180章 店長の性格
フタバの作ったおにぎりを、店長は4つほど食べていた。病気だけでなく、食欲も回復したようだ。
フタバが頭を深く下げる。
「アカネさんのおかげで、店長は満足に食べられるようになりました。本当にありがとうございます」
回復魔法のすごいところは、病気にかかっていたことを、忘れさせるレベルであること。店長の姿を見たら、病気にかかっていたとは誰も思わない。
いろいろな人の病気を、治療したときのことを思い出す。あのときについても、あっという間に効果を発揮していた。魔法治療というのは、医学の数段上に位置している。
アイコは深々と頭を下げる。
「アカネおねえちゃん、おとうさんを助けてくれてありがとうございます」
「どういたしまして」
睡魔に襲われたのか、アイコは大きな欠伸をする。
「おとうさん、おかあさん、睡眠をとってくるね」
フタバは小さく頷いた。
「うん。ゆっくりとしておいで」
フタバがいなくなったあと、店長が口を開いた。
「フタバ、味噌汁を食べたい」
「わかった。あとでもっていくから、娘たちの様子をみてくれない」
店長は渋い顔で、
「育児は・・・・・・・」
といった。続きをいってしまった場合、家族に強烈な楔を打ち込むことになる。
「子供たちの面倒を見てくる」
店長はそう言い残すと、部屋に入っていった。
フタバは苦笑いを浮かべる。
「アイコに看病してもらっていたのに、恩を忘れてしまったみたいです」
「アイコちゃんが、看病していたんですか?」
「はい。睡眠時間を削って、店長を看病していました」
「とっても良くできた女性ですね」
「そうですね。私の娘とは思えないです」
フタバが大きな欠伸をする。
「身体はだいじょうぶですか?」
「はい。弱い眠気を感じただけですから」
フタバの体調は、フタバにしかわからない。彼女の言葉を信じるしかできない。
「無茶はしないでくださいね」
「アカネさん、ありがとうございます」
フタバは椅子に腰かける。そのあと、ラーメンの器を手に取った。
「ラーメンに対する情熱を、育児にも注いでほしいです」
「・・・・・・・」
「ラーメンを作るようになってからは、子供たちが寂しさを感じています」
ラーメンの仕込み、ラーメン販売、お金の計算で16時間くらいを費やす。7時間前後の睡眠を
会わせると、23時間くらいになる。子供と向き合えるのは、せいぜい1時間くらいだ。
「店長がラーメンを作るきっかけは何ですか?」
「性格的なものだと思います。人の下で働くよりも、自分で何かをする方が向いています」
正直な性格は、組織で働くのに適さない。人の下で働くときは、個性を殺すことが重要になる
場面が多い。
「不器用な性格が災いして、職場を転々としていました。そのこともあって、苦しい生活が続きました」
不器用な性格を受け入れられないのは、こちらの世界も同じなのか。「セカンドライフの街」は、日本式の考えをしているのかもしれない。
「アカネさんのお金がなかったら、心中していたかもしれません」
心中という言葉を聞き、室内の空気が重くなった。
「付与金が支給されるまでは、1年で3000くらいの無理心中がありました。苦しい生活をつづけ
たことで、正常な判断力を失ったのだと思われます」
追い詰められた人間というのは、正しい、間違いの区別をつけられなくなる。
「私たちが生きていられるのは、アカネさんのおかげです。本当にありがとうございます」
フタバの発言を聞いていると、最低限のお金は必要なのを感じた。お金のない人生では、希望
を持つのは厳しくなる。