このチアキグループを除いて。
ニコリと笑みを浮かべるチアキは、微笑んでいるようだった。
「さあて戻ろう。次の雑事が待ってるでスバル君!」
「……うへぇ」
一足早く帰っていくチアキさんは、なぜかルンルンと鼻歌を歌っていた。
(あれ……絶対うんちって言ったこと根に持ってるよなぁ……!)
「ハァ……」
僕はそう勝手に誤認して、女の子を怒らせてはいけないと心に誓うのだった。
――料理場に戻った僕は、皿洗いをしていた。
しかも、次々と食べ終えた食器が運ばれてくるのだ。
(あいつ等食うだけ食いやがって……っ!! 何なんだこの雑用!?)
「ハァ……」
(でも、弁償ものだからしょうがないよなぁ……)
その後ろでチアキさんが別の料理人と方とジャガイモを仕分けしていた。
おもむろにそのジャガイモを手に取り、呟いた。
「アカン……霜や雹にやられて痛んでる。いらない部分だけ取り除いて使うしかないな」
「ネギもその他の食材も痛んでて厄介ですからね。黒い雨にやられて、環境汚染されてますから、一度煮沸してから、原因の菌を取り除いて、使える部分しか使えませんね。
ひと手間、ふた手間かかりますけど、美味しいものを食べれば腹も満たされて、少しはみんなの気分がマシになりますよ」
「う~ん……」
あたしはこのジャガイモ見ながら、何か使えないかと思案していた。
とおもむろにスバル君の後姿を見て、何かのイメージが飛び込んできた。
「……地球物産展……!?」
「!?」
それがチアキの口をついて出た呟きだった。それは何となくのイメージだ。
その横で聞いていた料理人は何のことだかわからない。
とその時、ホテルのオーナーの奥様が入ってきた。恵けいちゃんのお母さんだ。
「調子はどう?」
「女将様! はい、こちらは調理工程に関しては手間はかかりますけど、仕出しに遅れれていることを除けば、おおむね良好です!」
「そうですか、では引き続きお願いしますね」
「はい」
とその女将さんがスバルとチアキの近くに通りかかって、声を投げかけた。
「姫様。こちらはもう十分ですので、皆様と食事をとってください」
「うん。それなんやけど……一つ好手を頼まれてくれへん?」
「?」
「あんなぁ……」
チアキは女将さんに何かを耳打ちして、うんうんとその女将さんは頷いた。
「そうなると見たんですね?」
「うん、間違いない。地球産の子種を残すためには、やっぱりスバル君がキーマンや」
その当人のスバルは食器洗いを続けていた。
「なるべくこの事は、スバル君たちの行動に干渉しんひぃんよう、必要な場面がくるまで伏せておきたい。本人が気づかない自然な形で」
「わかりました」
笑みを浮かべるチアキ。近くに理解者がいてくれてホンマに助かる。
「という事は姫様、あの子が知らない方が良いのでは?」
「せやな、何か別の雑事を与えよう」
「それなら温泉の風呂掃除なんてどうでしょう?」
「おっそれはええな! ピッタリや!」
女将さんの意見で、少年の知らないところで風呂掃除が割り当てられる。
気を利かして、うちの近くにいた料理人がスバル君の元へ行き、少しを話しをして、スバル君は渋々温泉の風呂掃除に案内されるのだった。
その料理人の後ろについていくスバル。
そして、その料理人が去り際、ウィンクを飛ばして、その役目を請け負ってくれたのだった。
それに頷くチアキと女将さん。
「よしっ! 後は順序やな!」
「何か私たちにできることはありませんか!?」
「ありがとう。ケイちゃんのお母さん。今からあたしが一筆したためる。スバル君を通しての紹介状や。ただ、どうしても時間的誤差が生じてしまう。そこだけは避けられへん」
女将さんもこれにはコクリと頷く。
「そこで、ケイちゃんが入っていた棺桶を逆利用さしてもらう。あれには冷凍機能が備わっとる。食品と土を長く鮮度を保つことができるはずや」
「食品と土……!」
「せや! 問題はタイミングやなぁ……直近で見えた未来では、眼下には青い星、地球が見えたから……信じられないところで一戦するみたいやなぁ。
融合して戦って、終いには生身で戦っとる。
相手が大怪我してたこととワザと手を抜いてたから良かったようなものの、あくまで勝ちを譲ったまでや。
戦士としての礼儀やな。心得ておるわ」
その話を聞いて頷く女将さん。
周りの料理人たちも聞く耳を立てる。
「で、スバル君自身も死ぬほどの痛い思いをして眠りについて、起きたら起きたで、凍りつく地球から難民を移動させるために、一騒動に巻き込まれて、どっと疲れるみたいやな。
散々な内容や……」
「……ではどこで……?」
「う~ん……」
あたしは目を瞑り、流れ込んできたイメージを思い返してみると……――
「――これはアンドロメダ王女の別荘の迎賓館みたいやな。
そこで地球組、アンドロメダ組、あと2つの勢力が見えた。
話の内容はよぅわからんけど、地球とスバル君に対する今後の重大な話し合いみたいやな。
そこで写真が見えた。なんや気持ち悪い生命体が映った写真で、地球で何か異変があったみたいやな。それ関係で一度スバル君たちが地球に帰ってくる。
大事なのは、その今後の話の中に、上手くスバル君が地球の物産展の話を持ち込んできた事や!
聡い子や偉い!
で、偶然にもアユミちゃん……そう、アユミちゃんがその後、難民キャンプに残るはずや。
近くに、1人、2人……うん、男女の子供が見える。親が何やら力を持った有力者みたいやな」
「つまり――」
「うん、アユミちゃんにその時コンタクトを取れれば、上手くいくはずや!」
その時、何か希望が見えたような気がした。
心なしか、ジャガイモなどの野菜が未来を紡ぐ気がした。
微笑むチアキ。その時、ハッと思い出した。
★彡
――パチンッ
それはあの囲碁の対局中での出来事。
姿の見えない、大いなる存在はまるで神のように、言の葉を残す。
「ハサミって知ってる?」
――パチンッ
とその人物は黒石の斜め上に黒石を打った。それはまるでハサミのように。
「? ……この形のようにまるでハサミみたいな形だから、そう呼ばれてます」
ここでその人は嘆息した。
「ハサミにはいろいろ派流がある、ハサミツケ、ハサミカカリ、ハサミトビ、ハサミハネ、時には悪手に見せかけての好手に化かすなど実に様々だ」
「……」
チアキはその人に向き直った。
「ハサミとは元来、縁起物の1つで包丁と同じように、災いを断ち切る、未来を切り開くという意味がある」
その神は、腕を組み、あたしの顔ではなく、まるで別の所を見るかのように顔上げた。
「未開拓の地に臨みつつも、時に人は母の手料理を恋しく思う。されど、故郷の食材なくしてはその希望もつゆとなって消えよう」
あたしはコクリと頷いた。
「恵けいとはいい名だ。されど時間の経過とともにその名も忘れ去られよう。
そうならぬために紡ぐものが必要だ。時にそれは人そのものではないのかもしれない」
「何を……?」
「フッ」
その神はあたしに向き直り、笑みを浮かべる。
「ささやかにも、後日、君はとある少年と再開し、種を残そうとする」
「種……?」
あたしの顔が赤くなっていく。種ってまさか、こ、こここ、子供ッッ
「……ッッ」
あたしは唇を嚙み締めて、痛みでそれを追い出した。
「……捉え方は人それぞれ。残すことそれは生を繋ぐことだ。さあ、次は君の番だ。打ちたまへ君の手を――」
☆彡
「――あれって、そーゆう事だったのね……フッ……」
あたしは思わず笑ってしまう。
(ホントにお節介な神様)
あたしはあの後、女将さんに事情を説明して、割り当てられた部屋に戻ってきていた。
今は親書を送るため、筆を認めている。
高級和紙を机の上に広げて、筆を手に取る。
そして、その親書を送るために、封書にはアンドロメダ王女様御中と書き留めていた。
だけど、中々いい文章が思いつかず、う~んと顔を上げて考え込んでしまう。
そこで思い出したのが、女風呂だった。
【女風呂】
僕は女子たちが使う前に、ブラシで床をこすっていた。
なお、男子と女子は食事中である。
詰まるところ飯抜きだ。
「中々落ちないなもぅ」
「知らないん? 石鹸の層は厚ぅて、セメント並みに硬いんよ」
僕はその声の主に振り向いた。
その人は、タオル1枚で大事な所を隠したチアキお嬢様だった。
あたしがなぜここにいるのか。それは心の変化としか形容できないだろう。我ながら思い切った行動ができたものだ。ひとえに驚くあなたの顔を見たいだなんーて。
(ってかなぜ? ここにおるん?)
「ちちちチアキさん!! 何でここに!?」
「飯食べる前に、風呂入ろう思うてな。ばったり会うやなんて、これも何かの縁やろうか」
「はわわわ」
チアキさんは堂々としていて、そのタオル1枚で大事な所を隠して、もう片方の手を腰に置いていた。
そして、僕の方に歩み寄ってくる。
「んんっ、ぼくぅひょっとして緊張してるー? 安心しい。他の女子たちはまだ花より団子や」
そう、他の女子たちは食事中だった。
つまり、いくらかマシなのだ。
ただ、それでもここは。
「し、失礼します!!」
「ちょお待ちぃ!!」
「はっはい!」
とここから逃げようとしていた僕は立ち止まった。
「な、何でしょうか!?」
あたしはこのスバル君をジロジロと見た。
うん、持ってるようには見えへん。
「あ、あの……」
「あんた……。銀の狐と金の狐にまつわる、ある国のお姫様について話をしたやろ?」
「は……はい」
「恵ケイちゃんから、銀の鈴をもらってないぃん?」
「……え?」
「やっぱり……」
あたしはハァと嘆息した。
どうりで死んだはずや。あのおっちょこちょい。
「あの……何の話ですか?」
「……」
あたしは額に手を置いて考えた。そして話すことにしたんや。
「以前にあたしはケイちゃんに会うててな。その夢のお告げをしたんや」
「夢……?」
「そうや。俗にいう『予知夢』というものや。
あたしはこの能力を、『夢見』と呼称している!
その内容によれば、銀の鈴をもらったあなたが、金の鈴を持ったケイちゃんを見つけ出し、
あの炎の死神から救い出す夢物語や。
そして、小さき宇宙人と協力して、
その炎の死神から、女の子2人を護るええ話だったんやけど」
「2人……?」
僕は一抹の疑念を抱いた。
「……妙だな」
「?」
「それじゃあ、誰か1人は確実に死ぬことになる。アユミちゃんか、クコンさんか、それとも恵さんが……。3人のうち1人は助からない……」
これにはあたしもハッとした。
「……もしかして、Bの選択を取ったか……Aの選択を取ったかで……。微妙に予知夢が変わった?」
「……」
チアキさんは僕の目の前で、う~ん……と何かを考え込んでいるようだった。
僕はチアキさんを見ていて、その顔から体の方に視線を落とした――
タオル1枚で大事な所を隠しているその瑞々しい肢体を。
アユミちゃん並みに出てるところは出てて、なんか僕を誘うようだった。
女の子らしいボディラインだ。
そのタオルの切れ目から膨らみのある乳房が垣間見えた。アユミちゃん並みの豊胸だ。
「う~ん……」
と考えるあたし。
そして、ある呟きが落とされた。
「柔らかそう……」
「そうやなぁ柔らかそうやわぁ……んんっ!?」
あたしはすぐに気持ちを切り替えて、この子を見た。
「どこを見てるん!!」
当然、その女風呂にバシンッという豪快な音が響いたのだった。
僕はドサッと倒れ、彼女は走り去って逃げた。
――その後。
さも、当然のように女子たちが談笑しながら入ってきて。
「え……」
「いや……」
「痴漢――ッ!!!」
「「「「「キャ――!!!」」」」」
当然、僕は見つかり、彼女たちに袋叩きにあいましたとさ。……グスン……ッ。
で。チアキお嬢様のお食事中。
あまりが食欲がなく、喉を通らなかった。
「もぅ馬鹿ぁ」
あたしは頬を赤らめていた。何であたし、一緒に入ろう思うたんやぁ……っ。
TO BE CONTIUND……