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そこにいた誰もがオーチスの安否を気にかけていた。
「本当にオーチスが囚人を逃がしたのか……?」
1人の男が仲間に問いかけた。すると、違う看守の男がそのことを否定した。
「ウソだ! 俺は信じないぞ! アイツは俺達の仲間じゃないか! オーチスはそんなことは絶対にしない奴だ!」
そう言って否定すると違う看守の男が、オーチスのことを疑って話した。
「――いや、それはどうかな……。アイツは逃げた囚人が居たエリアの担当をしていた。少なからずアイツが脱獄に加担していてもおかしくない話だ……!」
彼はそう言うとタイマツを持ちながら、自分の体を小刻みに震わせた。1人の看守がそう言って彼を疑うと、違う看守達も同じく頷いたのだった。
「オーチスは俺達を裏切ったんだ! ひょっとしたらアイツはどこかのスパイかもしれない! きっとここに潜入する為に看守になりすまして、潜り込んだにちげぇねー! くそっ! オーチスの野郎、仲間の俺達をまんまとだましやがって絶対に許さねぇぞ!」
怒りを露らにしながらそう言うと、持っているタイマツを雪の地面に叩きつけて怒りを剥き出した。看守達は外で騒ぐと、一部の男達は仲間のオーチスに裏切られたと殺気だった。もはや一つの小石が水の中で波紋を描くように、事態はさらに悪化の一歩を辿った。
「そう言えばあそこのエリアは、オーチスの他に新米の若い看守も一緒に担当していただろ? 名前はそう、確かチェスターって言う男だ! そいつなら何か知っているかも知れない……! 誰かチェスターが何処にいるか知っているか!? 俺がそいつに直接、話を聞いてくる!」
1人の看守がそう言うと中から出てきた看守が釘を刺すように答えた。
「その男ならさっきクロビス様に呼ばれて拷問部屋に行った……!」
中から出てきた看守がそのことを言うと、周りは騒然となった。
「何故だ!? ひょっとしてあいつもグルなのか………!?」
違う看守の男が横から口を挟むと、中から出てきた男は自分が知っていることを全て話した。
「俺が拷問部屋の扉の前で聞いた話しは、オーチスが囚人を逃がす計画を企てていたことをアイツは知っていたらしい……! アイツがクロビス様にそう言ってた話を俺は扉の前でこっそりと聞いたんだ……!」
中から出てきた男が皆の前でそのことを話すと、再び周りはざわつき始めた。オーチスを信じている男は皆の前で話した。
「俺は今から直接抗議しに行こうと思う! オーチスはそんなヤツじゃないって言って来る!」
彼はそう言って話すと今にも抗議しに行きそうな雰囲気だった。するとそこにいた複数の看守が、彼をその場で慌てて取り押さえた。
「やめとけ、お前も死ぬぞっ!? お前はアイツ等の怖さを知らないようだ……! アイツ等は命を奪う事になんの躊躇いも迷いも抵抗感すらない非道な連中達だ! お前までアイツ等に殺されるぞ!?」
後ろから取り押さえた中年の男が思わずそのことを話した。
「話がまともに通じる相手じゃないんだ! 命を無駄に粗末にするな!」
中年の男がそう言うと、オーチスを信じていた男はそこで怖じ気づいて、急に大人しくなった。男はやり場のない怒りが込み上げると雪で埋まっている地面を拳でおもいっきり叩いたのだった。
『クソォォォッッ!』
仲間を救えないもどかしさにその場でやりきれなくなると、男は雪吹雪きが舞う中で悔しい声を上げて叫んだのだった。男達が騒いでるとリオファーレが不意に現れた。
「一体なんの騒ぎだ!」
リオファーレの登場に其処で騒ぎたっていた看守達は一斉に静まり返った。そして、彼らをみるなり凛とした口調で話した。
「お前達、其処で何をしている。逃げた囚人は見つかったのか?」
彼そうが尋ねると1人の看守が答えた。
「いえ、まだ捜索中です……!」
男の顔色に気がついたリオファーレはその場で問いただした。
「お前達そこに集まって一体、何の話をしていたんだ?」
彼がそのことを尋ねると、1人の看守が逆に尋ねた。
「あっ……あの……! リオファーレ様に聞きたい事があります……!」
彼はそう言うと、自分の頭に被っているフードを肩に下ろした。男の畏まったその様子にリオファーレは、凛とした口調で話した。
「なんだ?」
切れ長の目に鋭い視線が男に向けられた。まるで威圧感さえ感じてしまう程の雰囲気だった。男は自分に向けられた視線におもわず息をのんで緊張した。彼は一瞬、そこで尋ねようか迷った。側にいた違う看守が横から口を挟んで、止めたほうがいいと言うと彼は意を決してリオファーレに尋ねたのだった。
「リオファーレ様にお尋ねたしたいことがあります……! 我々の仲間の1人が、さき程から姿が見当たりません……! 中から出てきた看守の話によれば、彼が罪人を逃がした容疑で拷問部屋で拷問を受けているとの話です……! その話は本当でしょうか……!?」
「何……!?」
その話しに彼は眉を細めた。
「リオファーレ様なら、何か知っているかも知れないと思い聞いてみました……!」
男はそう話すと最後に改まって一礼をしたのだった。その話にリオファーレはそこで驚愕した。
「何だと、その話は本当か……!?」
リオファーレは男の話しを聞くや否や、ようやく事態をのみこんだ。周りにいた看守達も自分達も彼らに拷問されるんじゃないかという恐怖心が半ば渦巻いたのだった。雪が吹き荒れる中、男達は無言で吹雪の中を立ち止まっていた。時たま松明が燃える音が静寂の中で歪な音をたてていた。シンと静まり返る中でリオファーレは、中から出てきた看守に声をかけた。
「中から出てきた看守の男はお前か? それともお前か?」
1人ずつの顔を見ながらリオファーレはそう話した。すると端の方に居た男が恐る恐る手を上げたのだった。彼は怖じ気づきながら答えた。
「わっ、わたしです……!」
そう言って返事をすると、びくびくした態度でリオファーレの前に出てきた。