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その日、逃げた囚人の男は、とうとう見つかることはなかった。全ての部屋を看守全員が見回りして探しても男は見つからず、まるで雲隠れするような奇妙な事態だった。クロビスは椅子に座ると、机の上にあった書類を片手で払った。
バサッ!
はたかれた書類が辺り一面に舞い上がり、はらはらと床に落ちた。
バンッ!
クロビスは拳で机を思いきり叩くと、怒りをぶつけて怒鳴った。
『なぜ見つからない……!? こんなにさがしても見つからないのは、一体どう言う事だ……!』
彼がそう言うのも無理はなかった。要塞のようなタルタロスの牢獄は、外から簡単には侵入できない作りになっていた。中からも簡単には脱走は出来ない迷宮のような造りでもある。長年ここで勤めている看守ですら、たまに道に迷ってしまうような複雑な構造になっていた。さらに一ヶ所だけ重要な扉には、クロビスにしか開けれない扉があった。そこを突破しなくては恐らく外から抜け出すのは無理な話だった。クロビスの中では、直ぐに見つかると思っていた。だが、日が落ちて夜になっても見つからない不足の事態にクロビスは、自分の爪をギリギリと噛んだのだった。
クロビスは怒りに満ちると、自分の部屋に飾ってある装飾品を手当たり次第に壊し始めた。そして、部屋をメチャクチャに荒らすと呟いた。
「ええい、この失態どうしてくれようか!? これでは私が親父に殺される……! ひょっとしらアイツはどこかの回し者かもしれない……!」
彼は立ちながらブツブツと独り言を呟いた。そして、不意に何かを思いつくと他の看守を部屋に呼び寄せたのだった。そして、ギュータスとケイバーとジャントゥーユを自分の部屋に越させるように命令した。まもなくして3人は他の看守に呼ばれると彼の部屋に訪れた。ケイバーは部屋に入って早々に尋ねた。
「俺達を呼んで何の用だ。みつかったのかよクロビス――?」
ケイバーがそう言うと、クロビスは3人に命令した。
「さっきの看守に尋問を行う、お前達は拷問部屋にさきに行ってろ!」
クロビスがそう言うと3人は頷いて返事をした。
「拷問かぁ? へっ、久しぶりに腕が鳴るぜぇ……」
ギュータスはそう言うと狂気染みた笑い浮かべた。ジャントゥーユは、口からだらしないヨダレを垂らしながら話した。
「拷問……拷問……グヘヘヘ……俺、拷問……好きだ……! 叫び声聞きたい……早くやろう……!」
ジャントゥーユはそう言うと、誰よりもさきに拷問部屋へと向かって行った。その後をギュータスが追いかけに行った。