143章 ココアのトラウマ
ココアは言葉を荒げたことに対して、深々と頭を下げる。
「ごめんなさい、品のない言葉を使ってしまいました」
「気にしなくてもいいよ」
○○を○○させる、首を占めるという指示を書くのは、まぎれもなく糞女である。一人の人間として、常識が欠如している。
ココアはトラウマが蘇ったのか、顔色が蒼ざめることとなった。
「すみません、少しだけ休ませてください」
「うん。ベッドでいいかな?」
おもてなしのために、別の布団を用意する必要がありそうだ。ココアがやってくるまでに、あたらしいものを新調したい。
「はい、ありがとうございます」
ゆっくりとした足取りで、ベッドに向かっていく。シオリはその様子を、心配そうに見守っていた。
悪い記憶をフラッシュバックさせないためにも、すごろくをやらないほうがいいのではないか。メンタルに大きな負荷をかけるのは、得策とはいいがたい。
ココアがベッドに向かうとき、シオリ、ミナ、ユメカの3人がついていく。後ろから見ていると、母親らしさを感じさせた。子供を育てていることで、自然と身についたのかもしれない。
ココアは横になると、眠りにつくこととなった。メンタルだけでなく、身体も疲れているのが伝わってきた。
シオリは彼女の様子を確かめたのち、胸をそっとなでおろしていた。
「少し休んだら、回復しそうですね」
楽観的な評価だったので、アカネもおおいに安心した。回復しなかったら、どうしようかなと
思っていた。
ミナは眠っている女性に、温かい声をかけていた。
「ココア、ゆっくりと休んでね」
シオリが眠っている、女性の手を取った。一人の母親としての、優しさが詰め込まれているよ
うに感じられた。
「○○を○○させる、首を絞められるという指示を引いたのは、ココアなんです」
一人で衝撃的なくじを2回も引く。心が幼かった女性は、おおいに苦しんだに違いない。
「ココアは傷が深かったのか、身体がさらに細くなりました。死んでしまうのではないかと、心配する日々が続きました」
バナナ生活で身体が弱っているところに、さらなる追い打ちがかけられる。身体は限界を突破しても、おかしくない。
「友達に裏切られたことで、人間不信になってしました。ニコニコしていた女性は、まったく笑
わない時期もありました。手を尽くそうとしたものの、一ミリも効果がありませんでした」
悩みが大きすぎた場合、人間を助けるのは難しくなる。そうなる前に、手を差し伸べていかなければならない。
「回復の傾向はみられたものの、一進一退の状況が続いていました。予断を許さない状態だったので、不安になることも多かったです」
自分の食事すらままならなかったのに、他人のことを考えることができる。シオリという女性は、人間として一流の域に達している。アカネが同じ立場だったなら、自分がどのように生きる
のかだけを考える。
「ココアの心を救ったのは、アカネさんです。くじ引き大会以降、別人のようにイキイキとするようになりました。元気になる魔法を使ったみたいです」
元気になる魔法を使えると思っている女性に、自身の魔法の能力を伝えることにした。
「私の魔法は、メンタルはよくできないんだ」
「そうなんですか」
「うん。身体の病気は治療できるけど、心については無力なんだ」
「アカネさんと会えたことが、ココアの心の治療だったのかもしれませんね」
眠り続けるのかなと思っていると、ココアは目を覚ますこととなった。
「ココアさん、身体と心はだいじょうぶ?」
「はい。アカネさんの温もりを感じたら、すぐに元気になりました」
「無理はしないでね・・・・・・」
「はい。心配していただき、ありがとうございます」
ココアは深呼吸を繰り返す。スーハー、スーハーというリズムが、彼女の気分のアップダウンを、表しているように感じられた。