バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

178章 ラーメン屋

 ラーメン店の門をくぐった。

「こんにちは・・・・・・」

 アカネがやってきたことを知り、フタバの表情が明るくなった。

「アカネさん、お久しぶりです」

「ラーメンは食べられますか?」

「すみません。現在は休業中なんです」

「そうなんですか・・・・・・」

「来月くらいから、営業再開予定となっています」

「わかりました」

 フタバと話していると、アイコが姿を見せる。

「アカネおねえちゃん・・・・・・」

 500日ぶりくらいに会った女性は、身体が大きく成長していた。

「アイコちゃん、大きくなったね」

「うん。ママの身長を追い越したよ」

 アイコがフタバの横に並ぶと、はっきりとした差があった。

「アイコは身長のことばかりを話そうとするんです。私は小さいことを気にしているので、あま
り話さないでほしいのですが・・・・・・」

 話さないでほしいといっているのに、満面の笑みを浮かべていた。娘の成長というのは、母親にとっての最大の喜びのようだ。

「アカネおねえちゃん、手を握ってください」

「うん、いいよ」

 アカネが手を差し出すと、アイコは勢い良く掴んだ。 

「感激で胸がいっぱいです」

 アイコの幸せそうな笑顔を見ていると、こちらまで嬉しくなってきた。 

 アイコはゆっくりと手を離す。

「今日は手を洗いません」

 500日前くらいにも、同じような言葉を訊いた。身長は変わったとしても、中身は変化がないようだ。

「おとうさんの看病があるので、私は失礼します」

 ラーメン店の販売を中止しているのは、父親の体調不良によるものだった。そのことを知っ
て、胸が締め付けられる思いだった。

 アイコがいなくなったのを確認すると、小さな声で話しかける。

「いつぐらいから、調子が悪いんですか?」

「2カ月前からです」

「体調不良の理由は何ですか?」

「働きすぎだと思います。ラーメンを提供するために、身体に鞭を打っていました」

 フタバ、アイコ、サラがストップをかけても、店長はラーメンを作り続けるだろう。彼は一杯のラーメンに、己の魂を捧げていた。

「回復魔法を使用しましょうか?」

 フタバは静かに首を振った。

「今回については、遠慮しようと思います」

「・・・・・・・」 

「娘は時間を割いて、父親の看病をしてきました。母親としては、最後までやらせてあげたいと
いう気持ちが強いです」

 アカネのやろうとしていることは、最後の手柄を横取りするようなもの。母親としては、受け
入れるのは難しい。

「どうしても必要というのであれば、アカネさんにお願いしたいと思います」

「わかりました。そのときは声をかけてください」

 フタバと話をしていると、サラが姿を見せる。こちらについても、身長が伸びていた。

「アカネおねえちゃんですか?」

「うん、そうだよ」

 サラは深々と頭を下げる。

「前回は失礼なことをしました」

「気にしなくてもいいよ」

 サラは人差し指、中指の二本の指で、アカネの服の裾を引っ張った。

「アカネおねえちゃん、おとうさんを苦しみから解放してあげてください。おとうさんが苦しんでいるところを見ると、胸に痛みを感じます」

 回復魔法をかけたいところだけど、アイコの立場もある。アカネはどのようにしていいのか、わからなかった。  

「フタバさん、どうしたらいいですか?」

「アイコに話をするので、回復魔法をかけていただけますか?」

「わかりました」 

 アカネ、フタバ、サラの三人で、店長のいるところに向かった。

しおり