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「これはこれは、元気な可愛らしい坊やだ。きみの名前はなんと言う名前だい?」
茶色い髪と髭をはやしたグリーンの瞳をした老いた男性は、ピノにそう言って優しく話しかけた。
「ぼ、ぼく……? ぼくはピノ。ピノだよ?」
「ピノ…――。そうか、きみが……」
優雅な物腰の男性はポツリと呟くと、ピノの顔に触れて髪に触れた。
「ふむ、見事な顔だ。美しいその顔はまるで、可愛らしい天使のようだ。じつにきみは興味深い……」
「おじさんは誰? なんでボクのこと知ってるの?」
ピノはそうこたえると、あどけない顔でキョトンとした表情で首をかしげた。
「フフフ……。さあ、何故かな?」
「ねぇ、おじさんは良い人なの?」
ローゼフはピノを見つけると、駆けつけながら大きな声を出して呼んだ。
「ピノーーっ!!」
「あ、ローゼフ……!」
彼が慌てて声をかけると、ピノはその男性のそばを離れてローゼフに飛びついて抱きついた。
「ああ、ピノ……! 私を心配させるな……!」
「ご、ごめんなさいローゼフ……!」
2人は親子のような会話をすると、人目も気にせずに熱い抱擁をかわした。
「これはこれは、シュタイン家の若き伯爵ではないか……! よく遠くから来てくれたローゼフ君、きみを大いに歓迎するよ!」
「うれしきお言葉ありがとうございます。オーランド公爵――」
彼はそう話すと深々と礼儀正しくお辞儀をした。
「最後にきみに会ったのは、ご両親が亡くなられたあとの聖ニコラス教会での葬式の時以来だったかな?」
オーランドがそう話すとローゼフは頷いて返事をした。
「ええ、そうですねオーランド公爵。貴方は私の父と交流が深かった。あの時ですが葬儀の時、遠いところから出向いて下さったことを父にかわって深くお礼を申し上げます」
ローゼフはそう話すと、彼のはめてる右手の指輪にキスをした。
「素晴らしい振る舞いだローゼフ君。きみはもう、立派な紳士の仲間入りだ。亡くなられたマリアンヌ婦人も、きみの成長を天国から見守って喜んでいるはずだ。あんなに小さかったのに今ではこんなに美しくなって、本当に見違えるようだ――」
オーランド公爵は彼にそう話すとピノのことを不意に尋ねた。
「――ところローゼフ君、この小さな子供は?」
「ああ、この子はピノと言います。わけあって私が今引き取っています。この子には両親がなく、身寄りがないのです」
「ほう、そうか……。それは可愛そうにピノ君、さぞかし辛いだろ?」
オーランドは屈んでそう話すとピノの頭を優しく撫でた。
「そ、そんなことないよ……! ボクには大好きなローゼフがいるもん…――!」
ピノはそう話すと、ローゼフの服の袖を掴んで後ろに直ぐに隠れた。
「そうかそうか、それなら結構だ。どうやらピノ君は、きみを凄く慕っているようだ。実にうらやましいよ…――。私には家族がいないから、さそがし毎日が楽しいだろうな」
「ねえ、おじさん!」
「コラ! おじさんではなくオーランド公爵と呼びなさい!」
ローゼフが軽く叱りつけるとピノは反省した。
「構わんよローゼフ君。年頃の子供には、私はそう見えるかも知れないな」
オーランドはそう話すと、近くの椅子に腰を下ろして座った。ピノはローゼフの側を離れると、オーランドの前に立って聞いてみた。
「ねえ、オーランドさんには子供はいないの?」
「およしなさいピノ……!」
「だ、だって……」
ローゼフがとっさに叱りつけるとピノは再び怒られて悄気た。オーランドはそこで小さく笑うと質問に快くこたえた。
「ああ、居るとも。きみも見ただろ――?」
「え……?」
「この屋敷に飾られている人形は全て、私の大切な子供だ」
「そうだったんだ! この屋敷に飾られているお人形さん達、みんな幸せな顔しているからおじさんに愛されているんだね!?」
ピノはそう話すと無邪気に微笑んだのだった。