189章 コハルの思い
「コハルさん、どうぞ」
「アカネさん、お邪魔します」
コハルは新築の家に、ゆっくりと入っていった。
「アカネさんの家は、とっても豪華なんですね」
「そうかな・・・・・・」
「すぐに壊れそうな、家とは天と地の差があります」
「私の家でよければ、ゆっくりとしてね」
「ありがとうございます」
くじ引き大会が中止になったことで、「セカンド牛+++++」を余らせてしまった。捨てるのはもったいないので、二人で食べようかなと思った。
「コハルさん、ステーキを食べてみない」
「今はいいです」
腹部を刺されたばかりなので、食欲を完全に失っているのかな。アカネは彼女の心を、尊重することにした。
コハルは自分のお腹をさすった。
「アキヒトにいっていなかったけど、お腹の中に子供がいました。そのこともあって、つわりで苦しんでいました」
胸の膨らんでいない女性が、当たり前のように出産する。「セカンドライフの街」は、早期出産の傾向が強くなっている。
「男に刺されてから、つわりを感じなくなりました。子供は死んでいるものと思われます」
生きている人は救えたとしても、失った命を救うことはできない。死者を復活させる、スキルは備えていない。
「子供が生きているのかを確認してもいい?」
「子供の有無を確認できるんですか?」
「うん。お腹の中を見ることができるよ」
「子供が生きているのかを、チェックしてください」
魔法を使用して、女性の体の内部を調べる。
「コハルさんのいうとおり、赤ちゃんは亡くなっているみたいだね」
死亡宣告を聞いたにもかかわらず、コハルはサバサバとしている。子供に愛着を持っていなかったのかな。
「そうなんですね」
「亡くなった子供については、体の中から消しておくね」
「そんなこともできるんですか?」
「うん。生きている人間の治療なら、どんなこともできるんだ」
魔法を使用して、体内の赤ちゃんを取り除く。
「アカネさんのおかげで、体が軽くなりました。本当にありがとうございます」
彼女が背負わされた、十字架も軽くなっていくといいな。
コハルは静かに口を開いた。
「アキヒトと交際していたのは、付与金を支給される前です。本人の前ではいけないけど、経済面による交際です」
以前は共働きをすることで、経済が成り立つ状況だった。それゆえ、結婚は義務に近かった。
「付与金をもらってからは、考え方に変化が生じました。本当に好きになれる人と、結婚したい
という思いが、強く芽生えていきました」
交際はしていたものの、本気で好きではなかった。コハルの言葉は、それを物語っていた。
「アキヒトは彼氏というより、おじいちゃんみたいな存在でした。それゆえ、結婚はどうかなと思っていました」
コハルが10歳で子供を産み、その子供が10歳くらいで出産すると、20歳でおばあちゃんになる。
「別れようと思っていたときに、妊娠の話を聞かされます。一人で大いに悩んで、眠れない日々
が続きました」
「コハルさん・・・・・・」
心から愛しているのであれば、出産のことを伝える。そうしなかったのは、彼に対する愛情が冷めていたからだと思われる。
「アキヒトは愛していなくても、子供は心から愛している。その思いがあったから、出産に踏み切ることにしました」
コハルは腹部を優しく撫でる。
「子供を出産したいという、希望を叶えることはできませんでした。そのこともあって、完全に吹っ切れてしまいました」
子供を出産していたら、結婚しようと思ったのかな。胎児が亡くなってしまったので、永久的にわからなくなってしまった。
コハルは大きな欠伸をする。
「コハルさん、体調はだいじょうぶ?」
「あんまりよくないです」
「ベッドでゆっくりと休んでね」
「ベッドを借りてもいいんですか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます」
コハルはベッドで横になると、すぐに眠りにつくこととなった。