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155章 扇風機のような魔物

 魔物界は夜を迎える。

 魔物は一日中起きていられるのか、夜に姿を見せることが多い。ゆっくりと眠ることができる時間は、一秒たりとも訪れない。仕事を終えるまでは、起き続けることを要求される。疲れ知らずのスキルがなかったら、途中で放棄せざるを得なかった。

 身体の休養は取れなくとも、心の栄養を与えることはできる。自分の大好きなことを思い浮かべることで、心をリラックスさせた。

 心をリラックスさせたのち、高校時代の彼氏のことを考える。交際期間は短かったものの、幸せな時間を過ごすことができた。生まれ変わることができるのであれば、第二の人生を高校生で送りたいと思う。

 二つの手を重ね合わせると、デートの思い出が蘇ってくる。公園に行くとき、映画館に行くとき、喫茶店に行くときなどに、手を繋いでいた。恋愛に慣れていなかったこともあり、二人はガチコチになっていた。

 アカネは徐々に慣れてきたものの、彼氏はいつまでも固いままだった。異性と手を繋ぐことに対して、免疫が極端に低かった。

 過去の余韻に浸っていると、扇風機に似ているものが、あたりをうろついているのを発見。自力で動いていることから、魔物であると思われる。

 扇風機の直径は、2メートルほど。市販で販売されているものは、30~40センチくらいなので、かなり大きめのサイズといえる。

 扇風機は全体が黄金色をしている。黄金色の羽は見かけたことがあるものの、全体が黄金色なのは初めて見た。現実世界で作ったら、どれだけのコストがかかるのかな。

 扇風機の質感から、プラスチックではなく、金属で作られているように感じられた。魔物でなかったら、直に触ってみたい。

 扇風機ではあるものの、外側のカバーはついていなかった。そのこともあって、羽がむき出しの状態になっている。

 こちらを素通りしたことから、アカネに気づいていないらしい。絶好の好機を生かして、攻撃を仕掛けようかなと思った。

 物理攻撃を仕掛けたものの、扇風機に回避されてしまった。2メートルの大きさなので、どこかには命中させられると思っていた。かすりもしなかったのは、大きな誤算だった。

 扇風機の羽には、4つの目がついている。右上は非常に大きく、左下は非常に小さくなっていた。目のサイズがバラバラであることが、魔物感を醸し出している。

 扇風機がボタンを作動させると、本体と羽根の両方が回転する。空気がないところにおいては、全体が回る仕組みになるようだ。

 風が起きていないものの、音ははっきりと聞こえてきた。扇風機というよりは、ブルドーザーさながらである。

 扇風機は内部の羽を飛ばしてくる。自身の中身を飛ばす攻撃というのは、とっても斬新に感じられた。

 アカネは回避したのち、羽のない本体に炎魔法を仕掛ける。高熱を浴びせることによって、ドロドロに溶かすのが目的である。

 本体には目がついていないのか、一ミリも動くことはなかった。スイッチが切れたかのように、硬直していた。

 炎魔法が直撃したものの、金属は溶けていなかった。扇風機は耐熱性に優れる、素材で作られているのかな。

 金属の耐熱性は、まちまちとなっている。ラドンは-71℃で溶けるのに対し、タングステンは3422度で溶け始める。同じ金属なのに、上下で3500℃の振れ幅がある。

 扇風機に使われている金属は、現実世界にあるものとは限らない。10000℃、20000℃の耐熱性があっても、不思議はない。

 もう一度だけ、炎の魔法を唱えてみる。これで効果がなかったら、氷、雷、風、光、闇などに切り替えたほうがよさそうだ。

 二度目の炎魔法がクリーンヒットしたものの、魔物はダメージを受けていなかった。熱耐性については、かなりのレベルに達している。

 扇風機の羽が、突進攻撃を仕掛けてくる。素早くかわしたのち、羽に突風の魔法を仕掛ける。直撃させることで、羽をバラバラにさせるのが狙いだった。

 羽は突風の攻撃を受けるも、ノーダメージだった。風を起こす道具ということもあり、突風系の技には強いようだ。


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