お祭りと納品
裏横丁では夏ごろになるとフェスティバルで人集めをする。深雪や雲龍入道の雑貨店も参加していて、お客が台紙を持ってきたらスタンプを押す。
「みゆみゆ~」
玄助がきて、集めたスタンプのシートをどや顔で見せてくる。集まると10銭の商品券が渡されるけれど、スタンプの数が多くてきっと集まらない。
「みゆみゆも手伝ってよ。その前にイベントがあるから行かない?」
商店街のイベントで奇術師の興行がある。玄助に袖を引かれて、客もまばらなその場所についた。
奇術師は箱と土を持ち出す。
「ここに横丁の土があります。半分くらいに分けて、片方を大きな箱に入れます!」
箱に入れた土は差が分かるほど少ない。
「……さてそこの
玄助は少年ではなくて大人なんだと言いたいみたい。大人ならきっと指名されないから、言わないほうがいい。
「箱に入れてないほう、かな」
「残念でしたー」
箱を逆さまにひっくり返すと、箱の半分より多いんじゃないかという土があふれ出す。
「ちぇ。箱に初めから土が入ってるんじゃないか」
「フェスティバルよ。難しい顔をしないの」
次の客も同じ問題を解く。もう出切ったと思われた箱から同じような量の土が出る。
「あの人腕いいね」
テーブルに土を入れる仕掛けがありそうに思えた。
興行を見たあとは出店を回る。
「あの飴細工、どこを切っても金太郎ね」
玄助の手元にはいつの間にか
「玄はいつの間に買ってきたの?」
「奇術師の隣で売ってたから。食べてよ、ひとりじゃ多いからさ」
彼なりの好意の表現に、深雪は気持ちよく微笑んだ。いつぶりの笑顔だったのだろう。
猪笹王の注文は予定よりかなり遅くなってしまった。馬毛の歯ブラシはなかなか作らないらしく、入ってきたのは3週間も後のことだ。
「おおきに。やっと入ったですさかい」
懐かしい商人言葉が聞こえてくる。深雪は微熱を出して大石内科に行ったりしたが、無事に納品できる状況になっている。
「深雪さん、俺を猪笹王に会わせてくれないか?」
すっかり雑貨店の常連になった塔季が、猪笹王に興味があるらしく、付いてきたいと言う。
「紳士ですが恐ろしい悪鬼です。人間の方は関わりにならないのがよいかと思います」
深雪は説得する。どうしても来たいという。彼は妖怪商人なので、妖怪の知り合い……白蝋王のような怖い人ではない強い人が欲しいのだろう。
「わかりました。お守りできます」
納品の間の店番を玄助にお願いする。彼はアルバイトの仕事がなくなったばかりで喜んでいた。
「妖狐でもクビね……たいへんな世の中になったものだ」
種族は関係ないけれど塔季の言葉に