第24話 不安
中学3年の冬。
俺らの通う学校は、所謂中学受験を採用した中高一貫校である。
その為、俺も隼も受験を控えているわけではない。
むしろ部活動での期待をされている生徒であったため、この時期でも毎日のように部に参加していた。
日によっては少し早いが高等部の部活に混ぜてもらうことも増えた。
それだけ学校全体が俺らに期待しているということなのであるが、喜んではいられない。
言い様のないプレッシャーと覚悟が必要だった。
高等部の練習は、中学の練習に比べるとかなり辛い。
ほぼ全部員が中学時代に基礎を固めてきているとは言え、高校生になる節に訪れる体の変化などを考慮して、地獄の様な体力・筋肉トレーニングを行っている。
場合によっては、ほぼボールを触らずに15キロのランニングで練習が終わる日もあった。
高等部の練習後に隼と一緒になってクタクタになって帰る度に、自分たちはまだまだ高校のレベルでは通用しないということを痛感させられていたのだった。
しかし、最近隼が俺を避けているように見える時が多々あった。
高等部の部活動に参加できるのは俺と隼と瑠千亜、五郎、それにもう2人の計6人だけであるが、11月を過ぎた頃から、隼は一人で帰ってしまうことが増えた。
隼の家と学校は距離が近いため、基本的には徒歩で通学していた。
一方の俺は隼の家を超えた先にある駅から電車に乗って帰るのだが、これまでは駅に向かう途中にある隼の家まで俺が隼を送る形で一緒に帰っていた。
しかし、最近隼は自転車通学に切り替えてしまったため、隼は練習が終わり次第すぐに帰ってしまうのだった。
普段の学校生活でも、前ほど隼の方から俺に話しかけることは無くなった。
部活動においてはペアであるので流石に最低限のコミュニケーションは取るが、雑談等は全くしない。
そんな隼の様子に五郎や瑠千亜も気づいてはいるが、普段茶化すことはあれど、俺と隼の問題が本当に深刻そうな時は深く踏み込んで来ない。
そのため、俺も何故最近隼に避けられているのかが分からなかった。
また、隼の彼女である雨宮も、俺と同じく隼に素っ気なくされていると言っていた。
雨宮は俺が隼を好きだということも、俺と隼が体の関係を持っていたということも知らない。
雨宮にとって俺は純粋な隼の大親友かつ幼馴染であり、隼の事なら何でも知っている奴なのであろう。
だから俺に相談してきたのだが、相談された俺も雨宮と同じような扱いをされているので困った。
心当たりと言えば、最後に隼とそういうことをしたあの日……
9月の隼の誕生日の日、ビデオ通話で互いの自慰行為を見せ合ったのだが、隼は姉に見つかって大騒ぎになっていた。
あれをきっかけに俺との行為なども家族にバレ、俺と距離を置くように言われたのだろうか。
それか俺があの日、ビデオ通話を画面録画していたことが隼にバレたのか……
しかし、これらの理由であれば、雨宮まで冷たくされる理由が思いつかない。
俺と隼の関係が雨宮にバレ、雨宮の方から隼と距離を置くのは説明がつくが、今の状況はその逆である。
それに、もし隼の家族にバレているなら、もっと大問題になっているはずだ。
隼は誰とでも仲良くなれる奴だ。
誰かの悪口を言ったり意図的に避けたり嫌ったりすることは無い。
相手が隼の事をよく思っていなくても、隼は迷惑にならない程度にそいつに対して優しく接する。
だから、小学時代のイジメを除いては、これまで人間関係のトラブルなど聞いたこともない。
そのイジメも、元々はイジメられていた友達を助けたことで身代わりになったのだ。
そんな隼が、なぜ俺や雨宮を避けるのか……
雨宮に心当たりを聞いてもやはり何も分からないと言う。
喧嘩したことも無いようだし、気まずくなったこともこれまでは一度もないらしい。
これまで毎日していたLI○Nでのやり取りも、朝のおはようと夜のおつかれ&おやすみだけで、雑談を隼から持ちかけることはないみたいだ。
元々雨宮も俺らと同じテニス部に入っていて、女子の方も強豪であるため部活ばかりでデートする機会はほぼ無いのだが、たまの休みが合っても最近は会わないらしい。
何が原因なのだろう………
俺も雨宮も、隼に直接聞く勇気が出なかった。
親しいのだから聞けばいいのにと思われるだろうが、隼のようなめったに怒らないし人を避けない奴にいきなり冷たくされてみてほしい。
逆に怖くて聞けないのだ。
だけど聞けないからこそ、そして普段は怒らないからこそ、自分が何かしてしまったのではないかという不安に異常なまでに駆られてしまう。
そうなると、余計に気になって仕方がなくなるのだ。
俺は、この状況を続けたくなかった。
何か隼の気に触ることをしたなら謝りたい。
俺が何も聞いてこないことに隼は逆に不満を感じているかもしれない。
この状況を打破すべく、俺は勇気を出して隼と話し合うことにした。
