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「ピノ、あの部屋とはローゼフ様の母上の部屋ですかな?」

「たぶん……。部屋の壁に大きな肖像画が飾られているんだ。その人すごく綺麗で、まるで雰囲気がローゼフみたいなんだ」

「ええ、知っていますとも……。マリアンヌ様はとてもお美しく、賢明で慈愛に満ちた優しい方でした。そして、ローゼフ様を心から愛しておられました」

「そうなんだパーカス。あの人がローゼフのお母さんなんだ……」

 ピノはあの肖像画の女性がローゼフの母親だとしると、様々な想いが胸の中に広がった。

「所でピノ、あの髪飾りをどこで拾ったのだ?」

「うんとね……。さっき部屋の鏡の前にいたらね、あの人が鏡の中に映ったの。それで髪飾りをボクに探して欲しいって言ってきたの。凄く大事な物だって言ってた……。だからあの人に言われるまま、髪飾りを探したんだ。そしたらね、タンスの下の奥に落ちてたのを見つけたの。ボク髪飾りを見つけて鏡の中の人に話したんだ。そしたらね、それをローゼフに渡して欲しいって……。だからボク、見つけた髪飾りをローゼフに見せたの…――」

 ピノは悲しそうにそう話すと、瞳から大きな涙を溢した。パーカスはその話しを聞くと大きな衝撃を受けて動揺した。

「し、信じられん……! マリアンヌ様の魂が鏡の中に映ったとは……!? ひょっとしたらこの子には、マリアンヌ様の魂が見えたに違いない……!」

 パーカスは思わずひとり言を呟くと、深く考えたのだった。2人が話しているとローゼフが戻ってきた。そしてピノが入っていた青い鞄を床に投げると冷たく言い放った。

「なんだまだいたのか盗っ人が! お前の顔など見たくもない! さあ、この屋敷から直ぐに立ち去るがいい!」

 ローゼフがそう言って冷たく言い放なつと、ピノは急に泣き出した。

「やだやだ! ローゼフ捨てないで! ボク良い子にするから捨てないでぇ!」

「うるさい! お前の顔など、私は見たくもないと言っているんだ! 人形の分際でなんて愚かなヤツなんだ! さあ、この鞄をもって今すぐ家から出て行け!」

「ローゼフ様おやめ下さい、どうかピノの話しを聞いてやって下さい……!」

「使用人の分際で私に意見をするな! お前もここから追い出すぞ!?」

「ロ、ローゼフ様……!」

 パーカスは彼の怒り狂う様子に困惑すると、戸惑いを見せて口を接ぐんだ。ピノは悲しくて泣くと、ローゼフの足にしがみついた。

「やだ捨てないで! ローゼフの傍にいさせて! ボクにはローゼフしかいないの……! ローゼフがいないと死んじゃうよぉ!」

 ピノは泣きながら彼の足下にしがみつくと、瞳から大粒の涙を流したのだった。だが、ローゼフはピノの言葉すらはねつけると冷たい眼差しで言い返した。

「死ぬ? 人形が死ぬだと? 何をバカなことを、最初から魂なんかなかった癖に人間気取りか?」

「ローゼフ……っひ……く……!」

「もういい、このまま出て行くがいい――!」

 ローゼフはそう言うとピノの右腕を無理矢理掴んだ。そして、屋敷の出入口へと向かった。彼は怒り任せに屋敷の玄関のドアを片手でバンと開けると、雨が降りそうな表にピノを乱暴に放り出した。

「二度とシュタイン家に来るな、お前はあの商人のところに帰るがいい……!」

「ローゼフっ!!」

 ピノは乱暴に表に放り出されると、必死でドアを叩いて彼に許しを乞いた。

「お願い、中に入れてよ……! ボクを捨てないでローゼフ……! お願い捨てないで……! もっと良い子にするからお願い……!」

 表でドアを叩いて許しを乞うピノを、彼は決して許さず、頑なに拒み。ドアの前で沈黙し続けた。

「っ……! ひっ……! ひっく……! ううっ……! わあぁあああああーーん!!」

 ピノは悲しくて耐えきれなくなると、大きな声を出して泣き出した。そして、胸がちぎれる想いで泣き続けた。泣いて泣いて泣きじゃくった。それでも彼はピノを許さずに外にそのまま放り出すと、無情にも扉に鍵をかけてその場から立ち去ったのだった。

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