コンビニおもてなしのNEW その2
真新しい制服に身を包んでいるパラナミオが、せっせと店内の掃除をしています。
コンビニおもてなしで働けることが決まって、嬉しくて仕方ないんでしょうね。
その顔からは笑顔がこぼれ落ちそうです。
そんなパラナミオの様子を、ぽややんとした笑顔で見つめていた僕なのですが……
「やぁやぁやぁ、お久しぶりですねぇ」
そう言ってコンビニおもてなし本店にやってきたのは、ドンタコスゥコ商会のドンタコスゥコでした。
いつもの、茶色に赤や黄色のラインが入っているポンチョですっぽりと体を覆っているドンタコスゥコは、ニコニコ笑いながらボクのもとへと歩みよってきました。
「わざわざこっちまで、どうしたんだい? ナカンコンベにある5号店東店のシャルンエッセンスに一言言ってくれればすぐに駆けつけたのに」
そうなんです。
ドンタコスゥコ商会の本店は、ここコンビニおもてなしの本店があります辺境都市ガタコンベよりもかなり西にある、この一帯でが最大の都市、辺境都市ナカンコンベにありまして、コンビニおもてなし5号店東店の真正面にあるんです。
「いやぁ、そうしようかとも思っていたのですがねぇ、ちょいと野暮用でこちらに出向く便があったものでございますので、そのついでとして寄らせていただいた次第なんですよねぇ」
応接室に案内すると、ふぅ、と大きなため息をつくドンタコスゥコ。
いつも元気の塊のような彼女ですが、最近は何かと忙しそうにしていましたからね。
どうやら少しお疲れみたいです。
「実はですねぇ、ちょっとお誘いに来たんですよねぇ」
「お誘い?」
「はいですねぇ、店長さんは商業都市ホープの話はご存じですかねぇ?」
「商業都市ホープ?……」
はて?……聞いたことがありません。
僕が首をひねっていると、ドンタコスゥコは
「あぁ、知らなくてもしょうがないかもですので、お気になさらずにですよねぇ」
そう言いながら、机上に一枚の地図を広げていきました。
「あぁ、これならわかるよ、王都とその近辺の地図だね」
「はいです。それで……」
僕の言葉に頷くと、ドンタコスゥコは地図の真ん中に大きく記載されている王都の下、つまり南ですね。
その一角を指さしました。
「なんだいそこは? 見たところ砂漠のど真ん中のようだけど……」
「はいですねぇ。この砂漠の中に最近商業都市ホープが建設されたんですよねぇ」
「へぇ、そうなんだ」
「ここは商業都市ホープの南東にあります辺境都市リバティコンベの管轄地になるんですけどねぇ、王都への定期魔道船の発着場を中心にした商業都市なんですよねぇ。実はドンタコスゥコ商会もここに出店しているんですよねぇ」
「リバティコンベっていうと、あの温泉集落や地下迷宮とかがあるところかい?」
「はい、そうなんですよねぇ」
「そうか、僕達以外にも定期魔道船を運行している人がいるって聞いてたけど、あのリバティコンベだったのか」
あそこの領主さん……確かゴセージさんっていったっけ……いや、まてよ、サファテさんだったかな?
とりあえず何度か挨拶をしたはずだし、ひょっとしたら覚えてくれてるかもしれないな。
ぼくがそんなことを考えていると、ドンタコスゥコがずいっと身を乗り出してきました。
「どうですかねぇ? コンビニおもてなしさんもこの商業都市ホープに出店してみようとは思いませんかねぇ?」
「え?」
ドンタコスゥコの言葉に、僕は思わず目を丸くしました。
「出店……って、こ、この王都に近くて定期魔道船というこの世界最高級の交通網まで整備されている……いわば一等地と言っても過言じゃない、この商業都市ホープに、かい?」
「はいですねぇ。すでに第一期の募集は終了しているのですがねぇ。近日中に第二期工事が完成して、そこの入居者募集がはじまる予定なのですがねぇ。一気入居者の推薦があると優遇されるんですけど、如何かと思った次第なんですよねぇ」
「へぇ、そうなんだ」
「この商業都市ホープに、辺境都市ナカンコンベから出店しているのは現在、わがドンタコスゥコ商会だけなのですがねぇ、色々懇意にさせていただいておりますコンビニおもてなしさんが同じ都市の中に出店してくださいますと、我々といたしましても何かと助かるといいますか、心強いといいますか、ねぇ……って、このお茶、美味しいですねぇ」
「あぁ、そのお茶は最近スアが商品用に調合してくれたカゲタケブレンド茶っていうんだ。体にいいっていわれているカゲタケの栽培をスアの使い魔の森で始めててね、それを使った商品を、今、あれこれ考案してるとこなんだよ」
「なるほど……これは、いけそうですねぇ。ぜひともドンタコスゥコ商会として仕入をさせて頂きたいですねぇ」
「増産体制が整ったら優先的に回させてもらうよ。後は、おもてなし商会のファラさんとしっかり相談してもらえるかな?」
「うぐ……や、やはりそうなりますかねぇ……」
ファラさんの名前が出るなり、ドンタコスゥコは苦渋の表情をその顔に浮かべました。
仕入れ人のドンタコスゥコにとって、コンビニおもてなしの商品の販売窓口として君臨しているファラさんは、いわば天敵のような存在ですからねぇ……まぁ、そうはいっても、これもコンビニおもてなしの商品を卸売りする際の決まりというか、仕組みですので、
「まぁ、そこはよろしく頼むよ」
僕が、苦笑しながらそう言うと、ドンタコスゥコも
「はいですねぇ。そこはよくわかっておりますですねぇ」
そう言いながら苦笑を返してくれました。
◇◇
その後、しばらく会話を交わした後、
『では、別の約束がありますよって、今日はここでお暇しますですねぇ』
そう言って、ドンタコスゥコは辺境都市ガタコンベを後にしていきました。
商業都市ホープへ出店するかどうかの返事は、近日中に辺境都市ナカンコンベにありますドンタコスゥコ商会の本店に伝えてほしいとのことです。
すでに正式な申し込み書類はもらったのですが……結構分厚いですね。
これを読むだけでも2,3日かかってしまいそうです。
僕の場合、説明書をまずしっかり読み込んでからでないと、その製品を使用しようとしない人なもんですから、説明書がどんなに分厚くても熟読するのが常といいますか……
あの携帯電話の無駄に分厚い説明書も機種変更する度に全部読み込んでいたほどですので……
「まぁ、しかし……悪い話じゃないのかもな……」
コンビニおもてなしとしても、いつかは王都に支店を……なんて考えていたのも、まぁ、事実なわけです。
その話を、ドンタコスゥコが持ってきてくれたのも何かの縁なのかもしれません。
「とりあえず、明後日のコンビニおもてなし責任者会議でみんなの意見を……っと、その前に店舗検討部門のブリリアンに相談しないといけないな」
僕が一度資料をですね、コンビニおもてなし本店の真裏にあります僕の家、巨木の家へ運ぼうとした、まさにその時でした。
「店長さん、お久しぶりですです」
そう言ってコンビニおもてなし本店の中に入って来たのは、商店街組合の蟻人、エレエでした。
エレエは、僕がこの世界にやってきた時の、ガタコンベ商店街組合の組合長をしていた蟻人さんでして、こっちの世界にやってきて右も左もわかっていなかった僕のためにあれこれ便宜を図ってくれた蟻人さんなんですよね。
今は、別の都市の商店街組合の組合長として転勤していっていたのですが、
「やぁエレエ。久しぶりだね。何か用事かい?」
「はいなんですです。実はタクラ店長さんに折り入ってお願いがあってお邪魔した次第なんですです」
「僕に出来ることなら、喜んで協力させてもらうよ」
僕が笑顔でそう言うと、エレエも笑顔を浮かべました。
「心強いお返事感謝ですです。実は私、今度、リクナスさんという方が領主を努めておられます辺境都市ウリナコンベに、新たに設置されますウリナコンベ商店街組合の組合長として赴任することになったのですですが、そのウリナコンベに、コンビニおもてなしさんの支店を出してもらえないかと思って、こうしてご相談にこさせていただいた次第なんですです」
「え?」
エレエの言葉に、僕は思わず目をまるくしてしまいました。
1日の間に、2件も新規出店のお誘いがくるなんて……