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第2章の第19話 運命の5日目! 宇宙の法廷機関! スバルとLの真理の道理!

【――そして、運命の5日目】
地球の変動は続き、世界各国を覆う黒雲が太陽光を遮断し、日の光が届き難くなり、陰りとなって地表全体が暗かった。
この頃になれば、地球全体の規模で起っていた。火山の噴火は小康状態なり、頻発する地震の回数が目に見えて減り、荒れ狂う大波も衰えを見せていた。
通算して、事件発生から4日目にして地球全体が、急激に冷え込んでくる現象が起きていた。
今降っているのは、死を呼ぶ黒い雨ではなく、火山灰が氷結し、ヒラヒラと舞う雪の子と、霰と雹の痛いつぶてだった。
黒雲がゴロゴロと雷鳴と轟き、青白い光が雷光となって駆け抜け、数多の雷なって、各所を襲う。
半壊したビル街、そのビルの外壁に落ち、その衝撃でコンクリートの瓦礫と割れたガラス片が、荒れ果てた路上を襲う。
溶岩流が流れ冷えた後の炎上する大木をズガァアアアアアンと真っ二つにして、甲高い音が鳴り響く。
逃げ惑う人の脳天にも落ちたちまち倒れ伏してしまう。それは周りの人まで感電させるほどだった。
地球各所で数多の台風が発生して、暴風雨と大粒の雹が襲う。
天は怒り、雷光となって、それを見上げていた人々は絶句していた。
そして、時折、まだまだ続く地震の勢い、それは地割れとなって、アスファルトの路面を亀裂と化して走り抜けるのだった。
それはまさに、いつ終わるとも知れないこの世の悪夢だった――


――そしてこちらはプレアデス星。
アンドロメダ王女は、宇宙の法定機関に呼び出されていた。
そこには、スバルの姿もあった。
この場に集うは、各宇宙から選ばれた各ファミリアの裁判官たちである。
前回に引き続き、各宇宙の惑星の王族が務めている。異色の最高裁だった。
そして、ヒースとシャルロットの両名は、アンドロメダ王女の非行をまるで許すように、擁護していた。
「――以上のように、当王女アンドロメダは、国民と我々ファミリアの怒りをぶつけるように、地球を攻撃したまでです」
「どうか最高裁判官殿、寛大な御心を彼女の擁護を!!」
今回の最高裁判もプレアデスファミリアの女王様が続投していた。
なお他にも、幾人か女王様の姿が見受けられる。
「……話は分かった。では、なぜこの場にそぐわない地球人の子を連れてきた!?」
皆の視線が一斉に僕に向けられた。
それが運命の瞬間だった。

「それは僕が、地球人とアンドロメダ星人、双方のいいも悪いも見てきたからです!」

その光景をアユミとクコンが、
デネボラとシンギン以下兵士たちが、
アンドロメダ星の国民たちと各ファミリアが、
地球の民たちが、
そして、どこかでその映像を見ていたレグルスが刮目していた。
アユミとクコンは、アンドロメダの別荘でその光景を見ていた。
デネボラとシンギンたちは、法廷の前のホログラム映像で。
アンドロメダ星の国民たちと各ファミリアは街頭の大型空中エアディスプレイで。
地球の民たちは驚き、荒れた街並み、黒煙が上がる中、顔を上げて黒雲一面に映るその映像を注視する。恐れおののいたその顔で。
レグルスは、どことも知れない場所にいて、その映像を注視していた。
スバルは、世界中から、それこそ宇宙中から注目を集めていたのだ。


――そして、それはどこかでチアキが囲碁を嗜んでいた。
(この形シチョウ)
それは黒石にハメられた白石がどこまでも逃げていく様だった。
シチョウが決まれば、そこまで打っていた白石が、周りの黒石に囲まれて、すべて取られるというものだ。
(……ッ! 空気が重い……っ!!)
チアキが白石を打つたびに、対局相手が黒石を打つ。
(このままじゃ、天元が取られる! 前に打ったこの石に繋げられるか……勝負!!)
パチッ
この白石が死ぬか生きるかが、瀬戸際だった。


――宇宙の法廷機関の場で、スバルは思いの丈を力説した。
「地球人としては、彼女を許せません。
ただ、このままでは、この問題を永久に解決できません!
だから、地球人としては、歩み寄る立場だと思います!
僕たち地球人はまだ、若い……若い。あなたたちファミリアの存在を知らない、知らなかった……この宇宙のことを知らない。
だからこそ、知らないからこそ、誤解が生まれ、今回のようなケースを辿ってしまった……」
これには最高裁判官も頷いた。
「その知らないを知り、君は何を見た?」
「知らないからこそ、知りたいと思いました!
今、僕は地球人として、最もこの宇宙の中心にいます!
だから……だから……新しい世界を築きたいと思います」
「君の言う新しい世界とは……?」
「ファミリアに加入することです!」
これにはプレアデスファミリアの女王様で在らされる最高裁判官も、目を細めて小さく頷いた。
なるほど。道理だ。
「君は、ファミリアに加入する条件は知っているのかな? 最低条件だけでも君は満たしていない……」
「もちろんです! そして、地球は今、どうなっているのかご存じですか!?」
ここで中心地である天元の白石(スバル)は、嵐を呼び込むカードを切った。
それは――
『――氷結への脈動『トゥフリーズ・ポーセィション(ナ・パゴシィ・パイモース)』をご存じですか?」
これには最高裁判官の顔もピクッと動いた。
シャルロットさんが、事前にその現場の動画を取り、それを皆さんに見えるように流した。
「それは、わらわの『青白い光熱の矢』ブルーフレイア(キュアノエイデスプロクスア)でやったことじゃ! その罪は、非は認める……!」
これには各ファミリアの裁判官たち、女王様たちも一様に難しい顔を取り、ザワザワと騒ぎ出した。


☆彡
他所、アンドロメダ星にて。
「嘘……ッ!」
「アンドロメダ王女様が……ッ」
「そんな……」
「おいおい、ここで対応を間違えたら、アンドロメダ王女様が死罪に……ッッ」
「……ッッ……ッッ」
「今、アンドロメダ王女の生殺与奪が……あの子に握られた……!」
「!!」
一同は、その言葉を漏らした者に振り向いたのだった。
最悪の結末が頭の中を過る。
ともすればそれは、アンドロメダ星全体に関わる、不祥事であるため。
その責任の所在で、どれほどの罰則(ペナルティ)がくるのかわからなかった。


他所、地球にて。
地球人類は顔を上げて、黒雲に映るその映像を注視していた。
「おいおい、まさかあれって、俺たちの星か!?」
「嘘ーッ!! 誰よあんな大穴を開けた奴!」
「道理で地球全体が冷え込んできてるわけだクソッ!!」
「じゃあこのおかしな異常気象はッッッあの大穴のせいかァッッ!!!」
「誰がやったんだ!!? クソ野郎~ゥ!!」


他所、クリスティ。
「あの子……あの時あった……!」
この状況いったい全体どうなってるのかわからない。謎だらけだ。
でもこれだけはわかる、これは地球人類、存亡をかけた一大事であることを。


他所、アンドロメダ星の別荘にて。
「アユミちゃんの彼氏! すごい事になってるわよ! これどうなるの!? 大丈夫なのー!?」
「ううぅ……スバル君、この場にそぐわないからなぁ……。ホントに大丈夫かな? あたし見てて心配だよぉ。がんばれ~スバルくぅん!」
もうあたしは、祈る思いだ。


他所、どことも知れない場所。
そこにはレグルスの姿があった。

☆彡
『氷結への脈動』トゥフリーズ・ポーセィション(ナ・パゴシィ・パイモース)の映像を流した、シャルロットさんが話をする。
「皆さん、私の言葉に耳を傾けてください!」
宇宙の法廷の場にいる皆が、シャルロットさんを見下ろした。
「ここにいるスバル君は、
地球が『全球凍結』スノーボールアース(クライオジェニアン)が起こることを既にご存じです!
だからそのために、この法廷の場に顔を出したのです!」
次にヒースさんが話を続ける。
「私たちアクアリウスファミリアは、事前にこのスバル君とアンドロメダ王女との食談の場に合わせ、後から駆けつけました!
そして、スバル君の口から、信じられない言葉を聞いたのです!!」


★彡
「地球人の方、あなたが最高裁判官ならどんな裁きを下しますか……」
「……地球人の難民を受け入れる施設を投じてください」


☆彡
「――と。普通言えますか? 10年そこら生きていた普通の少年が! 私は驚愕し、打ち震えました!
本当です!
彼の言葉には、許すも許さないもなく、知らなかったからこそ、今回の事件のケースまで発展したのです!
だから我々は考えました!
……彼等地球人類には、知る機会を与えようと……!」
「そのために地球には今、生中継(ライブ)映像を流しているのです!」
「なるほど……では、地球人スバル君!」
「はい!」
「君は知ったうえで、何をしたい!?」
「…………」
僕は口ごもった。まだか、まだ来ないのかと。ヒヤリ汗が流れた。
そして、タイミングを合わせたかのように、やや遅れて、この宇宙の法廷の場に似つかわしくない音がした。
それは両扉を開く音だった。
その奥から現れたのは、デネボラとシンギンと幾人かの兵士たち、そして待ち望んでいたLだった。
Lは空中浮遊し、スバルの隣に付いた。
これには周りの裁判官たちも驚いた。
「おい! あれってまさか……!」
「嘘だろ!」
シャルロットさんとヒースさんは頷き合い、口裏を合わせたかのようにこう言った。
「「君の名は?」」
「僕は、元ソーテリアー星のオーパーツLです!!」
「……ッッ」
これには最高裁判官も衝撃を受けた。


――そして、チアキの打った絶望的な白石が逃げていき、黒石が逃がさないように追い詰めていく、
その形はシチョウだ。
だが、黒石は途中でそれを追うのをやめた。
なぜなら、白石が逃げる先は、事前に打ってあった白石が置かれていて、シチョウ返しに会うからだ。
だから、この場でその白石、天元が生き残った。
だがこの格上の相手は、チアキの狙いを読み、途中からその追撃の手を止めて、他に石を回していた。
シチョウ返しになると踏んだ相手は、途中からその穴を塞ぎにかかっていた。
いや、むしろ、別の手を考えていた。
「ほぼほぼシチョウ返し!」
あたしは危なかったばかりに脂汗を拭った。
この対戦相手は強く、底がまだ計り知れない。
この穴だらけなシチョウもどき、それすらまだ戦える余力を残しているようで、打ち手の力量が伺える。
あたしは「ゴクリ」と生唾を呑み込んで、石を打ち続けた。


――この宇宙の法廷機関の場で、僕とLは再開を果たした。
「スバル君」
「L」
「「久しぶり!」」
「怪我の具合はどう?」
「君がそれ言えるのー?」
「ははは」
「クフフフ」
僕たちは笑い合い、2人揃ってプレアデスファミリアの女王様もとい最高裁判官殿に向き直った。
「僕は考えに考え抜きました! この問題を直面にして、いかに解決するか!」
「それは何てことない、童話の中にあったんだ!」
Lは、ある物を宇宙の法廷の場に持ち込んでいた。
僕はそれを、サイコキネシス(プシキキニシス)で運び、みんなに見えるように見せた。そう、それは――
「――『ツナガリの開拓記』だったんだ!」
シャルロットさんが核心を突く。
「『プレアデス星の女王様』であらされるあなた様なら、当然ご存じですよね!? 最高裁判官殿!」
「彼の願いはこうです!!」


★彡
「地球人の方、あなたが最高裁判官ならどんな裁きを下しますか……」
「……地球人の難民を受け入れる施設を投じてください」
「……わかった! 喜んでその資金は捻出しよう」
これにはシャルロットさんヒースさんも聞き、頷いた。
「じゃが……それでは当面の問題、『全球凍結』スノーボールアース(クライオジェニアン)から場を離れただけ。何も解決しておらぬ」
「……宇宙は広い。そこには革新的な技術が眠っているはずです!」
「!」
「僕が『橋渡しになります』! その為の方法を教えてください!」
「そ、それならば、ファミリアに加入するのはどうですか!? スバル君!」
とシャルロットさんが言ってきた事だった。
「ファミリア……!?」


☆彡
「地球人の子供が『橋渡し』だと……!」
これには法廷中がザワッと驚嘆した。
「スバル(僕)と!」
「L(僕)は!」
「開拓者(プロトニア)になります!!」
これには最高裁判官も、面を食らったかの如く額に手を置いた。
それほどの驚天動地だった。
「そして! いつの日か、凍りついた地球を解凍して、難民だった人たちを僕のファミリアに受け入れ、
『宇宙団体協議連合加盟』通称ファミリアの条約に基づき、加盟して見せます!!」
これには最高裁判官も大きく仰け反った
「……ッッ……ッッ」
(こっ……これはまさか……ッッ!!)
私は疑いの目を、この2人に向けた。
「アクアリウスファミリア……ッ!!」
「「!」」
「さてはあなた方の入れ知恵ね!?」
「いいえ!」
「彼の発想です!」
「な……に……!?」
驚嘆ものだった。
「僕たちは1つになったとき、互いに持っていた情報を共有するという、稀な現象を垣間見ました!」
「それが故トナが残した! 僕たちへの願いだったんです!」
「さあ、L!」
「うん!」
僕たちが手を繋いだ時、光が走った。
光が晴れるとそこにいたのは、彩雲の騎士だった。
これには周りが驚き、ドヨドヨした。
「あなたは……」

「「僕は元ソーテリアー星オーパーツLと地球人スバルとが融合した姿! 彩雲の騎士、その名はエルス!!」」

アンドロメダ王女が前に出て、2人を後押しする。
「アンドロメダ星はその責任を取り、地球人の難民を受け入れる!
そして、この2人を開拓者(プロトニア)として後押しすることを、この場に誓って、約定しよう!!」
「私たちアクアリウスファミリアも、彼等2人を後押しするとともに!」
「避難民の受け入れを容認します!」
「……ッッ」
驚き続きだ。
アンドロメダ、アクアリウス、そして地球人が手を組んだ。
こんな形、誰が想像できただろうか。
「地球人とアンドロメダ星のオーパーツ……いや、地球人と2つの惑星を繋ぐLとが協力して、この事態に当たるか……!
うむっ!
ここにて、スバルとLの開拓者(プロトニア)希望を認めることとする!!
その志望動機は、全球凍結する地球をいつの日か解凍し、ファミリアを立ち上げること!
そして、『宇宙団体協議連合加盟』通称『ファミリア』に加盟することとする!!
並びに!
アンドロメダ星はその責任を取り、その間、地球人の難民を受け入れ、2人を全力で後押しすることとする!
なおアクアリウスファミリアも、その約定に従い、2人を後押ししつつ、難民を受け入れるように!
これにて、当法廷を閉幕とする!
――以上!!」


――そして。
パチッ
パチッ
パチッ
対局が進み、勝敗がついた。
(これ……半目勝ってる負けてる……?)
パチッ
「!」
コヨセが進み、ようやく相手の意図、狙いが分かった。
「持碁か……!」
それは勝ち負けのない、対局図だった。
「局面はニコウ、黒と白石どちらでもない整地に落ち着いたか……!」
あたしは最後まで、この対面の相手に勝つことはできなかった……。
いや、もしかしたら――
(――もしかしたら、相手に打たせられていた……? 遥かなる高み……。――神の一手……!)
「フッ……」
(まさかね……)
もしそうだとしたら、あたしは戦慄を禁じえなかった……。
「ありがとうございました!」
あたしは対面の相手に、一局打ってくれたことに対して、頭を下げて一礼を取ったのだった。


☆彡
その後、裁判官たちは職員通路を通り、大広間にて集まっていた。
「今回の議題は凄かったな……!」
「ああ、鳥肌が立つくらい、打ち震えましたぞ! フォフォフォ」
「あの地球人の名前、何て言うんだ!?」
「スバルだ! これは開拓者(プロトニア)において、面白い奴が出てきたぞ……!」
「フフッ、まだわからんぞ……これからどうなるのか。何しろあの星は1Gだからな……! 開拓者(プロトニア)の冒険は生半可なものじゃない! 死んでもおかしくないんだ!」
ここでプレアデスファミリアの女王様もとい最高裁判官殿が。
「……若い芽か芽吹くか……いや……」
その時、渡り廊下にいい風が吹いた。
「風か……これは吹くな、若い風が……。地球の『青い息吹』ブルーブレス(キュアノエイデスプネウマ)が……!!」


☆彡
このプレアデス星の大空を、空飛ぶ浮遊島が飛行していた。
「し、ししし島が飛んでる……!?」
それは僕の驚倒を奪うほどの常識外れの出来事だった。
「え? フツー浮遊島ってあるよね?」
それはLの常識の言葉だった。
「え?」
「あるよな? 浮遊島」
「ねえ」
「地球にはないのか?」
スバル、ヒース、シャルロット、アンドロメダ王女と口々に告げる。
「え~~!?」
僕の驚倒をさらった。
(僕の常識が通じない……これが宇宙か、ファミリアか……!)
僕は現実を受け止めた。
「にしても遅いな、この浮遊島。飛んだ方がまだ速いぞ!」
「我慢してください王女! 来るときみたいに宇宙船を使ってもいいですが、今は整備中です! 少しは心にゆとりを持ってください!」
「チッ」
王女は舌打ちをした。とても王女様だなんて思えない。
「……」
僕はその様子を見ていた、ら。
「そうだ! スバル君は浮遊島は初めてなんだろ?」
「ええ」
「ここの浮遊島は……口で言う前に、そこら辺にある土を拾ってみなさい」
「?」
僕はヒースさんに言われるがまま、土を手で掘って取ってみた。
ヒースさんがその土を覗き込む。
「わかるかい?」
「う~ん……ひょっとして、これって……掘ったところが違う?」
「正解!」
どうやら正解だった。
「この浮遊島は、人口の浮遊島なんだ」
「人口の浮遊島?」
「目で見た限り、3種類以上の粒が混じってるだろ」
「ええ」
「これは例えるならば、重機で3か所以上のエリアを掘り進めて、その埋め立て地に使われたのがこの人口の浮遊島なのだよ。
だからその粒子や土質が違う。当然だよね、掘ったところが違うんだから!
ここの土は、国や風土の違う土を持ち寄って、その中には山の土や海の土なんかもある。
そして栄養価のある赤土や鹿沼土、腐葉土も混じってる! これならば、土の中に潜んでいる微生物の種類も色々だ。
おっ! これなんかは火山灰土壌のいい土だな!」
「火山灰土壌……?」
「レアないい土だよ! 火山灰土壌というのは、黒く軽量な土で、浸透性や保水性に優れ、通気性や水はけがよく。
その特性は、仮比重が小さくて、3次元構造に富んだ立体構造による点は、スポンジによく似ているね。
つまり、何が言いたいのかというと、有機物やリンを良く吸着するという性質を持ち合わせているから、農業に大きな恩恵をもたらしてくれる!
美味しい作物が実るんだよ。また温泉の土なんかに回すのもいいね」
「へぇ~農業~!」
「当然、そんなんだから土壌が豊かで、島の総重量が違ってくるよね!?」
「総重量……もしかして……」
「フフッ、気づいたか!」
僕はコクリと頷いた。
「浮遊島の土なんかを限定すれば、速い島やここみたいな普通の浮遊島がある!?」
「正解! 大きく分ければ天然の浮遊島と人口の浮遊島があって。
人口の浮遊島の中には、速い浮島やここみたいな普通の浮島がある! また、魔法化学や研究目的等で、様々な浮遊島があるんだ!
中には、一面雲だけの浮遊島もあるぐらいだよ!」
「雲の浮遊島もあるの!?」
「あるさ! 当然だろう!」
ニッと快活に笑うヒースさん。
そこへシャルロットさんが。
「浮遊島だけに囚われてはいけませんよ。空の浮遊島だけじゃなく、海底を移動する島国もあるのですからね。別名、龍宮王国」
「龍宮王国!?」
「はいーっ♪ ファミリアによっては、海底に王宮を構えているところもあるのですよ!」
「もしかして、空の上にも……」
「あるよ」
そう言ったのはLだ。
「アンドロメダ王なんかは雲の浮遊島で、下界の様子を見てるからね」
「アンドロメダ王!?」
「わらわの父じゃ」
「ひえぇ……」
それはまさに、雲の上の存在だった。
――とそこへ、デネボラさんが。
「皆さん、予約席が空いたようですよ。一度食事を取りましょう」
僕はこの日、生まれて初めて、人口の浮遊島にて食事を取ることになったのだった。


――そこはまさしく高級料亭の様相だった。
床には人口の石畳が並べられていて、小石が敷き詰められていた。周りの外観は赤とかオレンジ色を使われていて、いかにも気品がある。
植物にも気を使われていて、松、竹、梅、(ショウチクバイ)を意識していた。
「ご予約のアンドロメダご一行様ですね。どうぞこちらへ」
対応に当たってくれたのは鳥人間のオルニスという種族だ。この種族は実に様々な見た目があって、全員オルニスという一括りなのだ。
この人の特徴は、鶴を模した鳥人間の女性だった。
(ホント宇宙に出れば、色々な種族がいるんだなぁ~)
僕は外観を見回してみたら、壁一面に大きな水槽、生けすがあって、その中を泳いでいたのは亀だった。
(宇宙にも亀がいるんだ……スッポンってどんな味なんだろうなぁ? 女性にうれしい美肌効果があるって言うけど……)
鶴の鳥人間が僕たちを案内してくれて、大きなシャボン玉に包まれた屋台船が停泊していた。
船の上には部屋があって、人が数名入って、食談を楽しむことができる。
僕たちは案内されるまま、その応接室に入った。
(床は畳か……!)
「どうしたのスバル君?」
僕の疑問に答えてきたのは、シャルロットさんだ。
「いや、宇宙にも畳ってあるんですね?」
「ああ、高級な畳床だからね。
高級天然素材だから、室内の湿度調整、空気浄化作用が他の畳床と比べて最も優れていて、天気干しすれば、日の光の温かかな匂いがするでしょ!」
「うん」
「経済的コストを考えて、張り替えているのよ」
「へ~」
「まぁ畳だけじゃなくて、使われている木材や、高級な黒漆を使われていて、さも気品が違うからね。さすがプレアデスファミリアだわ……!
ショウ様に言って、今度作ってもらおうかしら!?」
「ショウ様……?」
「あぁ、ガニュメデス王の婦人だよ」
そう話に割り込んできたのは、ヒースさんだった。
「ガニュメデス王の婦人!?」
「ホテルとか経営していてね。昔はバリバリの開拓者(プロトニア)だったんだけど、ある事情で引退したのよ」
とシャルロットさんが再び話を振ってきた。
「へぇ」
「息子さんと娘さんがいて、今はどちらともバリバリの開拓者(プロトニア)人生を送っていて、資産がありたっけ余っていたから、有意義に使ってらっしゃるのよ
新しい経営も考えていたから、今回の事を通して、報告書をまとめているわけ」
「へぇ、凄い人なんですねぇ」
「「え……?!」」
「え……?」
ここにはなぜかヒースさんもシャルロットさんも、ひょうきんな貌をした。
僕も驚きだ。
「えーと……」
「スバル君、あの人は凄いは凄いけど、参考にするのは止めた方がいいわよ」
「え……」
「頭の中が、常人とはかけ離れた人だから……」
「……」
僕は、この問題には触れない方がいいんだろうなぁと思ったのだった。
そもそも地球人の常識が通じない世界なのだから、僕の頭の理解が及ばない世界にいるのは確かだった。


☆彡
――そして、豪勢な料理が運ばれてきた。
その料理人は、水上バイクを使って、造りものを運んできた人だった。
「『空島特産果物添え、堕ちゆく天使の微笑み、スカイシーフード特盛コース』です!!」
(いきなり凄いのが出てきた……!!)
周りに敷き詰められたのは7種類のフルーツだ。しかもその下には野菜が添えられていた。
相中には、見た目と食通を考えて、湯葉を使っている。
それは小さな船の上に盛り付けられた、色とりどりの魚の活け造りだ。
小さな氷山の一角にも魚の切り身とは一味違う、馬刺しが添えられていて。
鼻の長いサケやマグロみたいな魚が、生きたまま活け造りとして降ろされていた。
「こちらの3種類のスープと紫醤油を使ってください! こちらは薬味です」
僕たちは早速、それを食すことにした。
「……ッ!」
「どうじゃスバル?」
「歯応えが違う! 白身なのに、歯応えがスゴイ……例えるならまるで豚トロみたいだ……! コリコリした触感がこれまたいい」
「フフッそうじゃろそうじゃろ! デネボラ、いいところを抑えたな! 褒めてつかわすぞ」
「……」
アンドロメダ王女の誉め言葉にデネボラは黙って会釈を返した。
「フフッ、できる身の回りの世話をしてくれる侍女がいてくれて、わらわも鼻が高い!」
とその間、デネボラさんは侍女そのもので、アンドロメダ王女の取り皿に魚の切り身を彩りよく添えて、王女の御前にソッと差し出すのだった。
まるで、身の回りの世話をやいてくれる侍女その人だった。
――だが、ここで改めて、アンドロメダ王女の雰囲気が変わった。
「――さて、食に舌鼓を打つ前に、改めて、今回の件は助かった、感謝する!!」
アンドロメダ王女は、アンドロメダ星の代表として僕たちに頭を下げた。
その間、まるで時間が止まったようだった。
「今、わらわが、こうしてここにいるのは、皆のおかげじゃほんに助かった。ありがとう」
僕たちは顔を朗らかにした。
一番手に口を開いたのは、シャルロットさんだ。
「困ったときはお互い様ですよアンドロメダ王女。それに今回の件を通して、王女との結びつきができました。これは私たちにとっても有意義なことなのです。ねえヒース!」
「そうだねシャルロット。
このご時世、必ずどこかで落とし穴がある!
横の結びつきは、時として強力な一助の助けとなるからね!
アクアリウスファミリアとアンドロメダファミリア、これから先、まだまだ未解決の問題を解決していかなければならない。……そう思うよね、スバル君!?」
「――はい。法廷の場でも言いましたけど。僕たちが知らなかったからこそ、今回みたいな事件のケースを辿りました。
……どちらが悪いとは一概には言えませんけど、僕は王女を信じて、任せることにしたんです。
……最終的な目的は変わりません。地球人として、その地に育った者として、皆さんを信じて行こうと思っています。
父ちゃんと母ちゃんが言ってました。仁義を通してこそ、人徳が備わることを……!」
「……よくできた御両親に育てられたのだな、スバル……」
それはアンドロメダ王女の心を打った感動ものの徳だった。
「何なりと困った事があったら頼ってくれ! 未来の地球のファミリアの星王となるものよ」
「はい」
僕は心に決めたのだった。
何か困ったことがあった時は、必ず、アンドロメダ王女やヒースさんやシャルロットさんたちに頼ろうと。
この結びつきは、失ってはならない、尊いものだということを――
「さあ、前祝だ。気にせず舌鼓を打ってくれ!」
はいと僕たちは頷いて心得るのだった。
僕たちは箸を、フォークを、超念力を伸ばし、その活け造りの魚の切り身を取っていくのだった。
だけど、ここで僕は。
(あれ……? 今さっきフォークが……)
それは食文化の違いだった。
(そうか、食文化の違い……! 僕たち日本人は箸を主に使うけど、惑星によってはフォークも突き刺すんだ……! Lにいたっては念力だけど……」
とここでデネボラさんが皆さんに注意を促す。
「L、姫様、スバル君たち」
「はい」
「紫醤油等を零さないようにしてくださいね。アンドロメダ星の品性に関わりますから」
そう言いつつ、デネボラさんは正座して座り、ピシッと背筋を伸ばしていたのだった。
(デネボラさん、気品があるなぁ……それに比べて……)
この中で一番品性がないのは誰かというと、シャルロットさんとアンドロメダ王女だった。
デネボラさんが箸を上手く使えるのに、
この2人はなぜかフォークを突き刺して、紫醬油の中にチャプチャプと漬けてから、口に運ぶのだった。
(いや日本人なら箸を使えて当たり前で、外国人ならフォークってわかるけど……。
ここは宇宙一のお膝元なんだろ!?
アンドロメダ星の王宮の英才教育はどうなってるんだ!?
アクアリウス星人のシャルロットさんはわかるにしても、さすがに王女様はマズいだろ!! Lも念力で、なんか行儀が悪いけど……)
とそのLはサイコキネシス(プシキキニシス)で魚の切り身を複数枚とり、チャプチャプとこれまた超念力でつけて、口元に運ぶのだった。
「……」
これには僕も何も言えず。ここは地球人の代表としての自覚をもって。
(デネボラさんを見習おう!)
きっちり正座をとって、こうピーンと背筋を伸ばして、食に挑むのだった。
と近くに添えてあった、冷や水の入ったボウルを手に取り、こう口に運んだのだった。
それをやらかしたのは、何も知らないスバルだった。
それを見た常識人たちは。
「「「「「あっ……!」」」」」
「んっ? なに?」
僕は口元から、それを離した。
それを注意するのは、デネボラさんの役割だ。
「……スバル君。その冷水の入ったボウルは、手を軽く注いで洗うためのものなのよ……」
「えっ……もしかして、おしぼりタオル的な……?」
「うん……」
「…………」
一時、沈黙が流れた。
ここで、一番手に口を開いたのは、シャルロットさんの快活の笑いだった。
「アハハハハ! ホントに知らないからやっちゃった! プクククッ、ほんに知らないからこそ起きたケースだわこれ!! 受ける――っ!!」
「……ッッ」
それは快活の笑いだった。
僕は恥ずかしくなり、俯いて赤い顔だった。
だが、そんな快活の笑いも、後ろからヒースさんがペシンと叩くことで、終わるのだった。
僕たちはそれを見て。
「あ……」
と零したのだった。
「オオゥ……!?」
「笑い過ぎだよシャルロット。今のは君が悪い。こちらが100歩譲ってもね」
「……アゥ……?」
シャルロットの目に映ったのは、周りからの冷ややかな視線だった。
「な、なんでちその目は?」
これにはヒースさんもやれやれという思いで、嘆息するのだった。
そしてヒースさんはシャルロットさんの後ろ頭を掴んで、みんなの前で強制的に謝らせる。
「皆さんすみません、うちのファミリアの者が恥ずかしいところを」
「……ッ」
「本人にも悪気がないので、この通り許してやってください」
「すまんでち」
と言いかけたところで、ゴツンとその机におでこをわざとぶつけた。
「痛っ……」
「本人にも悪気がないので、でち」
ゴツン、ゴツン、ゴツン
「だから、この通り許してやってください、でち」
とヒースさんは微笑ましい笑顔を作って、その手で半強制的に躾と謝罪行為を行わせるのだった。
「わっわかった! わかったからその辺で許してやってくれ! さすがに見てて可哀そうだっ!」
とアンドロメダ王女が助けの声を上げて。
周りがその行為をやめさせようと、手を伸ばすのだった。


――その後、シャルロットさんは部屋の隅で、痛むそのおでこを抑えていた。
「痛~~ぅ」
スバルとL(僕たち)は、その後姿を流し目で見ていたのだった。
さすがに、冷や汗が止まらない。
その横でしっかり者のデネボラさんが、竹でできたコップに冷水を注いでいて、それを皆さんに配っていく。
(なるほど、この場に合わせた自然由来の飲み物の容器を使ってるのか……これも食通への嗜みかな?)
僕は、その冷や水を口元に持っていくと、さすがにその違いに気づいた。
「冷えていて、美味い! 僕が知っている冷や水と全然違う……! なぜ!?」
その質問に答えてくれたのは、ヒースさんだった。
「スバル君、ここに来るとき、浮遊島の中央に山がそびえていただろ?」
「はい」
「自然由来の浄化システムになぞらえているんだ!
でもここで注意したいのは、ここまでの品質基準になるのに、長い年月を要している点だよ!
川の流れの中に湧き水があって、敷き詰められた多数の石が相乗効果を及ぼしているんだ!
代表的なのが麦飯石(ばくはんせき)! その他にも、バナジウム鉱石、医王石、波動石、備長炭や軽石等も使われているんだ!
その中でも代表的なのが麦飯石の一種で、これの特性は、多孔性で表面積が広く、吸着作用やイオン交換作用が強く働くからことから。
特に水中において、カルキや雑菌・汚染物質を吸着分解して、水を浄化する作用があるんだ。
そこから水苔が生えて、そこに微生物たちが住みついて、水を奇麗にろ過してくれてるんだ。
水苔や微生物たちの力だけじゃない。
それは火山性の土壌効果や、腐葉土や赤土や黒土、植物の助けや土の力、軽石や傾斜のついた山の流れに沿って、水は長い旅を経て、僕たちの元に運ばれているのだよ」
「へぇー」
「先にスバル君が謝って飲んだ、冷や水入りのボウルには、硬水といって、硬い水の分子が入っているんだ。
それに対して、君が美味しいといった水は、軟水といって、水の分子が細かく溶け合って、周りからのミネラル等を受け取って、上品な味わいになっている。
これが美味しいミネラルウォーターのイオン交換法だね!」
「ミネラルウォーターのイオン交換法……!」
僕にとっては難しいことだけど、それが美味しい水につながるヒントだった。
「あとデネボラさんが給水してくれたポットにも秘密があって。超微粒子のバブルシャワーになるように、あの中でスパイラルバブルシャワー構造理論に基づいて、設計されているのだよ!」
「水だけじゃなくて! 給水ポットにも秘密があったんですか!?」
「そうだよ。目に見えないところだけど、そう言った配慮ができるのが人の趣向であり。
世の中の多くの人たちに、美味しい水を届けたいという人の思いやりがそうさせているのだよ! これも、スバル君の言う、生産者ならではの熱いこだわり、人徳だよね!」
「すっごぉいなぁ……ここまで水に配慮ができるなんて……!」
僕は、その美味しい冷や水を見て、口の流し込みゴクゴクと飲んだ。
「おかわり」
「はい!」
デネボラさんが僕から竹でできたコップを受け取り、冷や水を注いでいき、それを僕に手渡してあげるのだった。
とその横から、ようやく痛みから回復してきたシャルロットさんが戻ってきて。
「甘い! 甘いわね!」
「?」
「メインが魚の活け造りでしょ! 特にこの小さな氷山に並べられた魚の切り身の薄さをみなさい!!」
「!」
僕はシャルロットさんに言われて、小さな氷山に張り付いている魚の切り身をみた。
色の色彩が薄い、もしや。
僕は箸を伸ばして、その魚の切り身の薄さに驚いた。
それは暖色系のライトの光を受けて、薄く輝いて見えるようだった。
(極薄の魚の切り身か……! どれ……)
僕は一口、紫醬油をつけずに、生の新鮮さを味わった。
それはイメージ映像だが、奥に氷山が見えて、冷たい海の中から勢いよく魚が躍りだした、生き生きとした魚だった。
「……カッ! い、活きてる!」
うんうんと頷き得るシャルロットさん。
「水槽の生けすが適温を保ってるからね。
でも、この浮遊島は空の高い所にあるから、気圧と気温の影響をもろに受ける!
だから、水槽のガラスには網目状の仕掛けがあって、使われている材質がそもそも違う!
ガラス、土、石、そして水、光と酸素が上手い具合に絡み合って、海の生き物がストレスなく過ごせる特別な環境下を作る!
餌にもこだわりがあって、身が引き締まって、美味いでしょ! ムフフフ」
「はっはい」
「料理人の腕も冴えてるわ! この薄さに切り揃えるには熟練した腕と包丁さばきがいる!
使われているのは、昔ながらの美味しさの秘訣!
高級刃物の炭素鋼かしら! おそらく合わせ包丁じゃなく一点物の本焼きを使っている!
長年の腕を裏付けるように、砥石も自然由来の天然砥石にこだわりを持ってる!
だから! 魚の切り身が潰れずに、味を損なうことなく、こうして味わえる」
あたしは一口、それを生で味わってみた。紫醬油など味付けの類だ。
目を瞑って咀嚼するシャルロット、ゴクンと喉ちんこが動いて、それを飲んだことを示す。
「ひんわり柔らかぁ~! 歯で噛むごとに身がプチプチと弾けて、口の中に魚の風味が……ハワワワ」
目が潤うシャルロット。
「でも、広がるのは一瞬、舌の上に溶け合ってすぐになくなるこの喪失感……! 1枚でも2枚でも軽くいけちゃう」
とシャルロットさんは最も美味しい、氷山に張り付いた魚の切り身にフォークを突き刺していく。
「独り占めするなよシャルロット! 下段の魚の切り身だけじゃなく、上段の馬刺しもとれよ!」
と注意を促すヒースさん。だが……。
「フッ……わかっていないわねヒース……! 先に馬刺しなんて食べたら、舌に油が張り付いて、繊細な魚の味が楽しめないでしょ! 通な女子は、それぐらい常識なのよ!」
(そ、そうだったのか!?)
スバルは、食通のこだわりに対する衝撃を受けた。
(クッ……! やはり、僕はまだまだだ!)
「普通に食べろ!! アクアリウスファミリアの恥をさらすな!!」
「普通に……?」
「そう、普通に……食通じゃなくて、もっと味わいのある食べ方をだな……!」
「わかった!」
「……へ?」
シャルロットさんの目の色が変わった。食通モードからグルメモードに入る。
呆けてしまうヒースさん。
「グルメという前進的な気構えというものを見せてあげるわ!」
「おっおい、頼むから恥だけは……」
キラーンと光るシャルロットのお目め。
それは野菜と湯葉に目をつけて、それを下地に、馬刺し各種色とりどり魚の切り身を乗せて、薬味もあえて、その野菜をまるめて、スープをかけて、一口で頬張った。
「う~んデリシャス~♪」
「……」
これにはガクリと肩を落とすヒースさん……アクアリウスファミリアの恥を晒すのだった。
周りから、(あぁ……)と心の声の嘆きが聞こえるようだ……ッッ
(こいつには何を言っても無駄だ……! 食通とグルメの双方を持ってるから、どう対処すればいいかわからん……ッッ)
これにはヒースさんも、苦悶するのだった。
スバル(僕)は空いた口が塞がらない。
「フフッ、こーゆうのは前進する気構えが大事なのよ! 今のは馬刺しと各種魚肉をあえたものだけど。
フルーツあえ、魚肉とフルーツあえなんて組み合わせもあるのよ」
「へっ……へぇ……」
「あれ? 地球にはないの?」
「……」
ヒースさんはもう諦めた顔をして、食に手をつけるのだった。
そんなヒースさんを見るデネボラさんの目も、なんか痛い……。
(常識人の大人って、こーゆう会食の場では苦労するんだなぁ)
僕はモグモグと魚の切り身を食べる。
「にしても、特徴的な鼻の長い魚もいたんだなぁ」
僕は、その特徴的な鼻の長い魚の活け造りの切り身も、食していく。
紫醤油をつけて、食したところ。
「うん、これは日本のしょうゆの文化に近いけど、ふんわり漂うこの感じは……、これは青じそに近いものを使ってるのか?」
「青じそ……?」
「日本の香味野菜の一種だよ。ワサビみたいなもので、毒素を打ち消す力があるんだ。これは香りづけとして使ってるな! 隠し味でひっそり使ってる!」
「へえ、わかるんだ」
「僕も若いから、舌はいいほうだからね」
と僕は、食が進み、紫醤油をつけて魚の活け造りを頬張っていくのだった。
とそこへ、デネボラさんがちょっと注意を出してきて。
「スバル君、こちらの鼻の長い魚だけど……!」
「!」
「上の切り身を取った後は、油で揚げて、天ぷらで出されるからね」
「あ、油で揚げるんですか!? まるでイカの活け造りの締めくくりじゃないですか……!?」
「ここのコース料理は、3種目で別れていて、先ずは前菜の活け造り! 次にご飯もの! そして最後に天ぷらとして出されるのよ!」
「すっスゴイ……地球の庶民料理とは全然違う……! TVで見ただけの高級料亭のどれとも品格が違う!!」
あえて言わなかったが、スバルもアユミちゃんも一般庶民の出だ。
親の年収も普通、子供たちの学力もいたってフツーの小学生なのだ。


――その時、ゴトッと大きく揺れた。
「なっ何だ!?」
その頃外では、停泊していた屋台船が進み、川の流れに乗って、下から上に突き上げるように川の流れを上昇していた。
まるで鯉の滝登りだ。いや、屋台船の滝登りだ。
普通は逆の下る流れが正論なのだが、こんなの常識外だ。
「や、屋台船が川の流れに乗って、上に上がってる――!?」
僕は度肝を抜かれた。
そのまま、天井にある水の空間に入所するのだった。
水の世界には、多くの魚がいて、クラゲや亀なんかも浮いていた。むしろ泳いでいる。
「あがが……」
僕は空いた口が塞がらない。
「地球の文明って、まだまだこれからなんだね」
Lはサイコキネシス(プシキキニシス)で魚の切り身を取り、こうチャプチャプと3種のスープにつけて、口元に運んでいくのだった。
「あ~ん、んむっ……美味美味」
Lはいたって平常運転だった。


「『牛肉の心臓の焼き飯の包み合わせ』です! こちらのお椀の中に入れて頂き、こちらの夕餉(ゆうげ)の和え酢をかけて、軽く召し上がってください。
あとこちらの温泉卵をお使いいただければ、一風変わった味わいを楽しめますよ」
(まるで、タイの茶漬けと卵とじチャーハンみたいだ。
でも、この鼻腔をつく香ばしい匂いは、まるで癖の強い牛肉の心臓で閉じ込めることで、その味わいに深みを持たせるなんて……!
これは、今までの肉料理の比じゃない!! ミートインパクト!! どうなってるんだ宇宙人たちの食通は……ッッ!?」
各自バラバラで、箸やフォークをつき、その牛肉の心臓に亀裂を開けて、香ばしい湯気が立ち込める。
フワリと香りがそそり、僕の鼻がピクピクとした。もうよだれが滲み出てくる。
(ッッ……よだれがスゴイ……ッッ!!)
僕は一口だけ、その肉だけを先に試食した。
「うっ美味っ!! この部位の味はすごい濃厚だ!! A5ランク以上の内臓だよっ!!」
(もうこれを食べたら、赤身のレバーなんて食べられない!!)
それぐらい衝撃的だった。
スバルが表現した赤身のレバーは、決して生食で出されず、焼くことで、その内臓に潜んでいた細菌を焼き殺すことを目的としている。
深い味わいなど二の次で、母親が大切な息子に出す以上、そんなことはさせちゃいけないのだ。
もちろん、まだまだ子供のスバルはそんな親心に気づけないのだが……。
とその横で、今や食通なのかグルメ通なのかわからない、シャルロットが語ろうとしていた。
「胸当たりの心臓だから、ハツ、ハラミ、サガリ、シビレが近いかな!
その上から、背油の肉に近い、リブロース芯、リブキャップをコトコト煮込んだ合わせスープに。
マキ(フカヒレ)、サーロイン、ヒレ、シャトーブリアンを上手く、焼き飯に包み合わせてますね。
芳醇な合わせソースが絡み合い、絶品!! うーん星5つ!」
「ネギ、オニオン、小さく刻んだニンジンに、これはトウモロコシの身の粒と合わせてスープで閉じ込めて、卵でふんわり美味しいな。
僕、シャルロットさんヒースさんと口々に絶品と告げる。それだけ美味い。
僕はものは試しに、そのお肉とご飯ものをお椀に取り、夕餉の和え酢をかけて、食してみたら。
それはまさに、華が咲いたように、芳醇な世界が垣間見えた。
「れ、レベルが段違いだ……!! ッッ」
「スバル君、こちらの屋台船に乗った各種の魚の切り身を乗せて、食ってごらん。味わいに深みが増すよ」
「はい」
僕はデネボラさんに諭されて、屋台船に乗った各種の魚の切り身を乗せて、タイ茶漬けの要領で、そのお椀の中身を食ってみたら。
「上手っ!! 魚の油が旨くとけあって、焼き飯不思議と合う!?」
僕は行儀作法を忘れて、ガツガツとそれを胃に流し込んだ。
「フフッ」と笑うデネボラさん。
自身もレンゲを伸ばし、お椀の中に掬い取り、こちらは温泉卵にて、その味わいを楽しむのだった。
「うむっ! さすがにプレアデスのお膝元ですね。各宇宙の特産品を美味く仕込んでますね!」
「!」
それはデネボラさんの一言だった。
「これは料理人の腕が一味も二味も違う! 名の通った食通の美食学校を出ておるのでは?」
「あとは卸売りの問屋だな。学生を育てる学問も、見習うべきだな」
「じゃあ、また後で政務にくるの!? 姫姉?」
「う~ん……顔見知りが少ないからな……。女王陛下と仲良くなればあるいは……」
僕はその和え酢のスープを「ズズッ」とすすり、その深い味わい覚えつつ、その食通の話を聞いたのだった。
(僕がファミリアを立ち上げたら、お抱えの料理人を育成しないとな……!)
早くからその構想が練られていた。
食は、どの宇宙に行っても大事だ。そこは突き詰めないといけない必須の学問だった。


「『エレファントマンダリンオレンジサケマグロの天ぷら』です!!」
元々活け造りだったものが、今度は天ぷらとしてテーブルに出された。しかも。
「『あとこちらは、腹肉を加工し、茶そば風に仕立てたもので、こちらの味噌ゴマアゴダシ風味の合わせつゆにて、お召し上がりください』
驚きだ。魚の肉を加工して、それを茶そば風に仕立てて出してきた。
しかも、手作りのツユがついてくる。
(この麵スゴイ、一目見ただけで、茶そばの中にゴマみたいなものが練り込まれてる! これは特殊なそば粉を使ってるな……!)
僕は一目見ただけで、その加工技術の水準の高さがわかってしまう。
「『あとこちらは締めの一品。メロンココナッツのかぼちゃスープ』です!」
(なんだこのマーブル模様は! うまく緑と黄色が溶けあって、風味のある匂いが立ち昇ってる……! 宇宙にはこんな旨いものがあるのか……!)
僕は嗅覚だけで、その風味を感じ取ってしまう。
僕たちは早速、それに手をつけた。
「旨っ! 魚って揚げものにできたのか!?」
「いや、使っておる油の品種がそもそも違うのだスバル!」
そう答えてきたのはアンドロメダ王女だ。
「え……?」
「これは、アンドロメダでも、プレアデス星でも取れない特殊な上澄み液の油でな。開拓者(プロトニア)たちがその任務を受けて、その特別な場所から採取してきたものだ。
だから普通の油とは違って、透明度が高い!
普通の油の中に、魚の切り身など入れてみろ!
高温の油に熱せられて、繊維がボロボロに死んでせっかくの味わいが台無しになる!
限られた惑星からでしか採取できない、貴重な油なのじゃよ」
「そんな油があったんですか! ハァ……」
僕は、その天ぷらの切り身を見た。
なおも、アンドロメダ王女の解説が続く。
「天ぷら粉もこだわりのものを使っていて、その合わせで卵や調味料にも気配りができているからこそ、ここまでの仕上がりになるのじゃぞ!」
一口かじってみてわかる。料理人の創意工夫。
魚の繊維が死んでいない、むしろ揚げられたことで、その生きていた時間を閉じ込めていた。
僕は目を大きく見開いた。素直に驚きだ。
「試しに、その魚の鼻の長いところだったものを食べてみよ」
「うん」
僕はアンドロメダ王女に言われるがまま、その鼻があったところを、合わせつゆに浸けて一口食べたところ、カリュッと音が鳴った。
「……ッ。軟骨性の弾力!?」
「フフ、軟骨の表面に豊富なアミノ酸とコラーゲンがあって、弾力と今まで食した事のない味わいがあろう」
「はい。グミとかゼラチンとはまた違った味わいがある。母ちゃんが食べていた豚足のコラーゲンとも違うし……。
なんて言うんだろうなぁ。地球にはこの軟骨性の弾力が、ない――っ!!」
それは勝ち誇った笑みで、アンドロメダ王女がニヤニヤ笑っていた。
「クッ、これは……地球の食材では再現できない……ッ!!」
(勝った!)
それは非公式の料理試合にて、地球が負けたのだった……。
そもそも勝てる道理がない。こちらは惑星1つに対し、あちらは複数の惑星の食材等で、料理試合を挑むのだから、それは挑む前から勝敗が決していたのだった。
鼻高々のアンドロメダ王女は、ご満悦だった。
それを見ていたLとデネボラは。
(まるで子供みたいだよ姫姉……)
(うまく気品を保ちつつ、こちらがしっかり気配りを立てないと……!)
どちらかと言えば、こちらがまだ大人だった。
ご満悦のアンドロメダ王女は、こう問いかけてきた。
「スバルがファミリアを立ち上げたら、食客にはこーゆう料亭を紹介しないといけまいな」
「それは地球産の高級料亭の紹介という事ですか?」
「左様」
頷くアンドロメダ王女。
「顔見知りのアンドロメダやアクアリウスの食客だけではなく、他の惑星の来賓挨拶まわりもあろう」
「!」
僕はきっちり正座をし直して、ピシッと背筋を伸ばした。これは大事な話だ。
「地球復活祝いの時には、わらわたちも在籍するが、基本、上手くお主とお主の伴侶等が立ち回らなければいかん!!
その頃、王宮は建設工事中だろうし、料亭といった場の手配が必要となってくる!」
「なるほど……!」
「各惑星の王族、貴族、名の通った食客たちが来賓に訪れる!」
スバルはコクリと頷く。
「食談の場で、どーゆう流れで戦争後、文明の発展を辿るのか、それはお主の器量次第じゃ!」
「僕次第……!」


【――似た話に第二次世界大戦後、日本国との平和条約を締結し、日本はアメリカ等の信頼関係を次第に築いていき、学問・文明の利器等の教えを乞うたのだ。
一番わかりやすいのは、電子レンジやインターネットの基礎的なものだが、こちらは軍事産業から民間に扱えるようになるまで、長い待機年月を要している。
比較的早かったのが、やはり学問であり。
医学、科学産業ときて、今の私たちの生活のインフラ、日常を裏で支えているのだ。
電器産業の日の目を見るのは、学問を学んだ学生たちの隠れた努力があったわけで、
洗濯機、冷蔵庫、白黒テレビが三種の神器と呼ばれる。後にこれ等が形を変えて、海外に名高い日本製で発売されたのだ!!
つまり――スバルがファミリアを立ち上げた以後、何かしら起こり得るのだ!!
もちろん、スバルではないが、学問を学んだ学生たちの不断の努力によって、何かしら実を結ぶというわけだ!
まぁ、かなり先の話であるが――】


「――でも、僕もスバルもその頃には、名の知れた開拓者(プロトニア)だろうから、地球にもアンドロメダ星にも、いないことが多くなってるよね?」
「ムゥ……確かに……!」
それは言えておるわ。いないケースも起こり得るな……さすがに……。
「だったら、アユミちゃんとクコンちゃんに頑張ってもらいましょう!」
「という事は、どちらにしろ秘書が必要になってくるな!」
「秘書?」
「書記官とも言ってな! 一例として、地球の事と各惑星、各銀河の動きの流れを請け負うわけじゃ! かなり有能じゃないと難しく!
男性の書記官や年配の女性の書記官がいて、父上の留守の時、その代わりとしての発言権がある!
さすがに女王陛下や王子・王女たちには敵わないが、ある一定の条件下では、秘書や書記官が勝つ場合がある!!
それだけ、有能な部下を傍に置いておるというわけじゃ!」
「へぇー!」
「わらわでいえば、それはデネボラじゃな!」
フッとデネボラさんが微笑み、優しく頷くのだった。
「秘書か……」
誰がいいんだろうか。
(僕についてくれる秘書か……アユミは伴侶だから、ないとして……やっぱりクコンさん……とか? う~ん……)
「アユミちゃんは?」
「それはさすがにないだろ! クコンちゃんもあの年齢じゃ難しいし、近くに地球人の大人の女性がいてくれれば、秘書として請け負ってもらうのだが……」
その意見はシャルロットさんとヒースさんだった。
「大人がいいんですか?」
「それはそうよ。大事な政務の話だから、国を預かるということだから、少なくともプロポーションのいい若い女性が選ばれるわね! 20代が望ましいかしら!」
「20代……いたかなぁ!?」
これには僕も頭をひねった。そんな都合のいい若い女性、いるわけがないのだ。
「まあ、若い秘書といえば、できちゃった婚も多いからね!」
「ってお前、フォーマルハウト様の秘書を狙ってるだろ? やめとけやめとけ、あれは倍率がかなり高い!! 奥方様やご兄弟様が目を光らせてるから、望みはかなり薄いぞ」
「フゥ……」
と嘆息するシャルロットさん。玉の輿狙いは難しそうだ。
(ヒースさんとシャルロットさんって、仕事仲間であって、付き合いはないのかな?)
と僕は海鮮茶そばを取り、めんつゆに浸けて頂くのだった。
「スバルの秘書ってどんな人が務めるのかなぁ?」
それはLの一言だった。
「まぁ初めに、各宇宙の言語を知らないといけないから、頭がかなり良くないといけないから、かなり縛られてくると思うよ。
美人さんが望ましいけど、抜群のプロポーションまでの華は、さすがに無理が生じると思うなぁ……正直、僕の望みはかなり薄く、平坦なプロポーションかも……。
たった1人に負担や重荷を背負わせるわけにもいかないから、その人の下にも秘書たちをつけないとなぁ。
という事は、最初の1人が秘書長としてしっかりしてくれないと難しいだよね……」
「…………」

【一同はこう思った】
【スバルはまだまだ子供で、できちゃった婚はあり得ないと……!】
【そもそも、地球の文明レベルでは、各惑星の言語を知り、先の展開を読みつつ、星王になるスバルに助言できる、できた年上の女性……】
【抜群のプロポーションの華まで求めるのは、さすがに酷というものだった――】

「まぁ妥当じゃな……! これから先、王族との会食や政務も起こり得るから、まず、地球人の秘書を探すとしよう」
アンドロメダ王女様がそういい、これには僕も嘆息するのだった。
考えていても仕方ない。なるようになれだった。


☆彡
僕たちはその後、宇宙の法定機関、浮遊島を経て、『プレアデス宇宙国際空港』に向けて、音速小型ジェット機に乗って移動していた。
音速の単位はマッハ。
摂氏20度の時のマッハ1は、秒速340m前後、時速1225㎞前後である。
音速の空気の壁を突き破り、空気の輪の中を駆け抜けて、白い尾を引いていく様は、まさしく音速のそれだった。
しかも、この音速小型ジェット機は、マッハ2.5を叩き出していた。
秒速でいえば850m、時速でいえば3063㎞である。
最高速はマッハ5。
まだまだ余力は残していた。
参考までに、秒速でいえば1500mくらい、時速でいえば6120㎞だ。
どちらにしても一般人の常識外、宇宙人の考えは、一般庶民感覚にはわからないものだ。
「やっぱりこっちの方が速いわ!」
「なんとか今日中に、アンドロメダ星に帰還できそうだね!」
「フゥ……」
アンドロメダ王女、L、嘆息するデネボラ。
アンドロメダ王女の我慢ならない要望だった。
浮遊島も速いは速いが、それよりも音速小型ジェット機の方が、ずっと飛行速度が圧倒的に速いと論じた。
民間の音速旅客機も考えられたが、また機内で人騒ぎが起こり得るため、見送られた。
空飛ぶリムジンという気品さも考えられたが、アンドロメダ王女がダメ出しをして、見送られたのだ。
「やっぱり空飛ぶリムジンより、音速小型ジェット機の方が速くてよいな!」
これが決定的だった。とても王女様だなんて思えない……っ
(気品の欠片もない……ハァ……)
嘆息してしまう苦労人のデネボラさん。
「まぁ急いだほうがいい、案件が立て込んでるから、速いに越した事はないよね?」
「おっよくわかっておるなL! 左様、全球凍結前にやるべき事をやらないといけない案件があるのじゃ!」
「そう言われれば、その通りですね。私が間違ってました」
私は非を改めた。そうだ、地球人の難民を移動しなければならない大事な案件が控えていたのだ。
のんびり浮遊島での観光を、楽しんでいる場合ではないのだ。
だが、ここで当人の地球のお子様は。
(う~ん……やっぱり、浮遊島のお土産を買うんだったな……。でも、お姫様もなんか我慢してるようだったし……、また来た時、立ち寄ろうかな……)
とスバルは惜しい思いをしていたのだった。
「ヒース、あの酒は郵便で送ったの?」
「ああ、そうだよ。後で事情を話して、僕たちの飲む分も残してもらわないとね!」
こちらは長年の経験からか、ちゃっかりしていたのだった。
今、この音速小型ジェット機に乗っているのは、スバル、L、アンドロメダ王女、デネボラ、シャルロット、ヒースの6人である。
残りのシンギン達以下は後続車両の同じ品目の音速小型ジェット機に搭乗していたのだった。
もちろんこれは割高である。
「とこれから色々と準備が入り用になりますね!」
「そうだね、シャロット」
とシャルロットさんとヒースさんが軽々に話す。
と次に口を開いたのは、スバルだった。
「まずは何からしようか……。いや、何からすべき何だろうか……」
「「「「「……」」」」」
これは一同真剣に考えた。そして口を開いたのは、アンドロメダ王女だった
「まず、スバルは一度地球に帰ることじゃ!
残り僅かな時間、地球の地で過ごすと良かろう。
そうすれば、今よりも強い決意が固まる……やり遂げねばならないという覚悟が……!!」
これには一同強く頷いた。
これは決定事項だ。
「問題はわらわとLが今後、どう動くかじゃ!
もちろん、後押しはするが……オーパーツLはソーテリアー星との強い結びつきがある!
反対意見が続出しよう!
……アンドロメダ星のゴタゴタが早急に済み次第、一度ソーテリアー星に向かう気じゃ!」
「……そうですか」
Lとはそれほどの……。
と僕の横にいるLはなんか震えているようだった。僕はLに話しかけてみる
「……L、大丈夫?」
「……今から緊張してきた……!」
L(僕)は、今から震えていた。上手くいくだろうか、勝手なことをして……。
と次に口を開いたのはデネボラさんだった。
「でも何より大事なのは、開拓者(プロトニア)の登録ですよ!
その開拓者の試験を受けて、合格しなければ、晴れて開拓者になれないのですから……!」
と次に口を開いたのはヒースさんだった。
「試験か……。いや、もっと大事なものがある! それは……」
一同の時が止まる。
「勉学だ!!! スバル君は『宇宙共通語』が話せない!! その意味を要約して理解できない!! これは大きな死活問題だ!!」
「「「「「確かに……!!」」」」」
「マジ……」
僕たちは一番大事な事に気がつかされた。
これからはそれがメインになるだろう。
と次に口を開いたのはシャルロットさんだ。
「他にも色々と問題点が山積みですね……これからは1つずつその問題点を解決していきましょう」
「頭が痛くなってきた……ッッ」
フフッとヒースさんは笑い。
クスクスとシャルロットさんが笑っていた。
「でも! 1番大事なのは仲間だと思うよ! 今のところメンバは僕とスバルの2人だけ! 今のうちにメンバーを拡充しないと時間を無駄にしちゃうよ!」
「……」
僕はLに言われて考えた。その仲間枠について。
続けてLが話を続ける。
「やっぱり仲間に加えるなら、アユミちゃんが1番だと思うんだけど……どうかな?」
「……いや、それは僕も考えたんだけど……アユミちゃんは開拓者(プロトニア)には向いていないと思う。気になることもあるしね……」
そうだ、僕の脳裏をかすめたのは、あの占い師志望の少女が言った言葉だ。


『う~ん……このアクセサリーがええんじゃなかろうか』
と彼女が手に取ったのは2つで1つのアクセサリーだ。
それは俗にいうロケットペンダント、中には写真を忍ばせることができるものだ。さらに鈴つきだ。
カラーは2種類、赤と青。
ボディタイプは地球のように球体だった。
『青は待つ人用、赤は旅立つ人が持つとよかよ!』
それは端に僕等を指しているようで。不思議な少女だった。
――僕は自分の手相を見ていた。そしてそれが口をついて出た。
「『初めに火の相』が強く出ているか……」
「でも変わってるよね? 『女難の相』でも『水難の相』でもないんでしょ」
「うん……不思議ちゃんだった……」
「不思議……?」


――僕は彼女とのやり取りを思い出していた。彼女には何かあると思ったんだ。
でも今は、アユミちゃんを護るためにも、開拓者(プロトニア)には薦めてはいけなかった。
「アユミちゃんはどうも先走り過ぎる……その行動力がかえって、仇になる!」
「……そう、それはちょっと残念だな……」
パートナーとしては、これ以上ない人選だったのだが……。
スバルの考えて、アユミちゃんの推薦は無効となった。
「じゃあ他には……」
「クコンさんを仲間に入れよう! それにみんな! 誰かを忘れていないかい?」
「「「「「?」」」」」
「シシド君とレグルスだよ!」
「えええええ!!!」
これには僕も驚き、音速小型ジェット機から僕の悲鳴が響いたのだった。
今日のプレアデス星の空は青かった。


☆彡
【プレアデス宇宙国際航空】
そして、目的地プレアデス宇宙国際航空。
「予定通り、宇宙船の整備は終了しているようです。問題なくワープができますよ」
「さすがに整備士たちも優秀よな! あの短時間で整備を終わらせるとは! 後で女王陛下に親書を認めよう」
アンドロメダ星とプレアデス星の友好は良さそうだった。
(僕も何かあった時、プレアデス星の人と仲良くしておかないとな)
僕は、そう心に留めたのだった。
そんな僕たちは、プレアデス宇宙国際航空を歩いていた。
シンギンさん以下アンドロメダの兵士たちに周りをがっちりに固められ、要人として移動していた。
まるで僕たちが重役の人たちで、シンギンさんたちがボディガードのようだ。
「おいっ! あれって! TVに出てた王女たちだ!」
「嘘ーっ有名人!」
「元ソーテリアー星のオーパーツだ! 初めて見た!」
「融合して融合!」
「キャーッキャーッ」
と僕たちは周りから写真や動画をバシバシと取られた。
これには僕も恥ずかしい……。
シシド君や、それ以上の著名人たちはみんなこんな気持ちを味わうんだろうか。
僕は素直に感服した。
そして、僕たちを乗せたアンドロメダ王女の宇宙船は、大空の向こうに飛び立っていた――


☆彡
【アンドロメダの宇宙船】
「――しかし、レグルスか。ううむ……」
「あのやっぱり難しいのですか?」
「いや、いい線はいっておるのだが……。あ奴、そもそも試験を受けることができないのじゃよ……!」
これには周りも驚き、ザワッとした。
「それはなぜ?」
とシャルロットさんが口を開いた。
「ううむ……あ奴は前職で、汚れ仕事を請け負っていてな……。
アンドロメダ星でも、地球でも、その手を汚し過ぎたのじゃ! だから、わらわたちが上手いこと匿っていたのじゃが……」
「あちゃ~……」
とシャルロットさんが顔をに手を当てて、天を仰いだ。

「――問題はそれだけじゃないよ」

その声の主はヒースさんだった。
「スバル君、そしてL! それは君たちもだ!」
「……僕たち?」
「?」
「スバル君。君は、『エナジーア変換携帯端末』を安易に用いようと考えてるよね?」
「はい。……ダメでしょうか?」
「……確かファミリアの条約には、こう記載されていたはずだ……!
第367条! エナジーア変換携帯端末について。
特別措置法を除き、それを禁ずる。
特別措置法とは、3つの条件をクリアした時とする。
1つ自分の生命が危うい時!
2つ民間人の命が危うい時であり!
3つ緊急事態や巨悪と相対した時のみ、その使用を認可する……と記載書きがあったはずだ!」
「自分の生命……」
「緊急事態や巨悪と相対した時か……!」
と次に口を開いたのはデネボラさんだった。
「そうね、例えばレグルス隊長を挙げましょうか!
今回はレグルス隊長が巨悪として捉えましょう!
あの山火事の事件の時みたいに、多くの人たちの命を奪ったでしょう」
「はい」
「うん」
「あの事件で多くの民間人たちの命が奪われた。あなたたちも生命の境をさまよったはず。
3つの条件をクリアしたことで、初めて、エナジーア変換ができた!」
「……つまり、かなり難しい場面でないと……」
「これが使えないんだね……」
「そうなるな……!」
とヒースさんが締めくくった。
と次に口を開いたのは、シャルロットさんだ。
「まぁ良かったじゃない。安易にあんな古代兵器は使うモノじゃないわ!
なんてたってあれは、使用者がその使用限界を超えて使ったことで、黒い炭化物に変わり果てたとことがあるんですもの!」
「こら、シャルロット!」
「あわわわ」
言ってしまった、つい。
「えっ……今なんて……」
僕の聞き間違いかと思った。
「……」
「……」
「……」
L、アンドロメダ、そしてデネボラの3名はこれを黙秘した。
「なんかすごい事を聞いたような……ねえ、L」
「……」
Lはそっぽを向いた。
「アンドロメダさん」
「んっわらわは話の途中から聞いておらんぞ」
「デネボラさん!」
「左に同じく!」
「……シャルロットさん!」
「聞き間違いではないのですか? スバル君の!」
と責任逃れした。
「ヒースさん」
「うっ……用心して使うことに越したことはない。今後は使用を控えるように……」
「……」
それは命がけを意味していたのだった。
「……」
僕は俯いて自分の足を見た。
折れて、粉砕骨折していた足は完全回復していた。この数日間で。
それは端に、エナジーア変換携帯端末の異常回復を示唆していた。
「……毒と薬は使いようか……わかりましたよ」
と渋々、僕はその話を飲み込むことしかできなかった。
スバルはまた1つ、大人として成長したのだった。
毒を飲むという。
そして、その中でシャルロットさんはある事に思い出した。
(そう言えば……シシド君って誰だっけ?)
と可哀そうに忘れられていた。
(あれ? そう言えば、ずいぶん前に法改正があったような……? まぁ僕には関係ないか……!)
とヒースさんも法的な事には疎かった……。
そんな何でも知っている、凄い人ではないのだった。
だが、スバルに対する脅しとしては、大変良かったのだった。


☆彡
その後、僕たちは岐路につき、アンドロメダの別荘にいた。
アユミちゃんとクコンさんとそして兵士たち皆さんが、僕たちを温かく出迎えてくれた。
「「お帰りスバル君!」」
「ただいまアユミちゃん! クコンさん!」
「王女、お帰りなさいませ!」
「うむ!」
「シャルロット様! ヒース様! L様! デネボラ様! そしてシンギン様以下兵士の皆様方! お帰りなさいませ!」
「うん!」
「はい!」
「うん!」
「ええ」
「おう!」


――僕たちはその後、食談を囲んだ。
「――という事は、明日あたしたちは一度、地球に帰るんだね?」
「うん……アユミちゃんには悪いんだけどさ……」
「うん?」
「アユミちゃんには、僕の父ちゃんと母ちゃんの安否を探ってほしい」
あたしはドンッと立ち上がり、こう言った。その言葉には怒りが含んでいた。
「自分の両親でしょッ!? 確かめに行かないのッ!? そこまで薄情な息子だったのッ!?」
「確かめにいきたいさッ!! でもね……!」
そうだ。僕だってアユミちゃんと一緒に確かめに行きたいよッッ。
けど、それ以上にやるべきことがあったんだ。
「恵ケイちゃんの遺体を返しに行かないといけないんだッ!!」
「……ッッ」
これにはあたしも言い返すことができない。
そうだ、この役目は、あたしか、スバル君か、クコンちゃんの誰かが請け負わないといけない事だった。
アンドロメダ王女やLには大役がある。
その他の兵士さんたちは、エナジーア生命体の為、そもそもあたしたち地球人には見えない。
もちろん、目に見える宇宙人さんたちもいるけれども。
シャルロットやヒースさんの両名は、アンドロメダ王女たちと一緒に付いていき、その橋渡しとして重大な役割がある。
つまり、あたしたちの誰かが貧乏クジを引かないといけなかったんだ。
「……ッッ……ッッ」
「男だねースバル君」
「いや……貧乏クジなら、もう慣れてるから……頼んだよアユミちゃん」
そうだ、貧乏クジなら引き慣れしていた。さんざん虐めにあっていたのだから。
あたしはダンッと机を叩いた。そして怒りをぶちまけて、こう言ったの。
「わかったわよ! ……ッッ」
あたしも、スバル君の両親からなんて言われるかわからないけど、
この場を乗り切るにはそれしかなかった。
そんな中、わらわはこの子たちを見て、申し訳なく思うた。
「……」
(済まない、スバル、アユミ、クコン)
わらわは目を細め、心の中で謝罪した。
それは王女として、この場で謝るべきではないと判断したためだ。


【大浴場】
大浴場にて、あたしとクコンちゃん、あと目には見えないけど兵士さんたちが入浴していた。
「ホント頭くるっ!!」
あたしはバンと水面を叩いた。
これには兵士さんたちの注目を集める。
「普通連れていくよね! 普通は!」
「まぁスバル君やシャルロットさん、ヒースさんの話を聞いた限りでは、かなり危ないらしいよ冒険……。実際に死んだ人がいるんだって!」
「でも何で、クコンちゃんはOKであたしはダメなのかなー!? 頭くるー!!」
とあたしはまた水面をバンバンと叩いた。
これには兵士さんたちの注目を再び集めた。
「やっぱり地球人の女子は狂暴だ……」
と呟きが落とされた。
だが、そんな呟きが地球人たちに聞こえるはずもなく。
あたしクコンは、今のアユミちゃんを見て、心の中でこう思った。
(この性格が災いしてるんだろうな~きっと!)
「まぁあたしも大概だけど、ギリギリ際どいらしいよ。その試験内容次第では……!」
「ムゥ……なんとかして潜り込めないんだろうか……」
「いやそもそも、誰も試験合格してないから! その試験の内容もわかんないからね!」
「ムゥ……」
「まぁどんな試験だったのか、その日帰ってきたら教えてあげるよ! あたしたち友達だものね!」
とあたしは笑顔で締めくくった。
けど、あたしアユミは不承不承していた。


【安置室】
誰もいない安置室にて。
僕はデネボラさんの許しを得て、ケイちゃんの亡骸を見にきていた。
「……ケイちゃん。明日、君の両親に会いに行くよ」
ケイちゃんの亡骸は、何も答えてくれない……。
でも、その亡骸は美しく、生前の姿に補修されていた。
それがアンドロメダ星人なりの気遣い、気配りだった。
月明かりが僕たちを優しく包み込んでくれた。
アンドロメダ星の月明かりは、ソーテリアー星からのもので、地球のお月様よりも大きく、この星に近い距離にあった。
そんな様子を陰から聞く耳を立てていたのは、デネボラさんとLだった。


【王の御前】
王の御前にて。
「何じゃと!? レグルスとその適合者が行方不明!?」
「ハッ!」
「……ッッ。何てことじゃ、何事もなければよいのじゃが……。この事はスバルたちには……」
「いえ、まだ……」
「そうか……そうじゃな……」
スバルたちには明日地球で過ごせる時間は少ない。その大切な時間を奪わせるわけにはいかない。
「せめて明日までは話すな! 帰ってきたとき、あの者たちに話そう! 余計な不安を抱かせてはならぬぞ」
「御意」
それがわらわにできる、優しさであり、気遣いであり、そしてせめてもの罪滅ぼしじゃった。
じゃが、わらわは額に手を置いて考えた。あやつの行き先を……。
「それにしても……いったいどこへ……」


【貴賓室】
貴賓室にて。
ヒースとシャルロット両名は、ホログラム映像に映る高貴な方と会話していた。
「――以上が今日までのあらましです。フォーマルハウト様!」
『なるほどよくわかった。引き続き頼んだぞ、ヒースにシャルロット!」
ヒースは目を瞑り俯いて、両腕の二の腕を組んだ状態で「はい」と答え。
シャルロットは胸に手を当てて「任せてください」と元気よく答えた。
フォーマルハウト様は、向こうから会話を切ろうとなされたのだが――
「――そうだ! お前たちから見て、Lとそのスバル君の印象はどうだい!?」
「……仲がいいですね!」
とシャリロットがいい。
「スバル君は自分から自信を持つような子ではないのですが……。周りが上手く機能すれば、自発的によく動きます! 将来性が楽しみな子です!
ただ、逆に何もしなければ何も起こらなさそうな残念な子の印象も受けました……!
次に、Lと対話した回数こそ少ないのですが……。まるで子供。悠久の時をいきたオーパーツとは思えません。これからの活躍に期待でしょう!」
「なるほど……よくわかったヒース。次回の報告を楽しみにして待つ」
「ハッ!」
とブツンとそのホログラム映像が切れた。
(ううっ……いいところ、ヒースに取られたぁ~……!)
「フフッ」
ホントに将来性が楽しみな子たちだった。


☆彡
各個人には部屋を割り当てられていたが……。
さすがにここはアンドロメダの別荘だ。その部屋数に限りがある。主に多く使用されていたのは兵士たち皆さんの部屋だった。
それぞれの部屋割りは。
Lの個室にスバルが寝泊まりしていて。
アユミちゃんとクコンさんで一部屋。
ヒースさんとシャルロットさんで一部屋でかつ貴賓室という扱いだった。
そのLの個室にて。
「――よ、我と契約を結びたまへ。」
ボゥとスバルの体が光った。
「よし! 契約完了!」
「また、契約したの!? 君も大概だね……! ハァ……その君の精神世界にいる師匠様と先生様は何者なんだい!?」
僕は精神世界にいる師匠と先生のことを、Lにだけ打ち明けていた。
戦友なのだから、それぐらいはいいだろうと師匠たちの許可もおりているのだ。
「それは僕にもわからないけど……。2人とも高位の戦士と魔法使いであることは確かだよ!」
「このチート(アパチィ)!」
「んっ何て?」
「チート(アパチィ)……宇宙共通語だよ。自分で調べたら? これも大概勉強だよ。フフフ」
「僕、あまり頭はよくないんだけど……」
「それじゃあ開拓者(プロトニア)試験、落ちるけどいいの? クスクス」
「グッ……どこにありますか……!? その宇宙共通語辞典!」
ドンッと僕の目の前に宇宙共通語辞典が置かれたのだった。なんてぶ厚いんだクソッ。
その日から僕は、勉学に励むのだった。
(この辞典、まるで辞書だよ……! まるで字が読めない……ッ!!)
「読めない字があったら、何でも答えるよぉ~クスクス」
Lはなんか上機嫌だった。まるで僕の上に立つ人のようで。
クソッ、完全に舐められてる……ッ。


女子たち2人は、自分の身長と胸囲をメジャーで測っていた。
「やっぱり身長、昨日より縮んでる……!」
そう、漏らしたのはクコンちゃんだ。
「あぁ……ワンカップサイズダウン……Cカップに落ちてるよぉ~!」
そう、漏らしたのはアユミちゃんだった。その豊胸が普通乳に成り下がっていた……っ。
DカップからCカップにサイズダウンである……無念、痛恨の思いである。
だがそれでも、胸板同然のクコンちゃんは恨めしそうに見ていた。
「……」
「これってやっぱり、重力の影響かなクコンちゃん!?」
「……そうね」
と冷ややかな返しが。
これが持っている者と持っていない者の違いである。
「もう! まったく許せないわ! 重力め! うん……?!」
「どうしたのアユミちゃん?」
「待てよもしかしたら……うんうん。考えられるかも……!ねえ、例えば無重力なら縮んだ身長や乳房(バスト)が戻ったりしないかな?」
「……」
これにはあたしもあり得ると思った。
「有かも……!」
「あっやっぱり! 昔聞いたことがあるんだぁ! 宇宙空間では身長が3㎝も伸びたんだって! バストアップもできるんじゃないのかなー!? ねえ、クコンちゃん!」
「ねえ、それって単にあたしへの僻(ひが)み?」
「ち、違うよ!」
(いけない、爆弾ワードだった……!)
あたしは自分の言葉に後悔した。
「いいよね。あなたもケイちゃんも出るところは出てて。あたしも欲しー! ううっ」
それは恨めしそうな面持ちだった。
「クコンちゃん……。……せっかくだから、以前にスバル君に教えてもらったバストアップ法試してみる?」
「……何で男の子がそんなこと知って……あなたたち、もうそこまでの関係まで進んでたの!?」
これにはあたしも驚嘆ものだった。
「違う違う! スバル君は知的障害者で、その施設の先生方がこっそり話していたのを聞いたんだって!」
「……そゆ事。なるほどへ~……知的障害者か……。!? 嘘ーっ!!」
驚きだった。まさかあのスバル君がッッ。
――その後、あたしたちはその方法を試してみることにした。
今、あたし達はベッドの上にいて、クコンちゃんの後ろにアユミちゃんがいる状態だ。
「ここを、こうして……」
「んっ……なんか効きそう」
それは乳房(ほとんどないけど)の横肉を刺激するというものだった。
「でしょう! あたしも試したけど、最初はくすぐったいんだよね。でも段々と……」
「んっくくく……アハッ……ッッ……ん……んんっ……んっ……ハァハァ」
「効いてくるんだよね~これが!」
「ちょっと待って!」
「ん?」
クコンちゃんがあたしの方に振り向いて。
あたしはその目線まで頭を下げた。
「あんた。いつもこんなことをっ」
「普段の入浴中にね。スバル君がどうしてもー! ここばっかり見てくるからね。ドキドキしちゃう」
「そっそうなんだ……へ~……んっ」
「ここにはたくさん乳腺が走ってるんだよぉ」
「にゅ……乳腺……そう通りで……んんっ」
とあたしはその時、耐えられなくてモゾモゾ体を動かしたの。ダメッ、効くっ。
あたしはその時、たまらなくなり、ボソッと呟いたの。
「ハァ……おっぱいが大きい子が好きなんだあの子」
あたしは頬を赤らめた。


【――その夜】
寝床に付いたクコン(あたし)は、真剣に考えていた。これからについて。
「……」
思い出すのは食事風景の場面だ。
アユミちゃんがスバル君にこう質問したのが始まりだった。
「ねえ、スバル君。開拓者って何をするの?」
(そらきた!)
「……僕が聞いたのは、商業別組合ギルド(シネツニーア)から委託を受けた調査をもとに、様々なことを行うんだよ!
代表的なのは、在来種を護る為に外来種の討伐!
次に貴重な薬草や鉱石等の採取!
そして、一般人が立ち入ることができない危険区域に入る等して、色々な奉仕活動を行うらしい。
後、未発見の生物や鉱石等を発見する等して、多岐の仕事に渡るみたいだよ」
「色々するんだね」
「すごいなあ」
とアユミちゃんもあたしも感心していた。
次に口を開いたのは、ヒースさんだった。
「そこでスバル君は、仲間を募集しているんだ! ただし! 緊急の場合を除いて、基本メンバーは6人までと定まっているけどね」
これにはあたしも驚いて、呟きを落とした。
「たったの6人……」
さらにヒースさんが話を続ける。
「そんなに少なくないさ。
1人で活動している開拓者(プロトニア)もいるくらいだからね!
そうだな――例えば報酬を受け取るだろう。その取り分を分け合う時に問題になるのが配給率だ。
だからそれが嫌な人は、1人なし2人で活動してるんだよ。
今ではバランスが取れた人数が、3人だとわかってきてるからね!」
「3人……」
随分落ち着いた人数だった。
ここでスバル君が、代表となるメンバーを告げる。
「まず僕! 次にL! そしてシシド」
次に口を開いたのはヒースさんだ。
「レグルスさんも候補に挙がったんだけど……なにより一般人を殺し過ぎて、そもそも開拓者(プロトニア)試験を受けられない状態なんだよ。誠に遺憾だけどね」
「2人はどうするの?」
とシャルロットさんが付け加えた。
「……」
「……」
あたしたち2人は考えた。
「……できれば、アユミちゃんには残ってほしい。ここに」
「……それは、なんで?」
「君が、大切だからだ。君を失えば、僕は戦えなくなる……気がする」
「……」
それは遠回しに、愛情表現の1つだった。
「帰る場所は、失いたくないんだよ……」
「……」
あたしはスバル君にそう言われ、俯いて考えた。
(ズルいよスバル君……。そんなこと言われたら……)
あたしは頬を赤らめた。
これにはLもニヤニヤしていた。
「なに?」
「別にー!」
と僕は愉快げだった。いいないいな。
「で、クコンちゃん。あなたはどうするの?」
そう言ってきたのはシャルロットさんだった。
「……」
あたしは俯いて考えた。開拓者(プロトニア)になるかどうか。
「ここにアユミちゃんと残って、彼等の帰りを待つのも1つの仕事だ」
「決めるのは、あなたよ」
「……あたしは……」
ヒースさん、シャルロットさんがクコン(あたし)に話しかけてきた。
けれど答えられず……そこでその話は打ち切られた。ダメ、答えられるわけがない。少なくとも今はまだ。
――そして、現在。
あたしは寝返りを打った。
「あたしの……未来……」
そしてあたしは目を瞑って、就寝に入ったのだった……。


TO BE CONTIUND……

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