7号店の移動販売 その2
しかしあれですね……
僕が元いた世界では支店がどんどん閉店していって先行き真っ暗な状態だったコンビニおもてなしですけど、今にして思えばよくもまぁ、太陽光発電を導入してオール電化店舗にしたり、電気自動車や電動バイクを導入していたもんだなぁ、と、我ながらちょっと呆れてしまいます。
でも、本店だけでどうやって生き延びていくか必死に考えた結果たどり着いた答えだったんですよね。
……しかし
まさか、それが今、異世界で役だっているんですから……ホント人生何が幸いするかわかりません。
「パパ! 早くいきましょう!」
そんな電気自動車おもてなし3号の助手席に乗り込んでいるパラナミオが笑顔で僕に声をかけています。
「よし、んじゃ、まぁ様子見がてら一周してこようか」
そう言うと、僕は電気自動車おもてなし3号の運転席に乗り込みました。
充電式で、一度フル充電するとだいたい5,60キロ走れます。
「店長ちゃん、気をつけて! みたいな!」
電気自動車おもてなし3号で7号店の前に移動していくと、出入り口のところでクローコさんが手を振ってくれていました。
僕とパラナミオが出かけている間は、副店長のクローコさんとブロンディさんが店内を仕切ってくれることになっています。
「クローコさん、閉店までには戻りますのでお店の方、よろしくお願いしますね」
「店長ちゃん、クローコにお任せ! みたいな!」
僕の言葉に、笑顔の舌出し横ピーズで応えてくれたクローコさん。
一見ふざけて見えなくもないこのポーズですけど、クローコさん的には大真面目かつ超気合いが入っている時だけ見せる仕草なんですよね。
……その割にはよく見ているような気がしないでもないんですが。
店内では、ブロンディさんやパリピポナが笑顔でお客さんの対応をしている姿も見えます。
まだ開店して間もないコンビニおもてなし7号店ですけど、今のところ順調にまわっている感じです。
「さて……となると、この移動販売の成否が今後のお店の安定経営の鍵を握っているってことだな」
「はい! パパ頑張りましょう!」
僕の言葉に、パラナミオも気合いの入った表情を浮かべています。
そんな僕達をのせた電気自動車おもてなし3号は辺境都市ウリナコンベの城門で一度検査を受けてから都市の外へと移動していきました。
◇◇
辺境都市ウリナコンベの周囲は深い森で囲まれています。
ブリリアンが事前に調査してくれていた内容によると、魔獣達はこの近くにある辺境都市リバティコンベっていう都市の衛兵達によってかなり駆除されているらしく、出くわすことはまずないだろうとのことだった。
そう言われて周囲を見回してみると……
森の中を巡回している数人単位の衛兵らしい人達の姿を見つけることが出来ました。
おそらくあれが辺境都市リバティコンベの衛兵達なんでしょう。
辺境都市ウリナコンベとリバティコンベは、領主同士が仲が良いらしくて、ウリナコンベの復興にリバティコンベが全面的に協力しているらしい。
衛兵の派遣も、その一環として行われているそうなんだけど……確かに、街道が安全となると人の行き来も活発になるだろうし……何より、これですよ、これ……
急に電気自動車おもてなし3号の周囲が暗くなりました。
パラナミオが窓から顔を出して空を見上げると、
「うわぁ……すっごく大きいです」
思わずそんな声をあげていきました。
パラナミオの視線の先、上空を1隻の魔導船が飛行していたんです。
この魔導船は、定期的にこの近隣にある辺境都市と王都あたりを結んで運行しているそうなんです。
僕達もガタコンベからナカンコンベまでの間で定期魔道船を就航させていますけど、その運行に使用している魔導船よりも一回り以上大きい感じですね。
この魔導船の大きさなんですけど、竜骨と言われている船の真ん中を支えている太い樹木の大きさが影響しているそうなんですけど、この魔導船はすごく太い木を入手して作成されたか、昔作成された巨大な魔導船を再利用しているんじゃないか、って、スアが言っていました。
この竜骨は、文字通り竜の背骨を使用することもあったそうなんですけど、それも今は昔の話といいますか、この世界には龍が数えるくらいしか存在していませんので、魔導船に使用出来るほど巨大な龍の死骸なんてまずお目にかかれませんからね
◇◇
そんな魔導船とすれ違い、僕達は森の中の街道を進んでいきまして……
「あ、パパ! 見えてきました!」
パラナミオが笑顔で指さしたその先に、最初の集落が見えてきました。
ブリリアンの資料によりますと、
「……えっと、ここは複数種の亜人種族の方々が集まって暮らしているみたいだね」
元々は、辺境都市ウリナコンベで暮らしていた方々が大半を占めているこの集落。
辺境都市ウリナコンベが闇の嬌声っていう闇組織に実質支配されたために都市を出て、ここに集落を作ったのがはじまりなんだとか。
辺境都市ウリナコンベから闇の嬌声が居なくなった今も、都市には戻らないでここで自給自足の生活を送っている、と、ブリリアンの資料に捕捉説明が書かれていました。
資料を確認した後に、改めて周囲を見回してみますと……
集落の周辺には結構大きな農園が広がっています。
近くに大きな川も流れていますし、しっかりと治水もされているようですね
集落の周囲は木製の柵で覆われています。
その一角にある城門前に電気自動車おもてなし3号を停止させた僕は、車をおりました。
すると、城門を守っていた衛兵さん達が
「な、なんだありゃ?」
「乗り物……なの、か?」
目を丸くしながら電気自動車おもてなし3号に歩み寄ってきました。
確かに、荷馬車が主な移動手段のこの世界では、電気自動車おもてなし3号は特異な存在でしかありませんからね。
僕は、営業スマイルを浮かべながら、その衛兵さん達に歩み寄っていきました。
「こんにちは。僕達、辺境都市ウリナコンベから移動販売でやってきました、コンビニおもてなしの者なんですが、こちらの集落の中で少しの間、屋台を出させてもらえないでしょうか?」
「移動販売?」
「屋台?」
僕の言葉に、最初は怪訝そうな表情を浮かべていた衛兵さんだったのですが、僕が辺境都市ウリナコンベでお店を開いているという、ウリナコンベ商店街組合の証明書を見せたところ、
「あぁ、ウリナコンベで正式に店を出してるのなら、まぁ問題ないだろう」
そう言って、門の中へと通してくれました。
集落に入ると、
「うわぁ……何、あれ?」
「あれ、乗り物?」
街道を歩いていた集落の人達が電気自動車おもてなし3号の周囲に集まって来ました。
そんな人達を引き連れるようにして、電気自動車おもてなし3号は集落の中央にアル広場へと移動していきます。
人に当たらないように気をつけながら、超安全運転で移動していったものですから、距離の割に時間がかかってしまった感じです。
公園の一角に電気自動車おもてなし3号を停車させると、僕とパラナミオはすぐに後ろのコンテナ部分を展開していきました。
移動販売用にカスタマイズされている電気自動車おもてなし3号ですので、コンテナの扉を開くだけで、すぐに屋台として販売が出来る状態になっています。
「さぁみなさん、今日は移動販売でこちらの集落へお邪魔させていただきました」
「コンビニおもてなしです、よろしくお願いします」
元気な声で挨拶をした僕とパラナミオ。
一度深々と頭を下げてから、
「さぁ、よかったら見ていってください。お弁当やお酒、農具なんかも取りそろえていますので」
そう言って、コンテナの中を右手で指し示していきました。
すると……
「へぇ……移動販売ねぇ」
「食べ物や、お酒があるんだ……」
「農具か……そりゃ興味あるな」
電気自動車おもてなし3号と一緒に移動してきていた皆さんは、そんな言葉を口にしながらコンテナの方へと移動していかれました。