7号店の移動販売 その3
最初の集落で移動販売をはじめた僕とパラナミオです。
後部の屋台部分を展開した電気自動車おもてなし3号には、それなりにお客さんが集まっています。
この世界には存在しない電気自動車でやってきていますので、物珍しさもあるのでしょう。
思い思いに商品を眺めたり、手に取ったりしながらされているのですが……なかなか購入まではいたらない感じですね。
……まぁ、今日ははじめてだし……そうなるよなぁ
内心でそんな事を考えた僕は、弁当を1つ手に取るとその中身をキッチンハサミを使用して小分けにしていきました。
そしてそれを小皿に移すと
「コンビニおもてなし名物のタテガミライオンのお肉を使った弁当です。よかったら試食してみませんか?」
僕は満面の笑顔でそう言いました。
すると……
「な、何!? この弁当はタテガミライオンの肉を使っているのか!?」
「嘘だろ……あ、あの凶暴な魔獣を……」
「でも、本当にタテガミライオンの肉を使っているんだったら、すっごいお値打ちというか……」
皆さん目を丸くしながら僕の周囲に集まってこられました。
そんな皆さんに、僕は小分けにしたタテガミライオンの焼き肉がのっている小皿を乗せたトレーを差し出していきます。
「さ、お試しください。お一人様一皿でお願いしますね」
僕がそう言うと、もう一つ準備しておいてトレーをパラナミオが手にとって
「さぁ試食なのです。皆さん遠慮なくお食べください」
満面の笑顔でそう言いながら、それを差し出していきました。
そんな中……
「俺、タテガミライオンの肉を食ったことがあるから……」
そう言って、狼さんのような亜人種族さんが一歩前に出て、僕のトレーから試食の小皿を手に取り、それをゆっくりと口にいれていきました。
「……ん……んん!? こ、これは間違いない! タテガミライオンの肉だ! しかもなんだこれ!? 肉に絡めてあるタレが絶妙というか、すっごくうまい!」
その亜人種族さんは目を丸くしながら絶叫すると、即座に製品版のお弁当を2つ手にとっていきました。
それを見た他の方々も、
「あ、ず、ずるいぞ!」
「お、俺にも試食を」
「私にもちょうだい!」
「えぇい、もう弁当を買うぞ、俺は!」
一斉に試食と、商品の方に殺到していかれました。
僕とパラナミオは笑顔で接客していきました。
やはり試食の効果は大きいですね。
実際に食べてもらって、味を確かめてもらってから購入していただけますので。
その後、パラナミオが
「このタクラ酒とスアビールも一緒にどうですか? とっても美味しいですよ」
そう言って、お酒もお勧めしてくれました。
さりげなくタクラ酒の方を先に宣伝してくれているパラナミオの姿を前にして、思わず目頭が熱くなってしまった僕でした。
タクラ酒も結構美味しいお酒なんですよ……その証拠に最近は南部のドレとかいう街から定期的に注文が入るくらいですから……でも、この世界に存在しない炭酸系でキンキン二冷えているビールの方が、美味しい上に珍しいもんですからどうしてもこっちに人気が集中しちゃうんですよね。
パラナミオが頑張ってくれているのですが、
「こっちのスアビールをもらおうか」
「うん、なんかシュワシュワしていて美味しいわ」
ここでも、人気はスアビールに集中していたわけでして……
◇◇
そんなわけで……
最初の集落では、思ったよりもたくさんお弁当とお酒が売れました。
この集落の主な産業が農業だったこともあってか、三つ叉桑や軍手なんかの農業用品も結構売れた感じです。
「じゃあ、定期的に寄らせてもらいますね。よかったら辺境都市ウリナコンベにお店がありますので、そちらもよろしくお願いいたします」
見送ってくださっている皆さんに向かって、僕は笑顔でそう言いました。
すると
「あぁ、待ってるよ。また弁当とスアビールをお願いするね」
「今度ウリナコンベに行くことがあったらのぞいてみるよ、スアビールが気に入ったし」
「次回は、このスアビールをもっとたくさんお願いね」
皆さん、口々にそんな言葉を発しながら僕とパラナミオの乗った電気自動車おもてなし3号を見送ってくださいました。
……残念なことに、最後までタクラ酒の声は聞くことが出来ませんでした……
「パパ、大丈夫ですよ。何本かは売れました。次の集落でも頑張って売りますから」
パラナミオが笑顔で励ましてくれています。
「そうだね、うん、頑張らないとね」
そんなパラナミオに、僕も笑顔を返していきました。
その後……
僕とパラナミオは、2つの集落を回ってから辺境都市ウリナコンベへと戻っていきました。
夕方から出発したこともあって、集落3つ回るのが限界のようですね。
辺境都市ウリナコンベに戻るのがあまり遅くなってしまうと、城門が閉鎖されてしまって翌朝まで中に入れなくなってしまいますからね。
3つ目の集落での移動販売を終えた僕とパラナミオは急いでウリナコンベへと戻っていきました。
時間的には結構ギリギリになってしまったものの、無事閉門前にウリナコンベの中へと戻ることが出来ました。
電気自動車おもてなし3号をコンビニおもてなし7号店の裏へと移動させた僕は、後部のコンテナを開けて在庫を確認していきました。
どの集落でも一番人気だったお弁当とお酒は完売状態です。
あと、農業を営んでいる方々が多かったこともあってか農機具類もかなりの売れ行きでした。
「やっぱり食べ物系が強い感じだね……となると、次回はサンドイッチやパン、それにヤルメキススイーツなんかも持っていった方がいいかもしれないな」
「はい、パラナミオもそう思います」
一緒に在庫を確認していたパラナミオも僕の言葉に笑顔で頷いています。
こうして、僕とパラナミオの父娘2人の営業販売初日は無事成功で幕を閉じました。
◇◇
その夜……
夕飯を終えて、お風呂に入った僕。
当然、スア・パラナミオ・リョータ・アルト・ムツキ・アルカちゃんも一緒です。
大きな湯船の僕の家のお風呂ですが、僕が湯船に入るとみんな僕の周囲に……あ、アルカちゃんは大好きなリョータにくっついているだけなんですけど、そのリョータが僕の近くに寄ってきていますので結果的に僕の周囲に集まっているわけです。
で、そんなわけで、大きな浴槽の中なのですが、僕の周囲だけに人が集まっている状態です。
こうして、娘達が一緒にお風呂に入ってくれる……この至福の時間がいつまで続くのか……そんなことを考えながらも、今はみんなと一緒の楽しい入浴時間を満喫しようと思います。
……しかし、あれですね
今日の移動販売はなかなか手応えがあった感じです。
夕方あたりからぱったり客足が途絶えてしまうウリナコンベのコンビニおもてなし7号店ですが、その時間帯の売り上げを移動販売が補ってくれた感じです。
……発展途中の都市だからこそなのかもしれないけど、まぁ、しばらくの間はこの形態の営業を続けながら様子見かな
僕がそんなことを考えていると、僕の隣に座って湯船に入っているパラナミオが僕の腕を抱きしめながらもたれかかってきました。
よく見ると、うつらうつらしながら、頭が前後に船をこいでいます。
……さすがに疲れちゃったみたいだな
僕は、そんなパラナミオの頭を優しく撫でてあげました。
「パラナミオ、今日はお疲れさま。これからもよろしくね……もちろん、みんなもだよ」
僕がそういうと、スアやリョータ達も笑顔を浮かべてくれました。
ただし、寝ているパラナミオが起きないように、声は出さないで……
ホントに、みんな優しいです。