144章 雑談
ココアに元気を取り戻してもらえるよう、アカネはお金を渡そうかなと思った。
「お金では元気になれないかもしれないけど、これでいいものを食べてね」
差し出されたお金に対して、ココアは戸惑いを感じている。
「アカネさん、いいんですか・・・・・・」
「これくらいならどうってことないよ」
「大金を手にすると、人生が狂ってしまいます。私はいらないです」
いらないというのであれば、無理強いをすることはない。アカネは渡す予定だったお金を、元の位置に戻すことにした。ミナ、ユメカはその様子を見て、とっても残念そうにしていた。口にはしないものの、お金を欲しいのが伝わってきた。
「アカネさん、これからも一緒に過ごしてください、おいしいものをたくさん食べさせてくださ
い」
「うん。わかった」
「ありがとうございます。余裕ができたときには、家を尋ねさせていただきます」
笑顔を見せている女性に、今後の予定を告げる。
「1週間後に、魔物退治に行くんだ。長期にわたると思うから、その間は相手できないよ」
「どれくらいの期間になるんですか?」
「詳しくはわからないけど、1年以上になるみたいだよ」
1年で終わればいい方で、2年、3年かかっても、不思議は全くない。その間については、家を留守にすることになる。
魔物はいつ襲ってくるのかわからないため、一睡もできないと思われる。1年間で終わるとすれば、24時間*365日=8760時間は、起き続けることになる。これだけの時間を起きていられる
のは、○○というアニメの○○くらいだ。ほとんど眠らないといわれる○○の○○ですら、1年に10時
間くらいは睡眠をとる。
仕事の報酬は1000兆ゴールド程度といっていた。これだけの金額をもらうことができれば、悠々自適な生活を送ることができる。1000年から2000年は仕事をする必要がない。
「魔物退治はどんな仕事なんですか?」
「詳しいことはわからないけど、悪さをしている魔物をやっつけるみたい」
1年に1度くらいの割合で、「アリアリトウ」の住民を襲いにやってくるといっていた。時期は
不定期となっており、安定した生活の妨げとなっている。
「私にできることはありますか?」
アシスタントを名乗り出た女性に、アカネはストップをかける。
「それについては難しいかな。魔物がいるところは、空気がないんだ」
魔物の敵ではない、足手まといになるという、傷つきそうな表現は避ける。役立たずという言葉は、人に大きなダメージを与える。
空気がないというのは、効果てきめんだったのか、ココアは同行を諦めた。
「空気のないところでは、私は生きられません。今回は無理そうですね」
ココアを除く3人は、瞳をきょとんとさせていた。空気を吸わなくてもいいという、スキルが信じられないようだ。
「空気がなければ、呼吸できません。生物が生活することは不可能ですよ」
ユメカに対して、アカネは自分のスキルを説明する。
「空気いらずのスキルがあるから、空気のないところでも生きられるんだ」
原理はわからないものの、空気が必要ないことは確かだ。空気の存在しない裏世界にいたこと
で、証明されている。
「一酸化炭素中毒、毒ガスで命を落とすこともないよ。有害になりうる物質は、すべてシャットアウトできる」
人間を死に至らしめる、毒ガスを無効にできる。この能力を使用したことで、ダンジョンをクリアすることができた。スキルがなければ、あの世に旅立っていた確率が高い。
「体内に血がなくても、生きられるスキルもあるみたい。出血多量で死ぬこともないよ」
攻撃を無効化スキルがあるので、これについてはおまけに近い。輸血などで全部の血を抜かな
い限り、発動させることはない。
「人間とは思えない身体をしていますね」
シオリが右腕に触れてきた。
「触った感触は、私と変わらないです」
見た目は普通、中身は超人なのが、アカネという女性である。
「私も奇跡的な身体が欲しいです」
ユメカの夢は叶わない。狂人的な身体になれるのは、レベル90以上の人間に限られる。89以下
であった場合は、通常の人間として生活する。
「超能力を持ったことで、大金持ちになれたけど、辛いこともたくさん経験したよ」
生物の探索、裏世界の調査、地雷処理は常軌を逸脱している。通常の人間がすれば、瞬く間に
あの世逝きとなる。
「身体はなんともなくとも、メンタルはきついよ」
メンタルを回復させるために、長期的な休暇が必要となる。その間は何もできず、ただ眠っているだけという生活を送る。
休暇を取ったからといって、完全に回復するわけではない。心で負ったダメージは、確実に残されている。
「裏世界の探索をしたときは、無差別攻撃を受けたからね。身体はなんともなくとも、心には深いダメージを受けたよ」
本気で殺そうとしている、相手を目の当たりにして、大いなる恐怖心が芽生えたものだ。あの恐怖というのは、現実世界にいるときは味わったことがなかった。
滞在期間がわずかにもかかわらず、メンタルのダメージは、現実世界の27年を既に超えている。このままのペースだと、1年で200年分くらいのストレスを、受けることになりそうだ。
「アカネはメンタルがタフですね。私が同じ立場なら、精神崩壊しそうです」
仕事をするときは、何も考えないようにする。そのことによって、メンタルの負担を軽減するようにつとめるしかない。
「話が完全に脱線しましたね」
と、シオリがいった。この一言で、本来の目的を思い出す。暗い話をするためではなく、すごろくをするために集まっている。