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「……恐らくあの牢屋の中にあります。自分は囚人が彼から受け取った紙を部屋の中に隠した所をこの目で見ました」
チェスターがそう話すと、クロビスは不意に質問した。
「――お前は何故それを知っていて黙っていた? この私に報告するのが、義務だということを忘れたか?」
クロビスがそう言うと、チェスターは顔を青ざめながら質問に答えた。
「おっ、俺だってまさかと思ったんです! まさかオーチスさんがあんなことをするなんて思ってもなかったんで動揺したんです! オーチスさんは、俺の上司だったんで、まさかあんなことをするなんて今でも信じられなくて……!」
チェスターがそう答えると、クロビスは目を細目ながら話した。
「だから黙っていたわけか?」
「……」
クロビスが呆れながらそう話すと、チェスターは急に黙りこんだのだった。
「正直に答えろ、その話をしていたのはいつだ?」
クロビスがそう尋ねると、チェスターは小さく答えた。
「……昨日です」
チェスターがそう言って答えると、クロビスは呆れた顔で警棒を手の平の上でトントンとさせた。
「……ここまでくると怒りを通り越して呆れるな。つまりお前は前日に計画を知っときながら、みすみす黙っていたわけか? 私を誰だと思ってる。私はタルタロスの所長の息子だぞ? 随分と私も舐められたものだな。なぁ、お前達?」
クロビスがそう話すと3人の看守達は一斉に相槌をした。
「使えねー看守にはもう用はねぇ! クロビス、こいつもやっちまおうぜ!」
ケイバーはそう言うと、背後からチェスターを羽交い締めにして見せた。その光景をジャントゥーユはニタニタしながら側で笑って見ていた。チェスターは、必死にクロビスに謝った。
「す、すみませんでした……! どうかお許し下さい! どうか命だけは助けて下さい! おっ、お願いします……!」
チェスターは自分の身にふりかかる恐怖に震え上がると、その場で立ったまま漏らしたのだった。彼が恐怖のあまりに尿を漏らすと、クロビスは呆れて舌打ちをしたのだった。
「チッ……!」
チェスターは恐怖に脅えながら話を続けた。
「俺はその真実を確かめるために今日、脱走した囚人の牢屋に行き。紙になんて書いてあるかを確かめようとしたんです……! でも…でも…! メモを確認する前に囚人は既に牢屋を脱走していて、本当に囚人が脱走したなんて俺は思ってもいなかったんで動揺したんです!」
『わああああああああああああーーっ!』
彼は床に崩れ落ちると両手をついて大人げなく泣き出した。そして、死にたくないと喚いて泣いた。クロビスは怒りを剥き出すと、床に両手をついて泣くチェスターの手を黒いブーツでギリッと踏みつけた。
「ええい、もう泣き言は沢山だ! お前達は逃げた囚人の牢屋に行き、オーチスが囚人に渡したと言っているその紙切れを今から探して来い!」
クロビスが怒り口調でそう命令すると、ギュータスとジャントゥーユは2人して拷問部屋を行った。そして、逃げた囚人がいた牢屋へと急いで向かった。怒りを露にしながらクロビスはオーチスの目の前に立つと、上から威圧的な態度で見下ろした。
「そう言えばお前は昨日はどうした。出勤したのか? どうなんだ? この際だハッキリと言え!」
彼の質問にオーチスは出勤したと答えたが、自分は囚人の牢屋には昨日は行っていないと話した。
「フン、そんな証言は今さら当てにならん! 紙切れが見つかれば真実は明らかになるだけのことだ! ますます黒になってきたなオーチス! この私を騙そうとした罰は重いぞ!」
クロビスはオーチスにそう話すと、近くにいたケイバーに指示をだした。
「念のためだ。お前は今から管理室に行き、昨日の出勤簿と、報告書が一つに纏めてあるファイルをただちに持って来い!」
彼の命令にケイバーは了解と一言いって頷くと、後ろ向きで軽く手を振るなり部屋をそそくさと出て行った。不穏な空気が流れる一室には、はりつめた空気が漂っていた。オーチスは椅子の上で身の潔白を訴えた。
「私は絶対やっていない!」
彼は最後の最後まで自分は無実だと、やっていないと、頑なに主張し続けた。クロビスはそんな彼を上から見下ろすとオーチスに対して冷酷な眼差しで話した。
「フン、いまさら命乞いかオーチス? 散々この私を騙しておいて……! 私も随分とお前に舐められたものじゃないか? 少し買いかぶり過ぎたようだな。父の信頼と私の信頼さえも裏切って満足か? 天津さえ、囚人を密かに脱獄させる計画をくわでていたとは正直恐れいったよ。ま、最初から私はお前を信じていなかったがな…――」
クロビスはそう話すと、自分の鼻をフンと言わせた。
「お前が椅子の上でどんなにあがいても、真実は今から明らかになる。お前が白か黒かそれを見ればどのみち解ることだ。ケイバーには、昨日の出勤簿と報告書をもってくるように指示を出した。お前はせいぜいそこで天の神に祈ることだ。そう、この世界では神は無慈悲な存在だ。お前もあとで、その意味を知ることになるだろう。何せこの私が"昔"そうだったからな」
そういうと意味深な笑いをくすりと浮かべたのだった。彼の瞳には暗い闇だけが其処に存在した。
「今はお前にとって私が神だ! 避けられぬ運命は必ずある。今がまさにその時だなオーチス!」
クロビスが冷たい眼差しでそう話すと、オーチスは黙って肩を小刻みに震わせた。そして、針積めた重たい空気は、彼の心と精神を徐々に煽ったのだった。
「お前はこの言葉を知っているか?」
「to be, or not to be. That is the question.」
「ウィリアム・シェイクスピアの言葉。生きるか死ぬかそれが疑問だとい名言があるが、お前はどっちだ? この過酷な運命にじっと耐えるべきか、それとも抗い、終息させるべきか? お前が座っている椅子はまさに死刑台と言ったところか? 自分でまいた種だ。それなりのフィナーレを最後、みせてもらおうじゃないか――?」
クロビスは意味深にそう話すと、彼の目の前で冷酷な微笑の笑みを浮かべたのだった。彼の冷酷な瞳を見たオ-チスは、心の中で呟いた。
″この悪魔め……!″