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142章 過激すぎたすごろく

 ココアが声高らかに宣言する。

「すごろく大会を始めます」

 ミナ、シオリ、ユメカは盛大な拍手を送っていた。すごろくを楽しみにしていたのが、はっきりと伝わってくる。その姿を見ているだけで、こちらも幸せな気分になれる。

 シオリがすごろくについて、簡単な説明をする。

「すごろくはサイコロを振って、出た目の数だけ進んでいきます。早くゴールした人が、優勝となります」

 現実世界と同じことに、安心感をおぼえる。すごろくと名のついた、別のゲームならどうしようかなと思っていた。

「すごろくでは、ボード、サイコロを使用します」

 使用される道具についても、現実世界と同じである。「セカンドライフの街」のすごろくは、
現実世界から輸入されたのかもしれない。

 ミナがサイコロを取り出す。正方形ではなく、角ばった形をしていた。

「サイコロの目は、いくつになっているの?」

 アカネの質問に、シオリが答える。

「サイコロの目は、1~12となっています」

 6面ダイス、10面ダイス、99面ダイスなどはあったものの、12面ダイスについては知らなかった。そのこともあって、特殊な形に感じられた。

 すごろくをするためには、ボードが必要となる。それにもかかわらず、ボードは見当たらなかった。

「ボードはどこにあるの?」

 アカネの質問に、シオリが答えた。

「ボードについては、これから作っていきます。ゲームをプレイするだけでなく、マスを自分た
ちで考えるのも、すごろくの醍醐味です」

 自分たちでマスを考えることで、すごろくにオリジナルティーが生まれる。愛着も感じられるので、一石二鳥である。

 ユメカが笑顔で、 

「皆さんでマスを作っていきましょう」

 といった。

 アカネ、ココア、ミナ、シオリ、ユメカの5人でアイデアを出し合う。一緒にやっていることで、チームワークが生まれていた。

 シオリが「?」マークを、マスに書き込んだ。 

「?マスはどういう意味なの?」

「?マスに止まった場合、くじ引きをすることになります。くじ引きの内容については、5人で決めることになります」

 ココアから、10枚の紙を渡された。

「1人当たり、10枚を書くことになっています。アカネさんも記入してください」

「書いてはいけないものはあるの?」

「相手に不快感を与えるもの、身体の接触を伴うもの、身体に強い負荷のかかるものはNGとなっています」

 これで終わりかなと思っていると、シオリが後ろに付け足した。

「犯罪になるような行為も、NGとなっています」

 犯罪という部分が、かなり強調されていた。ココアたちのすごろくにおいて、犯罪行為が書か
れていたのかもしれない。

「最初はルールを決めていなかったから、とんでもないものがあったよね」

 ココアが同調する。

「うん。いろいろとひどかった」

 過去のことがよみがえったのか、シオリは苦い顔をしていた。

「好きな男性の名前をいったときは、とっても恥ずかしかったよ」

 人前で好きな人をいうのは、精神的にかなりのダメージがある。できることなら、心の内に秘めておきたい。

 これ以上のものはないかなと思っていると、

「これについては序の口です。他にもひどいものが、たくさんありました」

 とココアがいった。すごろくには、これ以上の内容が書かれていたようだ。

「どうして、そんな過激な指示があったの?」

 ミナが答えようとしたものの、言葉を発することができなかった。それを察したのか、シオリ
が変わりに答えた。

「コハルという女性がいたんですけど、過激なことが大好きだったんです。そのこともあって、とんでもないものを書いていました」

 暴力シーン、流血シーンに興奮する、人間は一定数いる。彼らはいたぶることに対して、快感を得る生き物といえる。

「現実と架空の区別が、ついていなかったよね」

 ココアがそのようにいうと、ミナは首を縦に振った。

「そういう感じはしたね」

 話せるようになったことに対し、アカネは胸をそっとなでおろす。

 ココアは胸に手を当てる。 

「○○を○○されるという紙を引いたとき、心の中が崩れ落ちる音がしたよ」

 特別な人以外には、絶対にされたくないことである。故意はもちろんのこと、故意でなかった
としても、憂鬱な気分になる。

「ココア、ごめんね。指示を守らないほうがよかったね」

 シオリもつらそうにしていた。女性ということもあって、○○を○○される苦しみを理解してい
る。

「シオリは悪くないよ。悪いのは、これを書いたクズ女だよ」

 ココアの口から、クズ女という言葉が飛び出すとは。温厚そうな女性だっただけに、意外な一
面を見たような気がする。 

 クズ女という言葉を、誰も咎める者もいなかった。シオリ、ミナ、ユメカは口にしないものの、同じように思っているようだ。

 ミナの眉間に皺が寄った。彼女にとっても、絶対に許せないことがあったようだ。

「最低の内容を見たとき、ふざけんなと思った」

 ユメカが首を縦に振った。

「あれは本当にあり得ないよね」

 シオリも続いた。

「うん。人間としての常識を疑った」

 温厚そうな女性たちが、人のことを悪く言うなんて。コハルという女性は、最低最悪の女性のようだ。

「一番ひどい指示は何だったの?」

 ココアが口にした内容は、アカネの予想の斜め上をいっていた。これを書く人間がいるとは、思わなかったし、思いたくもなかった。

「紐で首をしめるというものだったかな。あれを見たときに、交友関係を続けるのは不可能だと
思いました」

 身体を弄ぶだけでなく、命を弄んでいる。人間として必要なものが、欠如している。

「さすがに我慢できなくなって、すぐに通報することにしました。コハルはすぐさま、強制労働となりました」

 強制労働になった人間は、生還する確率は0である。復讐される心配がないため、通報しやすくなっている。

「コハルについては、あの世に逝ったみたいだね。過酷な労働に耐えられなくなって、過労死したと耳にしたよ」

 人間が死んだにもかかわらず、悲しいという感情が芽生えなかった。本来はあってはいけないのだろうけど、天罰であると思ってしまった。

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