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 まもなくしてケイバーが出勤簿と報告書が一つに纏めてあるファイルを持って現れた。

「おい、言われた通りもってきたぜ!」

 ケイバーはそう話すと二つの本を手渡した。クロビスはそれを持つと、椅子に座った。優雅に足を組んで座ると、彼はそれを早速読んだ。

「――さてと、オーチス。お前が昨日、本当に出勤したか確認しようじゃないか? まっ、お前は精々そこで神に祈ってるがいい」

 クロビスはオーチスに冷たくそう話すと、出勤簿を開いた。冷たくはりつめる部屋の中に緊張が走る。クロビスは出勤簿を開くと、オーチスの名前だけを探して確認した。そして、彼の名前を確認すると一言話した。

「……確かに昨日は出勤しているな。どうだ、その椅子に座ってるい気分は? まだ生きてる居心地はするか?」

 彼の質問にオーチスは黙ったまま、顔から汗をかいた。自分が生きるか死ぬかの瀬戸際に、彼はその問いかけに返事をする余裕すらなかった。クロビスは出勤簿を見ながら、オーチスが昨日どこに配属されていたかをくまなく調べた――。

「お前は昨日は東の塔を担当してたのか? 東の塔だと確かに逃げた囚人の棟とは、反対側の棟になるな……すると、チェスターの話しに矛盾が出る。この矛盾は一体なんだ?」

 彼がそう言うと黙っていたチェスターが横から口を挟んだ。

「クロビス様、自分は嘘はついてません! 自分は昨日は逃げた囚人のエリアを担当して見回っていましたが、自分はこの目で彼が牢屋の前で囚人と話している所を見ました!」

 チェスターはそう言って強く断言すると、自分は絶対見たと最後まで主張し続けた。そして、オーチスが脱獄に加担していると彼はキッパリと言ったのだった。さらにチェスターは自分は彼に脱獄の話を尋ねたら、オーチスに首を絞められて脅された事実も話した。チェスターは囚人が今日、脱走した事実が何よりの証拠だとクロビスに話すと、その上で自分は死にたくないと哀れに訴えた。

 オーチスはチェスターの証言に怒りを感じると、その後すぐに反論した。彼も死の瀬戸際に立たされており、感情を剥き出しにしたまま反論した。オーチスは拘束された椅子の上で、自分の身の潔白を必死で訴え続けた。自分は逃げた囚人とは一切関わっていない事や、囚人の脱獄に加担していない事も、そして、逃げた囚人と会話さえした事もないことや、ましてや囚人を脱獄させようと、計画を企てた覚えもないと、オーチスは証言して訴えたのだ。何より昨日は自分は東の塔を担当していて逃げた囚人がいる塔には昨日は一切、立ち寄っていないとクロビスに訴えたのだった。

 2人はお互いに自分の命が懸かっているだけにあり。どちらとも迫真に迫る言葉を言うと、自分は無実でやっていない、知らないと、身の潔白を必死で訴えたのだった。

「私にはわかるぞ、お前は私を嵌めようとしているのだ! 上司である私を憎んで、貶めようとしてこんな小細工をしたのか!? 私は知っているんだぞ! お前は前から私のことを鬱陶しいと思っていることもな! 憎い上司が消えて満足か!? どうだ言ってみろチェスター!」
 
 オーチスが激怒しながらそう言い放つと、チェスターは自分の上司である男にたった今、失望したと強気な態度で言い返したのだった。

「生意気な小僧だ! 新米だから今まで優遇していたが、私こそお前に失望したぞ!」

 2人が激しく言い争うと、クロビスはそこでクスッと微笑を浮かべて鼻で笑った。

「――そうだ"失望″だ。私はなオーチス、たった今お前に失望したぞ!」

 クロビスは彼にそう話すと、急に声を荒らげて怒鳴り散らしたのだった。彼は出勤簿の他に昨日の報告書をくまなく読んだのだ。そして、ある事実をクロビスは知った。まるでパズルの断片が組み合わされたかのようにそこで突如、高笑いをした。

「オーチスお前は昨日、逃げた囚人がいる塔には行っていないと言ったな?」

「はい! 私は昨日は一切あの塔には立ち入ってません! 私の報告書をご覧下されば解るはずです!」

 オーチスは真っ直ぐにそう答えた。しかし、クロビスは肩をふるわせて笑うと彼の目の前に報告書をバッと見せた。

「貴様、これをよく見ろ! これを見てもう一度、私に今の言葉を言って見るがいい!」

 突きつけられた報告書を見せられると、オーチスはその場で驚愕した。

『なっ、なんだこれは……!?』

『そんな、馬鹿なっ……!』

 書かれている報告書を見ると、唖然となって声をはりあげた。

――一方その頃、リオファーレは他の看守と共に逃げた囚人の捜索の任務にあたっていた。外は極寒の大地だけにあり、雪吹雪も凄く視界も悪かった。空気は凍てつくように冷たく、肌を切り裂く程の冷たい冷気と空気が辺りに漂っていた。男達はそんな雪吹雪の中をタイマツを片手に逃げた囚人の捜索にあたった。看守達は凍える寒さに弱音を吐きながら、逃げた囚人を探し続けた。

「そっちは居たかー!?」

「いや、いなーい!」

「こっちもだ!」

「そっちはどうだー!?」

 看守達は冷たい息を口から吐きながら、一端そこに集まった。

「凍えそうだ……! 早く戻ろう……!」

「ああ、このままでは俺達が凍えちまうぜ……!」

 男達は体をガチガチと震わせながらタルタロスの要塞の外を松明を片手に見て回ったのだった。

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