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ウリナコンベの7号店本番 その6

「ブルア姉上……」

 翌日、事情を聞いて辺境都市ウリナコンベへとやってきたイエロなのですが……

 僕的には久しぶりの姉妹の再会ですので、感涙にむせぶ……とまではいかなくとも、せめて笑顔で再会を喜びあうとか、そんなのはあると思っていたんですよね……

 ですが……

 そんなことを考えていた僕の前でイエロは渋い表情を浮かべたままピクリともしていません

 ……で

 そんなイエロを出迎えたブルアさんはと言いますと……

「いやぁ、久しぶりでござるねぇ、イエロ。息災であったか?」
 と、こちらは僕の想像していたとおり、笑顔でイエロに話かけているのですが……
 そのすぐ横には黒い鎧姿のクロさんが立っていまして……ブルアさんはそんなクロさんとお手々つないで仲良く立っているわけです。
「うむ、そなたがブルアの妹なんじゃな、わしゃ、お前さんのお姉さんのブルアさんと、結婚を前提にお付き合いさせていただいておる鬼人の行商人でクロと申してじゃな……」
 クロさんがそう言って自己紹介をしていると、イエロはブルアさんに詰め寄ってですね、
「ブルア姉上、貴殿王都にて亜人傭兵団にて活躍中とのことではござらなかったか? なぜに男とうつつを抜かしておられる」
 と、すごい怒った口調でブルアさんにまくし立てたのですが……
「仕方ないではござらぬか。ほれ、王都の人種族至上主義のせいで亜人傭兵団が軒並み王都から追い出されたのでござるわよぉ。その後はね、拙者は所属していた傭兵団でござるけどね、辺境都市リバティコンベの衛兵としてみんな雇用してもらえたでござるのよ」
「だからといって、なぜに男にうつつを抜かしておるでござるか!?」
「仕方あるまいに。拙者が新たに勤務をはじめたリバティコンベで拙者の運命のダーリンに出会ったでござるゆえに……これはもう運命と思って身を委ねたでござるのよ」
「あの鬼神と恐れられたブルア姉上が……なんたるふぬけた! レルド兄上が聞いたら……」

 と、まぁ、姉妹の間で喧々囂々になってしまったのですが……怒気をはらんでマジで怒っているイエロに対して、それをブルアさんは終始ニコニコ笑いながらうまぁくいなし続けている印象でして……
 このあたりは、さすが姉妹といいますか、イエロのことをよく理解しているお姉さんだからこそ出来る技といった感じですね、はい。

 そんなわけで……

 姉妹の再会に関しては、コンビニおもてなし7号店の奥にあります応接室で続きをしてもらうことにいたしまして……僕はコンビニおもてなし7号店の今後の営業方針を相談するために、店舗開発部門のブリリアンとメイデンに来てもらいました。

 ちなみに……

 ブリリアンの元で働いているメイデンなのですが……コンビニおもてなしで働きはじめる前はこの世界最大の闇組織こと、闇の嬌声の下部組織で働いていたところを最終的に僕達が捕縛しまして、その身柄をコンビニおもてなしが預かっているわけです。で、その監視を兼ねてブリリアンがメイデンの世話をしてくれているのですが……

 このメイデンって、結構謎が多いんですよね。

 と、いいますのも……スアが魔法で調べてみたところ、もともとはこの世界の人間ではないだろうということが判明していまして……なんでも、別の世界でなんらかの魔法に失敗して次元の狭間に落ち込んでしまい、この世界に落下してきたのでは……とのことでした。そのショックで以前の記憶をほとんど失っていたメイデンは、最初に彼女を保護した闇の嬌声の指示に従って悪事に荷担していた……と、まぁ、これが真相のようなんです。
 コンビニおもてなしで保護観察処分中の今では、その保護観察をマンツーマンで行っているブリリアンにすっかり懐いてしまっていまして、今、僕の目の前では、
「ブリリアンお姉様、資料の準備はばっちりですわぁ」
 と、満面に笑顔を浮かべながらブリリアンの腕に抱きついています。
 その密着ぶりといいますか、ラブラブぶりといいますか……それはもう、抱きつかれているブリリアンが真っ赤になってしまうほどでして……

「ご、ごほん……と、とにかく事情はわかりました。確かに店長さんが実感なさっておられる夕方の時間帯の街道の通行量の異常な減少に関しては私も危惧していたのですが……こちらをご覧ください」
 そう言って、ブリリアンは1枚の紙を僕に差し出しました。
 それには【辺境都市ウリナコンベでの店舗展開について】と表題されていまして、出店に関しての今後の計画表が策定されていました。
 
 それによりますと……

・辺境都市ウリナコンベは徐々に定住人口が増えているため、コンビニおもてなし7号店の客足も徐々に増えて行くと思われること
・この一帯の地域でのコンビニおもてなしの知名度を高めるため、イベントなどには積極的に参加すること
・近隣に点在している森の中の集落をくまなく回る移動販売を検討する

 などの内容が書かれていました。

 で

 その中で、一番僕が興味をもったのは

【移動販売】

 に関する内容でした。

「ブリリアン、この一帯にはそんなに集落が多いのかい?」
「正確には、増えた……と、言うべきですね。ここ辺境都市ウリナコンベは、元々は普通の辺境小都市でして、いつ辺境都市に昇格してもおかしくないと言われていたのですが、そこに闇の嬌声達が乗り込んできて都市機能を実質支配したものですから、それを嫌った住人達が森の中に移住して、そこに多くの集落を形成したのでございます」
「……ふむ、ブリリアンの意見としては、その集落にコンビニおもてなしにある、移動販売出来る電気自動車で出向いていって移動販売をしてはどうかということなんだ」
「はい。何しろここ辺境都市ウリナコンベの周囲に点在している、元ウリナコンベ住民達によって形成されている集落の人口をすべて合計いたしますと、現在のウリナコンベの総人口をはるかに上回っておりますので、無視できない存在かと……」

 とまぁ、そんな説明を受けてですね……コンビニおもてなし7号店の客足がガタッと落ちる夕方以降に、電気自動車コンビニおもてなしくんで移動販売を行うことを決めた次第です。

 移動販売は、僕とパラナミオで行います。
 その間のお店の方は、クローコさんとブロンディさんにお任せする予定にしている次第です。

 ブリリアンとメイデンの調査のおかげで、7号店の新たな方向性が見えてきました。
 やはり、こういった地域性といいますか、特殊な事情を抱えている都市に出店する際にはこういった情報が不可欠ですね。
 そういった意味では、店舗検討部門を設置したのと、それを細かなことを調べるのが得意なブリリアンとメイデンに任せたのは、自画自賛ですけど、なかなかヒットだったな、と、思った次第です、はい。


 さて

 そんなわけで、新たな営業方針も決まりまして、いよいよ正式オープンすることになったコンビニおもてなし7号店に、新たな店員さんが加わることになりました。

 先日商店街組合で面接を受けていた店員募集に応募してきていた人の中から、商店街組合が推薦してくれた人がお店にやってきたんですよ。

 で

 僕の前にやってきたのは2名。

「よろしくお願いいたしますぅ。一生懸命頑張りますのでぇ」
 そう言って深々と頭を下げてくれたのはラミア族の女性……お名前をラコネイルさんと言うそうです。
「よろしくっぴゃ! 頑張るっぴゃ!」
 そう言って、元気な笑顔で敬礼してくれたのは、ハーピー族の女の子……名前をパリピポナと言うそうです。

 ラコネイルさんの方は、人種族に年齢換算しますと僕とほぼ同い年くらいってのもありまして、割と落ち着いた感じで安心出来そうなのですが……もう一方のパリピポナはというと……なんか、かなり軽い印象を受けたものですから、少し不安を感じたのですが、
「私、パラナミオです、一緒に頑張りましょう!」
「ぴゃ! パラナミオちゃん、私と同じくらいの年齢ぴゃね、嬉しいぴゃ!」
 と、まぁ、パラナミオといきなり意気投合していましたので、案外うまくやっていけそうな気がしはじめている今日この頃だったりします。

 二人には早速明日から本店の魔王ビナスさんの元で新人研修を受けてもらうことにしています。

 本来、コンビニおもてなし7号店は、新人さんの目処がたってから正式開店する予定だったのですが、今のところそこまで人手が足りないといった状況ではない感じですので、先行して正式開店することにしました。

 そんなわけで、さぁ、明日からコンビニおもてなし7号店が正式に開店します。

しおり