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「ボク、ローゼフの役にたてたかな?」
「ああ、もちろんだ。ピノは私の自慢の愛玩ドールだ!」
「ほ、本当に……!? 嬉しい……! 大好きローゼフ!」
ピノは無邪気に彼に抱きつくと、とても幸せそうな顔を見せた。そしてローゼフも幸せな気持ちになるとピノを自分の腕の中にぎゅっと抱き締めたのだった――。
――そして翌日、ローゼフはピノを連れて母親の部屋に訪れた。久しぶりに入る部屋は、そこだけ時間が止まってるように生前のままだった。2人は壁に掛けられている大きな肖像画を見上げるとローゼフはピノと繋いだ手を握って話始めた。
「私の母上はマリアンヌと言って、とても綺麗で美しい女性だった。そして清らかで優しくて、愛に溢れた暖かい女性だった。母は私を愛してくれた。父以上に私のことを大事に育ててくれた…――」
「ローゼフ……?」
「でも、父は私を心から愛してはいなかった。たまに愛してくれる時もあったが、それは小さな思い出の一つにしか過ぎない……。私が10歳の頃、2人は事故で亡くなった。幼かった私は2人を亡くしたあと、深い悲しみに暮れながら毎日を過ごした。そして、時おりこの部屋に訪れたりもした。きっと死んだ母上が戻ってくるんじゃないかと、そんなおとぎ話でさえ心の中に描いていたんだ――。でも、いくら待っても母上は戻っては来なかった。私は両親を恋しがり、もう一度2人に会いたいと思ったばかりに、世界中から霊的な物を集めた。しかしどれもまやかし物ばかりで、亡くなった父と母に会えることはなかった。それが嘘でも、私は心のどこかでそれを信じていたかったのかも知れない…――」
「ローゼフ…――」
ピノはローゼフの悲しい過去を聞かされると、切ない表情で彼の手をぎゅっと握り返した。
「――でも、そんな時にお前と出会った。お前と出会って私の心は随分と癒された。きっと母上が私にピノを引きあわせてくれたのかも知れない。私はもう孤独ではない、お前がいるから……」
ローゼフは初めて自分の思いを誰かに打ち明けると、ピノの顔をジッと見つめた。
「うん、ボクがローゼフの寂しい心を埋めてあげる! ボクにもわかるよ、ローゼフの寂しい気持ち。ボクもずっとひとりぼっちで寂しかったからわかるんだ…――!」
「ピノ、お前は本当に優しいな……」
ローゼフはそう話すと、不意に優しげに微笑んだ。
「この髪飾りを母上の宝石箱に納めよう。きっと、母上の魂も安心するかも知れない…――」
「そうだね、ローゼフ!」
彼は化粧台の上に置いてあるアクセサリーが納められてるガラスケースを開いた。そしてそこに髪飾りを納めた。
「よかったね、ローゼフ。これでお母さんも安心する……あれ? ローゼフ顔から涙が出てるよ?」
ピノはそう言って彼の顔を覗くと、ローゼフは瞳から涙を流していた。
「おかしいな……。私としたことが不意に涙を流すとは、不思議なことに母上を今そばで感じた。そして、私にありがとうと聞こえたような気がした」
「ローゼフ、きっとそれは気のせいじゃないかも知れないよ。ボクにも感じたよ?」
「そうか、ならそれでいい…――」
彼はそう言って返事をすると、宝石が入っているガラスケースの箱を静かに閉じたのだった。