7号店の移動販売 その1
辺境都市ウリナコンベでコンビニおもてなし7号店を開店して1週間経ちました。
この日の営業を終えた僕は、スア製の魔法レジを操作して今日の売り上げ状況を確認しています。
売り上げに関していいますと……正直なところ当初の予定よりも若干低めといった感じです。
ですが、これはまぁしょうがありません。
当初予定していた売り上げ予想は、あくまでもお客さんが開店から閉店まで、辺境都市ガタコンベにあるコンビニおもてなし本店並に来店くださる前提で試算してあったのですが、ここ辺境都市ウリナコンベは思っていた以上に定住人口が少なく、この都市で働いている多くの人々が夕刻には定期魔道船を使って本来暮らしている街へ帰っていってしまうもんですから、コンビニおもてなし7号店の客足が夕方以降ガクッと減ってしまっているわけです。
ただ、逆を言えば、夕方の2,3時間の客足がパッタリな現状で、フルタイムを想定して試算されていた当初予定よりも若干の微減ですんでいるということは、むしろ大健闘していると言えなくもありません。
「さて……となると、そろそろ明日あたりから例の作戦を実行してみるか」
僕が魔法レジの前でそう呟いていると、
「パパ、パラナミオも頑張りますよ!」
と、店内を掃除していたパラナミオが笑顔を浮かべながら駆け寄って来てくれました。
実は、コンビニおもてなし7号店においてこのパラナミオの笑顔がかなりの効果を発揮しています。
いつも満面笑顔で接客を頑張ってくれているパラナミオなのですが、
「パラナミオちゃん今日も元気だねぇ」
「パラナミオちゃんの笑顔のおかげで今日も頑張れるよ」
そんな声を残していってくださるお客様が少なくないんです。
そして、そんなお客さんの大半がリピーターになってくれていまして、開店したばかりのコンビニおもてなし7号店の貴重な常連客になっているんです。
クローコさんとブロンディさんの掛け合いも、すでにすっかり7号店名物になっていまして、いまでは2人の痴話喧嘩的な掛け合いを目当てに通ってくださっているお客様も少なくありません。
そんな感じで、コンビニおもてなし7号店は出来ることからこつこつと頑張っているわけです。
「よしパラナミオ。明日から新人さんも加わるし、お昼過ぎからは一緒に移動販売をしに行ってみようか」
「はい! 任せてください!」
僕の言葉に、胸をドンと叩くパラナミオ。
その顔には、やる気満々の表情が浮かんでいます。
そんなパラナミオの顔を見ていると、なんだか僕までやる気満々になってくるから、ホント不思議です、はい。
◇◇
翌朝……
本店の厨房で今朝のコンビニおもてなし本支店並びに出張所用のお弁当の調理を終えた僕は、
「じゃあビナスさん、弁当の詰め込み作業と本店のことをよろしくお願いいたします」
「はい、お任せくださいな」
後のことを、現コンビニおもてなし本店店長代理の魔王ビナスさんにお任せしまして、コンビニおもてなし7号店へ移動していきました。
「パパ、今日も頑張りましょう!」
もちろん、パラナミオも一緒です。
少し前までは、この時間のパラナミオは、リョータをはじめたとした我が家の他の子供達と一緒にまだ眠っていたはずなんですけど、今のパラナミオはやる気満々の様子で僕の後をついてきています。
なんといいますか……我が家にやって来た時に比べて相当大きくなったとはいえ、まだまだ小柄で痩せっぽっちなパラナミオなんですけど、その存在をこんなにも頼もしく感じる日が訪れるとは……
なんでしょう……思わず目から感動の汗が流れ出して……
7号店へ移動しますと、
「あ、店長さん、パラナミオさん、おはようございますぅ」
「ぴゃ!おはようございますっぴゃ!」
今日から勤務に入ることになっている新人のラコネイルさんとパリピポナがすでにお店の中で掃除をしてくれていました。
ラミア族のラコネイルさんは、ラミア族特有の長い尻尾を有して……有し……有……
「あれれ?」
僕は、ラコネイルさんの姿を見て目を丸くしました。
……だって……研修前や、商店街組合での面接の際にあった、あの蛇状態だった下半身がどこにも見当たらないばかりか、その下半身が僕達人種族と同じ二本足状態になっているんですもの……
「あぁ、これですか? スア様の変化魔法薬で一時的に足を変化させているんですよ。スア様の魔法薬ってほんとすごいですぅ」
僕の視線が、その下半身に向いていることに気がついたラコネイルさんが嬉しそうにそう教えてくれたのですが……なるほど、スアってばそんな魔法薬まで……
なんと言いますか……我が妻ながらその魔法能力のすごさを改めて実感している僕だったわけですが……ほんと、数時間前には僕の下であんなに可愛い声を……おっとっと、これ以上の回想に関しては黙秘させていただきますね。
ラコネイルさんの場合、下半身は二本足に変化しているのですが、お尻のあたりから太くて短い尻尾がデンと伸びていまして、その形状で蛇系の種族さんなんだなと言うことが理解出来ました。
一方のパリピポナはと言いますと、ハーピーである特性を活かして、店内を舞いながら天井付近を綺麗に掃除してくれています。
ゴミが商品にかからないように、手にはちりとりを持って作業してくれています。
こういった細かい配慮は、魔王ビナスさんによる新人研修の賜物なんですよね。
研修がはじまったばかりの頃のパリピポナは、豪快に天井を拭きまくって、高い位置に陳列してあった商品を豪快になぎ倒したりしていましたし……そう考えると、魔王ビナスさんの新人研修ってほんと重要なんだなぁ、と、改めて実感した僕でした。
クローコさんとブロンディさんもすでに開店準備をはじめてくれていましたので、
「お嬢様、さぁ個々は私が~♪」
「ギャー! なんですぐに抱き上げる!? マジありえないし!」
……うん、2人とも通常どおりみたいですので……
僕はパラナミオと一緒に店の裏に回っていきました。
そこには簡易倉庫がありまして、
ガラガラガラ……
その扉を開けますと、中には電気自動車おもてなし3号が置いてあります。
この電気自動車おもてなし3号ですが、まだコンビニおもてなしが僕の世界にあった頃に、移動販売用に相当無理をして導入した電気自動車の1台なんですよ。
ちなみに1号は本店からテトテ集落へ向かうのに使用しています。
テトテ集落にはコンビニおもてなし出張所が開店していますので、無理に出張販売をする必要はないのですが
「いや、これはぜひ続けてほしい」
「出張販売はいいですよねぇ」
「ホント、文化の極みですの」
といった感じで、テトテ集落の皆様からの熱い要望にお応えして今も月に1,2回のペースで継続している次第なんです。
2号は、辺境都市ナカンコンベにありますコンビニおもてなし5号店東店に置いてありまして、主にファラさんがフク集落やその周辺に点在している集落へ商品を届けるために活用してくれているんです。
そして、ここ3号店にスアの転移魔法で移動してもらったこの3号で、僕とパラナミオが周辺集落を回って移動販売を行っていくわけです。
「よし、じゃあ早速商品を詰め込むか」
「ハイ!わかりました」
そんなわけで、おもてなし3号の後部にありますハッチ式の陳列スペースを開けた僕は、魔法袋に詰めて持って来ていた商品を、パラナミオと2人して陳列していきました。
今日のお昼過ぎから、パラナミオと2人で仲良く移動販売に行くわけですけど……なんか、親子でデートみたいで嬉しくなってきてしまいますね。