188章 くじ引き大会中止
殺人未遂事件があったからか、会場は異様な雰囲気を醸し出している。この状態では、くじ引きを続けるのは難しそうだ。
「アカネさん・・・・・・」
「くじ引きを続けるのは難しそうだね」
「殺人未遂事件があったら、くじ引きどころではありません」
回復魔法を使えたからこそ、殺人未遂でとどめることができた。そうでなかったら、女性は尊い命を失っていた。
「申し訳ないですが、クジ引きを終わりにさせていただきます。くじを引けなかった人につきましては、100万ゴールドをプレゼントします。順番にお受け取りください」
残りの参加者に対して、100万ゴールドを配っていく。事件の直後ということもあって、覇気のない人が多かった。
事件が起きてしまっては、次回以降の開催は厳しくなる。くじ引き大会は、わずか2回で幕を閉じてしまった。
全員にお金を配り終えたあと、ミライに声をかける。
「ミライさん、会場を片づけよう」
事件があったばかりなのか、覇気のない声が返ってきた。刺されていない人にとっても、ショックは大きかったらしい。
「はい。やっていきましょう」
「ミライさん、気持ちの整理がつかないんだね」
「はい。ショックが大きすぎます」
「苦しいかもしれないけど、最後までやっていこう」
ミライは体を、そっと寄せてきた。
「しばらくはこのままでいさせてください」
火傷生活が長かった少女は、体内の苦しみを懸命に放出しようとしている。その姿を見ると、
胸が締め付けられるかのようだった。
一五分後、二つの体が離れた。
「アカネさんのおかげで、元気になれました。片付けをしていきましょう」
テーブル、椅子、抽選箱などを、指定の位置に片付けていく。てきぱきとすすめたことで、5
分ほどで終えることができた。
会場を片付け終わったあと、腹部を刺された女性に声をかけられる。
「アカネさん・・・・・・」
女性は無意識なのか、腹部に手を当てていた。
「心の傷はどうなの?」
「ショックは大きいみたいです」
腹部を刺されるのは、計り知れないショックを負う。アカネが同じ立場なら、人間に二度と会
いたいとは思わない。
女性のところに、一人の男性がやってきた。年齢は30~35といったところだった。
「コハル・・・・・・」
名前を呼び捨てにしていることから、交際している男性であると思われる。
「人に刺されたと聞いたけど、無事だったみたいだね」
コハルの体が震えていた。腹部を刺されたことで、男性恐怖症になってしまったようだ。
「うん。アカネさんが助けてくれたの」
恋人と思われる男性に対して、コハルは辛辣な一言を告げる。
「アキヒト、関係を終わりにしよう」
腹部を刺されたことで、人間不信になってしまったのか。これについては、コハルを責めることはできない。人に刺されたら、アカネも同じ感情を持つ。
別れを告げられた男は、突然すぎる展開を呑み込めていなかった。
「コハル・・・・・・」
「いろいろとありがとう。だけど、時計の針を戻すことはできない」
「コハル・・・・・・」
名前を呼ばれた女性は、大粒の涙を流した。人間不信になっているのに、交際していた男を信じようとしているのが伝わってきた。