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コンビニおもてなしのNEW その1

「パパ! 似合ってますか!」
 凄い勢いで僕の部屋に駆け込んで来たのは、パラナミオでした。

 その体には、コンビニおもてなしの制服を着ています。
 
 今までも、休日に開催されるイベントの時なんかにコンビニおもてなしの制服を着てお手伝いをしてくれていたこともあったパラナミオなのですが、今パラナミオが身につけている制服は決定的に違う部分があります。

 今までの制服は、臨時バイトさんを雇用したときに着てもらう用の、いわば予備の制服だったんです。
 
 コンビニおもてなしが開店してまだ間がなかった頃、あまりにも人手不足だったもんですから商店街組合の蟻人さん達に助っ人に来てもらった時なんかに使用したことがあります。

 で

 今、パラナミオが身につけているのは、パラナミオの体を採寸して作成した、いわばパラナミオ専用の制服なわけなんです。
 
 以前のコンビニおもてなしの制服は、在庫として倉庫に残っていた物を使用していました。
 サイズ的には、

 S M L XL

 以上の4種類。
 制服は上着だけで、下は自前なのがコンビニおもてなし流です。

 ただ、こちらの世界で営業を始めてからは、ちょっと困っていたんですよね。
 と、いいますのも

 Sサイズを身につけてもダボダボなほど小柄な、本店の魔王ビナスさん、とか

 体のサイズ的にはMなんだけど、胸のサイズ的にXLを着ないといけなくなってしまうセーテン、とか

 背中に羽がある4号店のツメバ、とか

 サイズが色んな意味で規格外な亜人種族などの方々を多数雇用させていただいているもんですから、僕が元いた世界基準で準備していた既製品の制服では、ちょっとどうにも出来そうにない感じになっちゃってたわけです、はい。

 そんな中……

 その問題を解決してくれたのは、他ならぬテトテ集落のみなさんでした。

 雲の上に頭を出している超高い山の山頂にあるルシクコンベから仕入れている上質な布を使って、テトテ集落の女性陣達が衣類の生成をしてくださっているのですが、ここには現在

 te・to・te

 という、なんともハイカラな名前の会社が立ちあがっていまして、そこに勤務しているテトテ集落のお婆さん達が服の作成作業を行ってくれていまして、コンビニおもてなしの制服も全てここで作成してもらっている次第なんです。

 最近で言えば、マキモ10人姉妹のみんなを一斉に採寸してもらったりしましたね。


 そんなわけで先日、コンビニおもてなし1号で訪問販売にお邪魔した際に採寸してもらったんですけど、

「まぁまぁ、あんなに小さかったパラナミオちゃんが」
「学校を卒業して、就職ですの」
「本当に、感慨深いですわぁ」

 と、いった具合でですね……テトテ集落中のみなさんが、採寸しているパラナミオの姿を一目みようと作業場に集合してこられた次第でして……

 最後には、みんなに胴上げまでされていたパラナミオ。

「それ! パパさんもやるぞ!」
「「「おー!」」」
 そんな感じで、いつの間にか、僕までパラナミオと一緒に胴上げされてしまったあの日の事を、今でもしっかり思い出せるわけなんですよね。


「お、テトテ集落から制服が届いたんだね。すごく似合っているよ」
 僕が笑顔でそう言うと、パラナミオは僕の前で嬉しそうに笑いながらくるくる回転しています。
「えへへ、私専用の制服です。すごく嬉しいです」
 僕の言葉に、いまだ笑顔のパラナミオ。
「明日からは、魔王ビナスさんの新人研修を受けるんだったね」
「はい、他のみなさんと一緒です! 頑張ります」
「うん、しっかりやるんだよ」
「はい!」

 僕がそう言ってパラナミオの頭を撫でてあげると、パラナミオはその笑顔をさらに倍加させていた次第です。

 その笑顔が伝染して、僕まで思わず微笑んでしまっていたんです。
 うん、パラナミオの笑顔はみんなにパワーをくれますね、ホント。

 あ、ちなみに……

 今、パラナミオが
『他のみなさんと一緒』
 って、言ってましたけど、そのみなさんっていうのは……はい、ウルムナギからウルムナギ又に進化して、やっと人の姿になることが出来た、ウルムナギ又四人娘のみんななんですよね……

 すでに、研修がはじまって10ヶ月近くが経とうとしているわけですが……みんな、一生懸命研修を受けているのですが、

「……なんでこうなってしまうのでしょうねぇ……ふぅ」
 
 と、新人研修係をしてくださっている本店副店長の魔王ビナスさんが困惑しきりといった表情をその顔に浮かべながら首をひねりまくるほどなんですよね……

 ……彼女達も、どうにかその努力が報われてほしいものです、はい……

◇◇

 ちなみに、パラナミオと一緒にリョータ・アルト・ムツキの3人も研修を受けることになっています。
 
 と、いいますのも……

 今年もコンビニおもてなしはどこかの都市でイベントがあれば積極的に参加する方針を固めていますので、その際の緊急対応要員になれるように、と、思った次第なんですよ。

 僕的には、3人はもっと後でも、と、思ったんですけど、

「パパ! 僕もパパのお手伝いを出来るように準備しておきたいです!」
「私、アルトも強くそう思っておりますわ」
「ムツキもにゃしぃ!」

 そう、強く申し出て来たもんですから、スアとも相談した結果、パラナミオと一緒に研修を受けてもらうことにしたわけなんです。

 ……しかしあれですね

 僕が元いた世界でコンビニおもてなしを経営していた頃は……その比の売り上げを維持するのに必死で、女性とお付き合いさせていただく時間なんて全く考えられなかった僕がですね、

 スアのような可愛い奥さんをもらい

 パラナミオを養子に迎え

 さらにリョータ・アルト・ムツキと、3人の子宝にも恵まれて

 しかも、そんな子供達と一緒に働ける

「あぁ……なんか、感無量だなぁ……」
 魔王ビナスさんから研修に先立っての注意事項を、横一列に並んで聞いているパラナミオ達4人の後ろ姿を見つめながら、僕は思わず目頭が熱くなるのを感じていました。

◇◇

「いらっしゃいませ!」
 
 胸に『パラナミオ タクラ』の名札がついた制服を着ているパラナミオの元気な挨拶がコンビニおもてなし本店内に響いています。

 今まで何度もお手伝いをこなしてくれていたパラナミオは、
「すでに基礎的な事はしっかり身についていますので、実地訓練からはじめましょうね」
 という、魔王ビナスさんの方針で、早速本店で接客作業を開始したパラナミオ。

 学校の方も、最終学年の生徒は、あとは卒業式を待つばかりでして登校しなくてもよくなっているんです。

 そんなパラナミオが卒業する学校に、入れ替わるようにして今度はリョータ達が入学するわけです。

 僕が元いた世界のような学校ではなく、協会が運営しているこの世界の学校では、いわゆる「読み・書き・そろばん」的なことに加えて「一般道徳」的なことを中心に教えてくれています。

 特に、道徳に関しては徹底していまして、

 ・人にしてはいけないこと
 ・社会人になったらすべきこと・守るべき事

 なんていったことを、懇切丁寧に教えてくれているんです。
 
 ナカンコンベにある大きな学校に行けば、もっと本格的な学校に通えば、もっとしっかりとした勉強を教えてもらえるんですけど、そういった学校って、ほとんど人種族の子供さんしか通ってないんですよね。
 亜人種族の子供さんは、それこそ一握りしかいないわけです。

 これも、人種族至上主義を教義にしているボブルなんとかっていう宗教のせいらしいんですけど、まぁ、そんなわけで、亜人種族の子供さんがいっぱい通っている、ここガタコンベにある小さな学校を選んでいる次第です、はい。

 こうして、学校を卒業して、働き始めるパラナミオ。

 なんか、感慨深いですねぇ……
 
 そんな事を考えながら目頭を熱くしていると、いつの間にか、地下倉庫の冷却作業をしてくれていたスアの使い魔のユキメノームとシオンガンタまで僕の後ろにやってきていまして、僕同様に目頭を押さえていた次第なんですよ。

 パラナミオは、この2人とも仲良しですからねぇ

 そんなわけで、僕達3人は、元気な声をあげながら頑張っているパラナミオの姿に、しばらく魅入っていた次第です、はい。

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