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外に放り出されたピノは、行くあてもないまま屋敷から追い出された。そして、ローゼフは自分の部屋に戻ると、そのまま中に閉じ籠って塞ぎ込んだ。外が夜に変わると、曇った空から雨がパラパラと降りだしてきた。ピノはベソベソ泣きながら夜道を小さな足でとぼとぼ歩いた。夜道は薄暗く、子供にとっては危険だった。そして、冷たい雨が強く降り始めると、まわりは雨の雑音でかき消された。ピノは近くにあった森の大きな木の下で雨宿りをすると、膝を抱えてしょぼくれた。
「ローゼフ……ローゼフ……ひっく……ひっく……っう……ローゼフに嫌われちゃったボク……。帰りたいよ、うっうっ……ひっく……」
ピノは辛い現実に涙を流すと、彼がいる屋敷に帰りたいと心から願った。大好きなローゼフに抱き締めてもらいたい――。ピノは幼いながらも、自分に冷たくした彼を恋しがったのだった。 ピノにとって彼は特別な存在だった。自分を誕生させてくれたローゼフは、ピノにとっては父親のような存在でもあった。冷たい雨に体が濡れると、ピノは寒さに凍えながら体を小さく丸めて眠りについた。
――雨が一層強くなる頃、屋敷の外は雨が降りしきっていた。パーカスが部屋のドアをノックすると、ローゼフはベッドの上で塞ぎ込んだまま言い放った。
「今は誰にも会いたくない! ほっといてくれ!」
「では、ローゼフ様。年寄りの独り言だと思って聞いて下さい。ピノはあの髪飾りを盗ったのではなく、みつけて貴方様に渡そうとしたのです。その髪飾りは貴方様が幼い頃、マリアンヌ様に贈った物です。貴方様が亡くなられた母上をお慕いしていたのは私も存じておりました。マリアンヌ様も貴方様に贈られた髪飾りをとても大事にしていました。貴方様がピノにお怒りなのはわかります。それは貴方様にとっても大事な物ですから……。それを他人に触られたことが貴方様にとって、どんなに不愉快なことかはわかります。貴方様のお怒りの原因はそれですね?」
パーカスは不意にそのことを口にすると、ローゼフはカッとなって言い返した。
「黙れパーカス、黙れ!」
「いいえ、黙りません。貴方様がこのドアを開けて下さるまでは――」
彼は退かない態度を態度を示すと、そこで話を続けた。ローゼフはあきれると、部屋のドアを仕方なく開けた。
「本当にあきれた執事だ……。お前のその強情さには見上げたぞ」
そう話すと少しあきれて笑った。
「フン、そこにでも座っていろ……!」
ローゼフはパーカスを自分の部屋にいれると、彼は何も言わずに窓辺に凭れて外の景色を眺めていた。パーカスは椅子に座ると話を続けた。
「さっきも申し上げましたが、その髪飾りは本当に無くされた物です。マリアンヌ様はそのことを貴方様には言わないで欲しいと言ったのを私は覚えています。そのことを話したら貴方様が悲しむと思い、マリアンヌ様はそのことを黙っていました。そして、どこかに消えた髪飾りをメイドと一緒にマリアンヌ様ご自身も懸命に探しておられたのも知っています。ですがいくら探してもその髪飾りは見つからず、マリアンヌ様は酷く悲しんでおられました。私はさっき貴方様がピノから髪飾りを取り上げた時、そのことをふと思い出したのです…――」
ローゼフはパーカスのその話に驚くと、表情が一瞬曇った。そしてため息をついた。
「パーカスそうだったのか……。母上がこの髪飾りを無くしていたとは知らなかった――」
そう言って話すと、パーカスの前で少し反省した様子を見せた。