ウリナコンベの7号店本番 その5
辺境都市ウリナコンベでの試験販売をはじめて1週間が経過しました。
2日目からは、辺境都市ララコンベにありますコンビニおもてなし4号店の元店長のクローコさんと、店員のブロンディさんも加わりまして、正社員4人と、助っ人として試食配布要員のルービアスとフク集落の子供達が頑張ってくれていました。
「とりあえず、今日で試験販売は終了したわけだけど……」
この1週間のことを思い出しながら、僕は腕組みをして首をひねっていました。
と、いうのもですね……
確かに、お客さんは来てくださいました。
ただ、そのお客さんの大半は、お昼のお弁当を買いに来る人がほとんどだったんです。
他の辺境都市にあるコンビニおもてなしの本支店や出張所であれば、夕方が近くなってくるとまたお客さんが増える傾向にあるのですが、どういうわけかここ7号店は夕方が近づくにつれてどんどんお客さんが減っていく傾向が顕著でした。
はてさて……これはまた一体どういうことなのでしょう……
まぁ、お店の中で悩んでいても仕方がありません。
試験販売の最終日の営業を終えた僕は、
「クローコさん、すまないけどお店の片付けを頼むね。僕はちょっと都市の様子を見てくるから」
「はいな!かしこまり~、みたいな!」
「店長様、このブロンディもおりますゆえ、クローコ嬢をしっかりとサポートして……」
「ギャー!? だから、いきなり人を抱きかかえるんじゃない! みたいな!」
「はっはっは、そう照れなくても!」
「照れてないし! マジ照れて無いし!」
……なんか、いきなりブロンディさんによるクローコさんへの求愛行動がはじまってしまった気がするのですが、ブロンディさんも適当なところで切り上げるのがわかっていますし、クローコさんも本気では怒っていない感じですので、とりあえずその件に関しては見なかったことにして、僕は改めて街中へと出かけていきました。
街道を進んでいくと……僕はすぐにある異変に気がつきました。
コンビニおもてなし7号店があるのは、ここ辺境都市ウリナコンベの中心地に近い場所です。
朝なんかは多くの人がこの街道を行き来しています。
ですが……
今は、ほとんど人が往来していないんです。
今までは、コンビニおもてなし7号店の営業が終了したら、店内の片付けをすませて転移ドアをくぐって辺境都市ガタコンベにある新巨木の家へと帰宅していたものですから、まさかお店の外がこんな状態になっているなんて思ってもみませんでした。
よく見ると、街道に面している他のお店はとっくに閉店している感じです。
「……これはまた、どういうことだ?」
僕は、思わずそう呟いたのですが……
「なんじゃ、あんたコンビニおもてなしの店長さんじゃないか。どうかしたのかの?」
不意に後ろから声をかけられた僕。
振り向くと、そこには小柄で、全身真っ黒な鎧に身を包んでいる男の人が立っていました。
その、特徴的な鎧姿を僕は覚えていました。
「あぁ、中央卸売市場のクロさんじゃないですか」
そうなんです。
この人、ここ辺境都市ウリナコンベの中央卸売市場の世話をしている鬼人のクロさんという方なんです。
商店街組合のエレエから紹介されて、一回挨拶を交わしたことがありまして、その後も試験販売を行っているコンビニおもてなし7号店にちょくちょく立ち寄ってくださっていたんです。
主に、スアビールを買っていってくださっていたはずです。
「クロさんは今お帰りですか?」
「あぁ、今日は仕事がちと長引いてな。まぁ、でも以前よりは早く帰れるようになったわい」
「クロさんは、どこにお住まいなんです?」
「ワシか? ワシは今はこの都市の役場の職員寮を借りておるんじゃが、本当は辺境都市リバティコンベに家があるんじゃよ」
「あぁ、そうなんですか」
まぁ、コンビニおもてなし7号店で働いている僕達だって、僕とパラナミオは辺境都市ガタコンベで暮らしていますし、クローコさんとブロンディさんは辺境都市ララコンベ、ルービアスとフク集落の子供達は辺境都市ナカンコンベとその周辺で暮らしていて、仕事時間が終了したらみんなそこに帰っていきますから……
……ん、まてよ……
ここで僕はあることに思い当たりました。
「クロさん……つかぬことをお伺いするのですが、ここ辺境都市ウリナコンベって、定住人口ってどんな感じなんですか?」
「ん?定住人口かの? あぁ、そりゃまだまだこれからじゃな。この都市には定期魔道船が就航しとるからなぁ、だいたいの奴はそれを使ってこの都市に通勤してきておるわい」
そのクロさんの言葉を聞いて、僕は自分の思い当たったことが正解だと確信しました。
いえね
ここ辺境都市ウリナコンベは、ちょっと前まではこの世界の闇世界を牛耳っている闇の嬌声って組織が実質支配していたわけです。
で、そいつらを追い出すことに成功して、今は復興している最中なわけです。
そのため、まだ定住人口が少なくて、この都市で働いている多くの人は定期魔道船を使って通勤してきているわけです。ですから、夕方以降は定期魔道船に乗って皆さんは自分が暮らしている都市へ帰宅してしまうため、街の人通りが少なくなるし、荷物にならないように何も買わずに帰ってしまう……と、まぁ、そんなとこでしょう。
「ありがとうございますクロさん。おかげさまで色々参考になりました」
「こんなことで役にたてるのなら、いつでも相談してくれい」
クロさんは、そう言うとガハハと笑われたのですが、
「だーりーん、お帰りでござるよ!」
そう言いながら、クロさんに駆け寄ってくる女性がいました。
よく見ると、額に一本角がある鬼人の女性のようです。
その女性は、クロさんに抱きつくと、僕が見ている前だというのに熱いキッスを交わしていきました。
「おいおいブルアよ、コンビニおもてなしの店長さんが見てる前じゃぞ」
「あら、拙者は気にしないでござるわよ」
僕の前で、仲睦まじくそんな会話を交わしている二人。
そのやり取りを拝見していると、あんまりお邪魔しちゃいけないなぁ、って気になってしまいまして……
「じゃあ、僕はこれで……」
そう言うと、僕は店に向かって歩いていきました。
しかし……あのブルアさんって女性……誰かに似ているような気がするんですよね……
胸をサラシで巻いただけで、羽織袴みたいな下履き……そうですね、胸をもう少し大きくして、髪の毛を黄色にしてパーマをかけたら……
「そうか……イエロに似ているのか……」
そうです。
コンビニおもてなしの狩猟部門で頑張ってくれているイエロに雰囲気が似ているんですよ、このブルアさんって。
「おや? 貴殿、妹のことをご存じでござるのか?」
僕の言葉が聞こえたのか、ブルアさんがそんな言葉を僕にかけてきたのですが……
「え? イエロが妹?」
「うむ、拙者の妹はイエロと申すでござりますよ。今は修行の旅に出ておりますけど……」
ブルアさんの言葉を聞いた僕は、思わず目を丸くしていました。