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要塞の中の塀の壁は高く積み上げられており。どんな男でも塀の壁には簡単には、のぼれないようなになっていた。さらに塀の周りには、鋭い有刺鉄線が張り巡らされており。脱獄防止の罠があちこちに仕掛けられていた。
看守達は一ヶ所に集まると、そこで皆で騒ぎたった。本当に囚人がこの吹雪の中を脱走したのか? 男達はそこで疑心感にかられずには居られなかった。タルタロスの門は固く閉ざされており、誰かが鍵をこじ開けた形跡も何一つ見あたらなかったのだった。ましてや巨大な門を男1人の力では、開ける事は絶対に不可能に近かった。まるで狐につままれたような話に看守達はそこで騒ぎたった。看守の1人が、不意に違う看守の男に尋ねた。
「おい、タルタロスの中はちゃんと探したのか……!?」
男の質問に違う看守の男がこたえた。
「ああ、みたさ……! それこそネズミが居そうなところも全部見て回った! おかげで俺はあの中で迷子になりかけそうになった! 今も中で他の看守達が、逃げた囚人の捜索にあたっている! 俺達は外の捜索の任務に戻ろう……!」
1人の看守は凍てつく吹雪の中をタイマツを片手に持ちながら仲間達に向かってそう言って話した。外は吹雪に覆われており。相変わらず身を切るような凍てつく寒さが、男達を容赦なく襲った。そんな寒い中を彼らはタイマツを片手に逃げた囚人の捜索にあたっていたのだった。時間が経つにつれて吹雪は止まずに、空は夜の世界へと徐々に変わる。そんな状況の中を看守達は、焦りの色を隠せなかった。そして、身を切るような寒さにガタガタと体と口元を震わせながらジッと外の凍てつく寒さに耐えた。
誰が予測したのだろうか、こんなシナリオを――?
彼らの頭の中にはもはや囚人が何故、脱獄したかと言う疑問よりも、逃げた囚人に対して"もし"本当に外に逃げたのなら、あわよくばこの寒さの中、死んでくれと強く願った。いや、そう願ずにはいられなかったのが彼らの本音だった。暗闇に沈んでいく中、何処からか狼の遠吠えが不気味に聞こえて来た。その遠吠えがより一層辺りを不気味に感じさせた。看守の男達は何処からか聞こえてくる狼の遠吠えに身を震わせながらも捜索を続けたのだった。
――男達は外で永遠と逃げた囚人の捜索に未だにあたっていた。あまりの寒さに身体さえも段々と冷えきってしまい、うまく動かなくなっていく。そして、手は手袋をつけていても指先の感覚を失ってしまう程の冷たい手になっていた。吹雪は激しく吹き荒れ、大地を嵐のように白く染めていく。日は無情にも徐々に落ちていった。そんな中を男達は焦りが徐々に募りながらもあちこちを見て回った。そして、あまりの寒さに我慢出来なくなった1人の看守が突如キレだすと、そこで愚痴をこぼし始めた。
「クソッ……! ちくしょう……! くそったれ、逃げた囚人は一体どうやって牢屋から逃げたんだ…――!」
彼はそう言うと舌打ちをせずにはいられなかった。そして、1人立ち止まって休んでいると、他の看守が直ぐに注意をした。
「おいお前、1人で休んでる暇があるなら探せ!」
「うるせー! お前に言われなくても今探してるだろっ!?」
2人はその場で感情を剥き出すと理性を失い、取っ組み合いの喧嘩を始めた。吹雪の中で看守同士で激しく殴り合いを始めると、彼らの殴り合いの喧嘩に他の看守達や、上官が騒ぎを聞きつけて、間に入るなり2人を引き離して喧嘩をやめさせた。
「おい、いい加減にしろ! お前達は今すぐに自分達の持ち場に戻れ!」
現場を仕切っていた上官の男がそう言って2人の間に入って仲裁すると、そこで喧嘩をやめさせたのだった。すると彼らのもとに誰かが慌てて駆け足で入ってきた。
「たっ、大変だ……! 大変だぞ……! おっ、オーチスの奴が囚人を逃がした疑いで拷問部屋で拷問をかけられている……!」
「なっ、なにっ……!? オーチスが拷問をかけられているだって!?」
彼らはその言葉に驚愕すると、そこで一斉に騒ぎ始めた。
「おい、オーチスってまさかあのオーチスか……?」
「そう言えばさっきらあいつの姿が見えないと思っていたが、まさかあいつらに拷問をかけられているなんて……!」
1人の看守はそう言うと残念そうな顔をしたのだった。
「ほっ、本当にそれはオーチスだったのか……!? お前の見間違えじゃないのか……!?」
別の看守がそう尋ねると、中から慌てて出てきた看守の男が血相をかいて答えた。
「ああ、間違えねぇよ! あれはまさにオーチスだった! あいつらに拷問部屋に連れて行かれる所を俺は偶然この目で見たんだ……!」
「何っ……!?」
「そ、それに中からは、恐ろしい程の尋常じゃないくらいのうめき声をアイツはあげていた……!」
彼は真っ青な表情でそう言うと、強風からか、自分の体を小刻みにガタガタと震わせたのだった。その言葉を聞いただけでも、中でどんな悲惨なことが行われていたかを誰もが想像できた。全員は大きな衝撃を受けると、吹雪の中で静寂に溶け込むように急に黙り込んだのだった。
彼らは何故オーチスがと言う大きな疑問にかられていた。看守達の中でも、出来れば嘘であって欲しいと願う者もいた。疑問は新たな疑問を呼び、空虚の空の彼方へと消える。本当の真実は今だ闇の中だった――。